幹部級怪人
一頻り盛周に今後のことを確認していた奈緒。それも一段落ついた今、小休止を取っていた。
勝手知ったる盛周の私室で、彼女は部屋に設置されている冷蔵庫から、ペットボトルのお茶を取り出すと、これまた近くにあった紙コップに注ぎ、来賓用のソファーに座り飲み始める。
そんな彼女の自由人っぷりに、普段の彼女に戻ったことを安堵しながらも、こめかみを引くつかせる盛周。
傍目にはどちらが上司か分からないほどの傍若無人っぷりだった。
しかし、この程度で怒っても仕方ない。と、盛周は自分に言い聞かせ、彼女へ話しかける。
「……それで博士? 君の質問は終わったわけだが、仕事の方はどうなってるんだい?」
「んぐ、んっ、んっ……ぷはぁ。……仕事? この天才たる奈緒さんが本気で取り組んだんだよ? もう粗方終わらせてるに決まってるじゃないか」
「……ほう?」
奈緒の返答を聞いた盛周は、多少の懐疑と、それ以上の驚きを込めた声をあげる。
確かに彼女は天才だ。事実、壊滅後のバベル。その中で科学技術方面を一手に引き受ける手腕は他の人間に真似できるものではない。
そういった意味で、彼女はまさしく、それこそ盛周以上に組織に必要な人間だった。
また、彼女のもとにいる部下たちも、流石に彼女に比べると見劣りするものの、科学者。研究員としてみれば一線級の者たちだ。
それこそ部下たちが集まれば、彼女の業務の二、三割程度なら代行できる。と言えば、彼女と、そして部下たちの実力がいかに凄まじいか理解できるだろう。
そんな彼女たちの力を結集すれば、与えられた仕事をこなすのは朝飯前だろう。
……それでも、昨日今日与えられた仕事をもう終えている、というのは色々な意味で頭がおかしい。という結論に至りそうではあるが……。
盛周のそんな考えを見通したのか、奈緒は笑いながら軽く言い放つ。
「そもそも、今回の仕事。あくまで仕様を作るだけで後は丸投げなんだ。それなら私でなくともある程度の時間があれば終わるよ。そして、その程度なら、この奈緒さんの手に掛かれば……。後は分かるだろう?」
「……まぁ、確かに。それはそうなんだが……」
そう言いながら、そういえばこの博士。さらっと怪人に搭載できる原子炉や、世間一般ではまだ研究段階な核融合炉を造り出す化物だった。と頭を抱える。
そんな彼女からすれば、盛周が言った複数の仕事。しかもあくまで既存品の一部改良など朝飯前だろう。……本来なら、専門外の知識。それを改良するなど新規で物を造り出すよりも難易度は高いはずなのだが……。
そんな頭を抱えている盛周をよそに、奈緒は物のついでといわんばかりに、さらなる驚きの報告を行う。
「あぁ、そうそう。大首領。そういえばいつぞや言ってた楓くんの補佐用の怪人。そのうちの一体に目処が立ったよ」
「はっ……! いや、まじか……」
あまりの驚きに、盛周は取り繕うことすら忘れ、素の反応を見せる。
そして、そんな彼の反応を見て笑う奈緒。本人としては先ほどの意趣返しが出来て、満足しているようだった。
自身を見てケラケラ笑う奈緒を見て、盛周は苦笑いを浮かべる。先ほどもそうだか、ここで怒るのはあまりにも情けない、という意識からだった。
そうして精神を落ち着かせた盛周は奈緒に質問する。
「……で、博士? 一体、ということはどちらに目処が立ったんだ?」
「それは……。まぁ、良いか。前線指揮官タイプのコードネーム、【ガライオン】の方だよ」
「なるほど、そっちか」
盛周は返事しながら、かつて奈緒が持ってきた二体の幹部級怪人。それらの仕様を思い出していた。
一体目は先ほど奈緒が言った前線指揮官用の怪人、獅子型の獣人をベースに左腕部分と尻尾ががらがら蛇をモチーフとしたキメラ怪人のガライオン。
そしてもう一体の幹部級怪人――。
「……ということは、もう一体。コードネーム、サーガルーダは今だ目処が立たず、か?」
その盛周の問いかけに、奈緒は降参。とばかりに手を上げ愚痴をこぼす。
「まぁ、あちらは魔術、オカルト方面の技術も使うのを前提としてるから、まだまだ難航中だよ。流石に奈緒さんが天才だと言っても、あくまで科学方面だからね」
「まぁ、それはそうだな……」
「……そう、悩みもせず肯定されると、流石にムカつくんだけど?」
そう言ってジト目で盛周を睨む奈緒。それを見て、また盛周は笑うのだった。