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バベルの始まり

 青木奈緒にとって、バベルは、先代大首領は特別な存在だった。

 バベルに所属する以前の彼女は、国が擁する研究室に籍を置く研究員だった。

 その経歴からも分かるように、彼女は、奈緒はバベルに所属する前から、既に優秀な科学者であった。

 だが、彼女よりも優秀な科学者がいた。それが盛周の父である先代大首領。奈緒は、その彼から直々のスカウトを受けたのだ。

 しかし、いくら優秀とはいえ、国家の研究員が日陰者。秘密結社の引き抜きを是とするだろうか……?

 なぜ彼女がスカウトを受けるに至ったのか、それは――。


「……そもそも、大首領はこの組織。バベルがどのような経緯を辿ったか知ってるだろう?」

「……あぁ、知ってるさ。そして本当に驚いた――」


 奈緒の質問に、感慨深げに答える盛周。

 彼もその真実を知った時は驚いたものだ。()()()()()()()()()()()、と。


「なにせ、もともとは()()()()()()()なんだからな……」


 ――不思議に思わなかっただろうか?


 秘密結社バベルと、その対抗組織であるバルドル。

 その二つの組織が、同じ立塔市に拠点を置いていることを。

 その答えがコレだ。

 もともとバベルという組織は、盛周の父と日本政府が共同で立ち上げた組織だった。

 だが、最終的に盛周の父、先代大首領が離反し独自に行動を開始した。それが秘密結社バベルの始まりだった。

 しかし、なぜ先代大首領は政府を裏切ったのか? それは……。


「博士、貴女もそうだが天才ってのは性急すぎる。もちろん、貴女たちには貴女たちの理屈があるのは理解している。だが……」

「そんなこと――! 先に裏切ったのは政府だ! アイツらはあの御方の科学力にしか興味がなかった。だから、あの御方が警鐘した驚異にも……!」

「対応しなかった、と?」


 盛周の言葉に頷くことで答える奈緒。その顔は苦々しげな表情に染まっている。

 そう、奈緒が言うように当時の政府は先代大首領の警鐘した驚異について、あまりに無頓着であった。

 そのことに絶望した先代は、ならば自身の手だけでもことを成さねばならない、と考え離反。それが真相であった。

 それに慌てたのが当時の政府だ。確かに軽視していたのは事実だ。だが、まさかそんな短絡的な行動を起こすなど、微塵も考えていなかった。

 なにせ彼らからすれば、潤沢な資金に人員。それに()()も与えていたのだから。


 そう、土地だ。この地、立塔市はもともと政府直属の組織、バベルの根幹地となるべる整備された土地だったのだ。

 だからこそこの都市の名前も立塔、バベルの塔、その神話に因んだ地名になっていた。

 いずれ先代が警鐘した驚異、それに対抗する本拠地になることを願って。……もっとも、それは叶わず。それどころか、神話よろしく最終的にバラバラとなる結果が残った。というのは皮肉という他ないが。


 そして、盛周と言う転生者にとっても、前世で見たフィクション。かの秘密結社の総帥と、自身の今世の父親が同じ道筋を辿ったのもまた、運命めいたなにかを感じる。それこそ、規模が違うだけで他はほぼ同じなのだから、そう思ってしまうのも無理はない。


 ……だからこそ、自身の父親が何を思っていたのか、なんとなく理解できるのだ。

 彼もまた、かの総帥と同じく自ら世界を守る剣であり盾になる。または、その存在を育てようとしていた、ということに。

 それを理解できるからこそ盛周は思うのだ。先代は、親父は性急過ぎた、と。

 その思いを込めて、盛周は奈緒へ語りかける。


「貴女もそうだが、親父もまた人に絶望するのは早すぎたんだ」

「そんなこと……!」

「そもそも、天才ってのは答えを求めるのが早すぎる。誰もが貴女たちのように、すぐに答えにたどり着けるわけじゃないよ」

「……っ」


 盛周の言った言葉に多少なりとも思うところがあったのか、奈緒は言葉を詰まらせる。

 そんな彼女を諭すように、盛周はさらに語りかける。


「確かに残された時間は少ないのかもしれない。……本当にそうなのかは分からない。が、だからといって性急にことを運んで上手くいく訳がない。足元を気にせず急いだところで転ぶのが関の山だ。今は一歩一歩確実に歩みを進めることが肝要じゃないのか?」

「だけど、それでもし、間に合わなかったら――」

「――そのために俺たちが、バベルがある。そうだろう?」

「……――」


 盛周の言葉に口をパクパクさせて絶句する奈緒。

 そんな彼女へ、盛周は畳み掛けるように最後の言葉を告げる。


「それに、幸か不幸か、バルドル、という組織も出来た。これを利用すれば、さらに時間は稼ぎる、だろ?」

「――――ふ、ふふ……」


 その後、抑えきれなくなったのか、部屋の中に奈緒の笑い声が響き渡る。

 そこに先ほどまでの悲壮感はなく、心の底から笑っているのを盛周は、そして何より奈緒自身が自覚するのであった。

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