謎の戦士
アクジローにとって予想外であったブルーサファイア、彼女の怒りによる戦闘力上昇。それによりバベル陣営は予期せぬ苦戦を強いられることになった。
「ぐ、ぅおおおおおおおっ――!」
先ほどの銃弾の雨を浴び、火花を散らすほど満身創痍のガライオン。
彼は自身の腕、がらがら蛇の部分をブルーサファイアへ向ける。すると、その腕が彼女へ向けて伸びていく。
そしてサファイアに接近すると、その鋭利な牙で噛み砕こうとするが――。
「……いない、だと。どこに消え――」
蛇が噛みついた先には誰もいない。慌てて辺りを見渡すガライオン。しかし――。
「……ぐあぁぁぁぁぁ!」
――斬!
伸びきった蛇の胴体が絶ち斬られた。
そして、そこにはグレイブ状に変化したブルーコメットを振り抜いたサファイアの姿。
彼女は双銃形態だったブルーコメットを素早く変形させると、棒高跳びの要領でグレイブを地面に突き刺し、己の腕力だけで上空に移動して噛み付き攻撃を回避する。
その後、彼女は地面からグレイブを引き抜き、その力と、自身を回転させて遠心力を発生させて、その勢いのままガライオンの腕であるがらがら蛇を絶ち斬ったのだ。
「ぐ、ぅぅぅぅぅぅ……」
腕を絶ち斬られた痛みで膝をつくガライオン。斬られた切断面からは、血液。いや、オイルがどくどくと流れ出している。
それをなんとか無事な、獅子の腕で押さえ付けることで止血しようとしていたガライオン。
しかし、そんな彼の首を狙うようにサファイアの一撃が――。
『――させん!』
――首に叩き込まれる前に、アクジローがかばうように前に出る。そして、タマハガネを構えると受け止める。
ギチギチ、と金属同士が接触し鍔迫り合いとともに音を奏でる。だが、だからといってそれは双方の力が拮抗している訳ではなかった。
わずかに、本当にわずかではあるが、グレイブの刃がアクジローに近づいていく。
「…………っ! 大首領――!」
『来るな! 貴様はガライオンを連れて退け!』
アクジローの危機に救援しようと動くオニキス。しかし、それはアクジロー本人によって止められる。
ただでさえ三人掛かりで苦戦していたのだ。その状況でガライオンの無力化。その時点でもはや勝敗は決したといって良い。
ならば後は少しでも損害を少なく撤退するべきだ。
そして、三人の中でもっとも戦闘力が優れるのはアクジロー。それを本人も理解していることから、本来であればあり得ない、総大将が殿を勤める。という選択肢を選ばざるを得なかった。
……だが、殿を勤める、勤めない以前の問題に、強敵相手に他者と会話。という注意をそらすことをすべきではなかった。
――ふっ、とタマハガネから感じていた圧迫感。押されていた力がなくなる。
『……な、なに――!』
しかし、その感触が急だったため、いまだ押し出すように力を込めていたアクジローを盛大に体勢を崩す。
それでも体勢を立て直そうと踏み留まるアクジロー。だが、そんな彼の目には、既にサファイアから放たれた凶刃が迫って――。
『……南無三!』
迫る刃を見て、思わず目を瞑るアクジロー。
……しかし、いつまで経っても斬られた感触も、痛みも来ない。
そのことを不思議に思い、うっすらと目を開くアクジロー。
その眼前にはアクジローとサファイア。二人を分断するように立つ、外套を纏った人物が――。
「――やらせない!」
サファイアの刃を防ぐように拳を叩き付けている。しかも……。
『あの光……。サイキックエナジー、か……?』
謎の人物の拳。そこには緑色の光、レッドルビーが放つサイキックエナジーと同じような光が纏われていた。
バベルでもバルドルでもない。第三者の介入。それを観測していた両陣営は至急解析を行っていた。
そして、判明した結果を見て、歩夢は驚愕の声を上げる。
「……これは! ――エナジーの波長、レッドルビー。なぎさちゃんと同じ波長です!」
「……あり得ないわ!」
その報告を聞いた千草は悲鳴のような声を上げる。
そして、その瞳は戦場とは別のモニター。
「なぎささんは、まだあそこで寝てるのよ!」
救護室でいまだ眠りについている渚を確認する。
「……なら、まさか。バベルのクローン?」
バベルの科学力ならあり得そうなことを口にする歩夢。
同時刻、バベル基地で奈緒が哄笑を上げている。
「あっははははっ――! あり得ない、あり得ないよ! 何なんだい、あれは!」
笑いながら涙を流す奈緒。しかし、その瞳には憤怒の色が宿っている。なぜなら――。
「この私、奈緒さんはもとより、先代、あの御方すら完全には再現出来なかったレッドルビーの、あれの超能力を完全再現だって? いったい何者なんだい、あれは!」
自身にも、なにより敬愛している先代大首領にすら出来なかった偉業をまざまざと見せ付けられ、奈緒は狂ったように笑う。
そしてその戦士と相対しているサファイアは驚愕に目を見開く。
なぜなら、彼女は知っていたから。この手応えを、ブルーコメットを通して感じる衝撃を。
「なんで、貴女が……。なぎさ!」
それは、確かにバベル時代にレッドルビーと戦った、その時に感じた衝撃と同じで……。
そのことに動揺するサファイアを尻目に、戦士は。彼女は拳に力を込める。
そこには、自身の邪魔をするのであれば、何者であろうと打倒する。それだけの覚悟がこもっていた。