怒りの戦士
いつも冷静沈着な霞。ブルーサファイアが、感情も隠さずに怒り心頭なことに驚きを隠せないアクジロー。
あまりの驚きにボイスチェンジャーを起動するのを忘れて問いかけそうになるが、その寸前で気付き、慌てて起動しつつ、彼女へ問いかける。
『……これは驚いたな。いつも冷静な貴様らしくもない。それに……』
そう言いながらアクジローは辺りを見渡す。彼が最初から感じていた違和感。……レッドルビーが、相方である筈の彼女がいない。
『レッドルビーがいないようだが……。もしや、貴様一人で我らと戦おうと? 舐められたものだ』
そう、不快げに告げるアクジロー。しかし、彼の発言を聞いたサファイアは、それこそ逆鱗にでも触れられたかのごとく激昂する。
「貴方が、貴方たちがそれを言うの?! あの娘に、あんなひどいことをしておいて!」
『……なんの話だ?』
サファイアの激昂に、心当たりが全くない盛周、アクジローは思わず問いかける。
それを白々しく感じたのかは分からないが、サファイアは罪を突きつけるように糾弾する。
「なにを――! 貴方たちが教えたんでしょうに! あの娘に、先代の――! お父様たちの正体を!」
『まて、まてまてまて――。お父様? それよりも、先代大首領の正体を教えた? 我らが……? なんの話だ!』
「しらばっくれても無駄よ! あんな資料、バルドルに保管してなかった。どうやったか知らないけど、わざとあの娘に見つかるようにおいてたんでしょう?!」
完全に寝耳に水な情報を与えられ混乱するアクジロー。しかし、バルドル内部での行動というサファイアの証言を聞いて、下手人についてはなんとなく察することになった。
そのことに思わず悪態づくアクジロー。
『……――――め、先走ったな』
幸い、アクジローが呟いたレオーネの名はサファイアに聞こえなかった様子だが、それでもやはり原因がバベルにあったのだ。ということを理解したサファイアは憤怒の表情を浮かべる。
「……許さない。貴方たちはここで――!」
そう言って突撃してくるサファイア。
彼女はブルーコメットを大剣形態に変化させると、そのままアクジローに斬りかかる。
それをアクジローは、素早く鞘から大太刀【タマハガネ】を引き抜くと、攻撃を受け流す。だが――。
(……なんて力だ!)
本来は受け流した後、相手が硬直した隙をつき、反撃を試みようと思っていたアクジロー。
しかし、反撃どころか。それ以前に、サファイアの攻撃。そのあまりの威力に踏みとどまるのが精一杯という有り様。
もし、アクジローが受け流しではなく防御を選んでいたら、それこそ防御の上から叩き斬られていたのは想像に難くない。
そのことに人知れず冷や汗を流すアクジロー。
だが、ここにいるのはアクジローだけではない。
「大首領から、アクジローさまから離れろ!」
そう言いながらオニキスはサファイアに殴りかかる。
しかし、アクジローを攻め切れなかった時点で既にサファイアは離脱を始めており、彼女の拳は空を切ることとなる。
アクジローから離れ、一度仕切り直しを行ったサファイア。それとともに彼女はオニキスのスーツを見て、自身のスーツの発展系。しかも、ルビーのPDCに似た装備をしていることから、恐らく彼女との戦いで超能力を解析し、擬似的に再現したのだろう、と当たりをつける。
そのことに歯痒い、むしろ忌々しい気持ちになるサファイア。
「……その力は、あの娘の。ルビーが大切な人たちを守るために奮ってきた力だ! 断じて貴方たちみたいな、私利私欲のために奮っていいものじゃない!」
オニキスの姿を見て激昂したサファイアは、目標を彼女へ変える。
そして彼女が徒手空拳であることから大剣は不利だと判断し、双剣に変えると猛烈に斬りかかる!
「――はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
袈裟斬りから逆胴、さらに身体を回転させつつ斬り上げ、手を替え品を替えオニキスへラッシュをかけるサファイア。
一方、攻撃を受けているオニキスも、合わせるように拳を、蹴撃を放ち迎撃する。しかし――。
「……――くっ!」
そもそも、怪人ではなく戦闘員であった彼女と、バベル時代にはルビーのライバルとして、裏切った後はヒロインとして死線を潜り抜けてきたサファイアでは経験値の差がありすぎた。
今はまだスーツの性能差からなんとか迎撃できているが、それでも薄氷の上といえる状況であり、もし一手でも遅れればそのまま、なます切りになりかねない状態だ。
「ぬおぉぉぉぉぉぉぉ、やらせん。やらせはせんぞぉぉぉぉぉっ――――!」
そんな仲間の危機的状況に業を煮やしたガライオンが二人の合間に入る。そして彼は雄叫びを上げるとともに獅子の頭、口の中からちろちろ、と炎が見え――。
「ぐおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ――!」
「……っ!」
ガライオンの獅子の口から火が、火炎放射が放たれる。
彼の予想外の攻撃に驚いていたサファイアだったが、反射的に地面を転がるように回避して、同時に双剣から双銃に変えたブルーコメットを乱射。
「ぐわっ――!」
そのほとんどを受けることとなったガライオンは、銃弾を浴びるとともにジジ、と身体から火花が散っている。
それを見て、ガライオンの援護に向かいたいアクジローであったが、無差別に放たれる銃弾から回避するのが精一杯で、それどころではなかった。
『……ちぃ、怒りで我を忘れるどころか、パワーアップしているとは――』
そう思わず愚痴をこぼすアクジロー。そう言ってしまいたくなるほどに、一方的な戦いになってしまっていた。
「…………」
そんなアクジローたちと、サファイアの戦いを見つめる一つの影があった。
かつてレオーネがまとっていた外套と同じようなものをまとい、その人影は戦いを、アクジローを注視していた。
「今度こそ、私が――」
その人物から発せられた声。それは女性特有のソプラノボイスで――。
彼女がぎり、と握りしめた拳。そこにはルビーやオニキスと同様のPDCらしき装備が纏われていた。