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バルドルの真実

「それにしても、大首領もよく言うね。仮にも宿敵のバルドルを利用しよう、なんてさぁ……」


 一頻り笑って、ようやく落ち着いたのか、奈緒は目尻に涙をためながら、そうこぼす。

 そんな彼女の言葉に、盛周は肩をすくめながら――。


「宿敵とか、どうとか。そもそも俺らには関係あるまい? さらに言えば、政府の面子とかもっとどうでもいいしな?」

「あっはははははっ! それは良いっ!」


 そう言って腹を抑えて、ケラケラと再び笑い始める奈緒。

 彼らが嘲笑していること。それはバルドル結成の真実だった。


 そもそも、一般には対バベルに組織されたカウンター。それがバルドルという組織だ。

 だが、バベルもまた政府により組織された、とすれば話が変わってくる。

 なぜなら、そのことが世間に漏れれば醜聞、どころの話ではないからだ。

 だからこそ当時の政府は、可及的速やかにバベルに対処することを求められた。そのために作られたのがバルドル。

 つまり、かの組織は政府の尻拭いをするために結成された組織なのだ。


 そして、そのことをバルドル司令、南雲千草は認識して()()()

 つまり、現在所属しているバルドルの構成員は、誰も本当の目的について知らないのだ。

 だが、それだとバルドルの前身たる組織に所属していた筈の彼女や、歩夢が知っていないのはおかしい、と思うかもしれない。

 しかし、それはある意味必然だった。

 何故なら、その前身たる組織、彼女らはそこに所属こそしていたものの、当時は権限を持たない、言ってしまえば一般的な所員でしかなかった。

 そして当時の組織の重役たち。その人物たちは全員箝口令を敷かれ、なおかつそれぞれ別の組織へ異動させられている。


 即ち、千草と歩夢は、口の悪い言い方となるが政府と当時の上司たちに貧乏くじを引かされた、というのが真実だった。

 しかも、あくまでバルドルは戦闘を主とした組織であること。奈緒をはじめとする、当時優秀だった科学者たちは軒並み先代大首領に引き抜きをかけられていたことから、組織の研究、科学力はバベルよりも劣っていた。

 このことからバルドルはレッドルビー、真波渚が現れるまで有効な手だてを打てなかったのだ。

 そのことを思えば、盛周たちが当時の政府担当者たちを嘲笑するのも、無理からぬことだった。


 それだけに、逆説的にレッドルビーの能力がどれほど凄まじかったのかも理解できるだろう。

 そして最終的に敵方に寝返ったとはいえ、彼女と互角の戦いが出来たブルーサファイアを生み出したバベルの科学力の凄まじさも、だ。

 もっとも、だからといって盛周や、奈緒も今の政府を軽んじているわけではない。

 そも、組織としてバベル、バルドル、政府では求められる役割が異なる。

 今回の場合でいえば、バベルはその科学力を使って兵器の研究、開発。バルドルはその兵器を使った戦闘行為。

 そして政府は、その組織を統率、運営するための人員配置など、だ。


 そのために盛周は、そして朱音はこれまで動いてきた。

 その策の結果がシナル・コーポレーションと自衛隊の提携であり、バルドルのスポンサー化。

 即ち、以前千草が心配していたことはまさしく杞憂であり、まったくもって心配する必要はなかった。

 もっとも、それが知れたところで彼女が本当に信用するかはまた別問題であるし、ある意味意味のない行為なのかもしれない。

 ただ、それでも――。


「どちらにせよ、いずれ彼らと共闘しなければならない場面は必ず出てくる。その時までにどうにかしておきたいのは確かだ」

「……なるほど、だから利用、と?」

「まぁ、そういうところだ。……さすがに今まで敵対していて、すぐに信用しろ。というのも無理な話だからな」

「まぁ、そうだろうねぇ……」


 そう言ってくすくす、と笑う奈緒。そこには先ほどまでの険悪なものはなく、彼女の中でも何らかの整理、納得が出来たのが見て取れた。

 そして奈緒は、この部屋にきた時と同じ質問をする。


「それで大首領。これからどうするつもりなんだい?」

「これから我々は、なるべくバルドルと協調的な関係を築き、最終的には同盟関係まで構築するのを目標とする。何より――」


 そこで一度言葉を切る盛周。

 それで奈緒の注目を改めてこちらに向け、彼は再び話し始める。


「何より俺はバベルで世界征服を果たせば、この世界、星を守れる。などと考えるほどロマンチストではない。そのためには人類一丸となる必要だと俺は考えてる」

「……ははっ」


 その盛周の考えを聞いて、奈緒は顔を引きつらせる。

 言外に盛周から、お前はロマンチスト(夢想家)だ。と言われたのだから、さもありなん。といったところか。

 そんな彼女の顔を見て笑う盛周。

 奈緒は自身を見て笑う盛周に、苦々しく歪んだ顔を見せるのだった。

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