二人の訓練、研鑽の時
レオーネが伊達総理、片倉官房長官と面会を行ってから数日の時が経った。
その間バベルは沈黙を保っており、千草が言った不審な事件もまた発生せず、世間ではささやかな平和が訪れていた。
その中でレッドルビー、真波渚とブルーサファイア、南雲霞の姿はバルドル基地内。所属員の訓練施設――とはいえ、現在ほぼ二人の専用施設となっている――の、模擬戦用のフロアにあった。
そこで彼女らは各々のヒロイン姿に変身し、身体をほぐしている。
「それに、してもっ。……ふみゅ、かすみとやり合うのはいつぶり、だろうねっ!」
主に上半身のストレッチをしながら話すレッドルビー。
そんな彼女にブルーサファイアもまた開脚し、身体を倒しながら答える。
「はっ、ん……。そう、ですね。本格的なものを最後にしたのが、バベルとの最終決戦前ですから……。そう、考えるとっ! 大分、時間が経ってますよねっ!」
そう答えたブルーサファイアは、開脚をやめ立ち上がるとブルーコメットを構える。それに呼応してレッドルビーもストレッチをやめて、彼女へ向けてファイティングポーズを取る。
そんな二人の耳に歩夢の声が聞こえてきた。
『はいはい、二人とも準備は良いかな? ――それじゃ、模擬戦はじめっ!』
その言葉とともに二人ははじかれるように前に出る。……そして激突!
ルビーの手甲とサファイアのコメットが接触し、どん、という音を響かせ辺りに衝撃を生む。
なぜ彼女たちが模擬戦を行っているのか。それは前回の襲撃が原因だった。
バベル怪人三体からなる襲撃。あの時、もしも二人の先輩であるレオーネがいなければ、最低でもロブラスターを足止めできなかったことで甚大な被害が、さらにはルビー、サファイア両名とも再生怪人のガスパイダー、サモバット相手に消耗していたことから敗北していた可能性すらある。
むろん、二人だけでなんとかなった可能性もなくもないが、そのあり得たかもしれない可能性に胡座をかいて楽観視するわけにもいかない。
なぜなら二人の敗北は守るべき人を危険にさらす行為であり、その時に都合よくレオーネがいるとは限らないのだ。
だからこそ、その可能性を少しでも減らすため二人は模擬戦をすることで、慢心を戒めるとともに実力が拮抗しているものと戦うことで技術を向上させようとしている。
「……破っ!」
「――疾っ!」
その間にも二人は互いの拳と武器を打ち付け合いながら攻防を続けている。
ルビーが殴り掛かると、サファイアはコメットを大剣状態に変形させ、斜めに構えることで受け流す。
そのお返しとばかりに、今度はサファイアが双剣にしたコメットで斬りかかると、ルビーは後ろにスウェーすることで回避。さらにはあえて重心を崩したことで後ろに倒れそうになることを利用してサマーソルトキックを繰り出す。
そのことに気付いたサファイアは、自らの身体能力に物を言わせバックステップ。
――チ、とルビーの爪先が胸に掠るものの、なんとか回避に成功する。
サファイアが回避を成功させたことで、バク転し距離を取ったルビーは悔しそうにする。
「……ちぇー、上手くいったと思ったんだけどなぁ」
「流石に……、危なかったですけど。でも、何度も同じ手は食ませんよ?」
サファイアはそう言いながらも、やはり危なかったのか額に冷や汗を滲ませている。
それもそうだ、もし回避の判断が一瞬でも遅れていたらルビーのサマーソルトキックが顎に直撃し、そのまま倒されていた可能性が高い。
事実、彼女がバベルに所属していた頃、似たような手口でルビーに敗北したのだから、その時のこともあって気が気ではなかっただろう。
もっとも、過去の失敗があったからこそ攻撃を回避できた、という側面があるのも否定できない。
ともかく、攻撃が失敗したルビーだが、即座に気を取り直すと。
「まぁ、良いや。これから仕切り直し――!」
声を上げ、自らに気合いを入れ直すと、PDCを起動。サイキックエナジーを手甲に集中する。そして――。
「いくよっ、サファイア! ――――破ぁぁぁぁっ!」
――これからが本当の勝負。第二ラウンドの開始、とばかりにサファイアに躍り掛かるのだった。