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忠義と狂信

 私室で考え事をしていた盛周の耳に、こんこんこん、とノック音が聞こえてくる。

 誰かが部屋へ訪れたようだ。


「鍵は開いている」

「……お邪魔するよ、大首領」


 鍵は開いている、という言葉を聞いて中に入ってきたのは奈緒であった。

 彼女は部屋の中に入ると、そのまま盛周の前まで来る。そして――。


「大首領、いくつか聞きたいことがあるんだけど、良いかな?」


 そう問いかけてくる。

 むろん、盛周としてもそのことに問題はないため首肯する。


「あぁ、構わない。……それで聞きたいこととは?」


 そう、真剣な表情で問いかける盛周。彼女の、奈緒の様子を見た彼はただ事ではないと思ったのだ。

 と、いうのも常の彼女はどこか飄々としていて、余裕を持っている印象がある。しかし、今の彼女は……。

 まるでなにかに突き動かされるような焦燥感を見せ、表情もどことなく強張っている。

 そんな彼女が口を開く。


「……大首領は、君はどこを目指しているんだい?」

「どこ、とは……?」


 奈緒の抽象的な表現に首をかしげる盛周。だが、それでもなんとなく奈緒が聞きたいことについて分かるのだろう。その答えを告げるため、口を開く。


「そう、だな……。難しい、難しい話ではあるが、今はともかく親父が鳴らした警鐘。外からの、そして()()()の驚異について対処したい。そう思っている」


 その言葉を聞いて、奈緒は獰猛な目で盛周を睨む。そして、そのまま彼女が感じたこと。思いを吐露する。


「ならば、ならばなぜ先代と違う道を歩もうとしてるんだい?! ……あの道こそが一番の近道だと分かってるんだろう!」


 彼女の言葉の節々には疑問が、そして先代、盛周の父親こそが正しい。という狂信ともいえる忠誠心が見て取れた。

 それを見た盛周は嘆息する。


「正しいか、正しくないかは別として、もっとも早い方法はそれ、なんだろうな」


 奈緒の言葉を肯定するように頷く盛周。

 なぜレッドルビーたちとの戦いで先代が死に、組織が壊滅状態からようやく復旧したバベルをして、その方法がもっとも早いと断言できるのか。

 それは彼が、彼自身が池田盛周である、ということが理由となる。


 まず、前提条件として彼はレッドルビー、真波渚と幼馴染みの関係にあり、彼女から恋心を抱かれている。

 そして彼女自身は知らない、気付いていないことだが、彼の両親を討ち取ったのも彼女だ。


 だから彼が渚にこう囁けば良い。


 ――お前が俺の両親を殺したんだ。そして、次は俺を殺すのか? と……。


 つまり、彼女の中にある前提条件。盛周を守るために戦っている。という前提を崩せば良い。なおかつ、それを囁けば渚は必ず苦悩する。

 自分が大切な人の両親を、良くしてくれた人たちを殺してしまった罪の意識を自覚して。


 そうして罪の意識に苛まれる渚にこう囁くのだ。


 ――俺とともにこい。そうすればずっと一緒にいられる、と。


 その言葉は罪の意識に苛まれる彼女にとって、まさしく救いの糸に見えるだろう。

 ……それがたとえ地獄に落ちる毒であったとしても。


 そうしてレッドルビーを引き込めば、後は霞。裏切り者のブルーサファイアだけ。

 そして彼女はレッドルビーよりも簡単だ。

 レッドルビーとレオーネ。二人のヒロインの手で撃破し、捕らえ、()調()()すれば良い。

 それで全ての敵がいなくなれば後は消化試合。怪人に対処できるだけの戦力もなく、悠々と進軍し、世界を征服すれば良いだけ。

 それだけで全てことは為る。ある意味もっとも労力がかからない方法だろう。だが――。


「だが、それでは意味がない。分かっているんだろう、博士?」

「……っ」


 盛周の問いかけに答えられない奈緒。そう、確かに世界征服自体は簡単だ。だが、その後。統治が続かないだろうと二人は、盛周も奈緒も判断している。

 そもそも世界の、国の統治とは一握りの天才ではなく、数多の凡才、秀才の手によって執り行われている。もちろん、天才がいた方が効率良く進むだろう。だが、それが絶対必要か。と問われると必ずしも必要ではない、という答えとなる。

 なぜか、と問われると、そうしないとシステムが破綻するから、これに尽きる。


 まず始めに、天才がいないと機能しないシステムは、その天才が消えた瞬間に機能不全に陥りかねない。

 そしてその天才が必ず現れる、という保証もない以上、それを起点にシステムを産み出す、というのは論外だ。


 次にそうなるとバベルという組織だけでは圧倒的に人手が足りない。

 そも、壊滅状態だったバベルではもとから人手が足りず、戦闘関係は完全ロボットのバトロイド。怪人もブラックボックスを使った完全機械製に変更して少しでも人員の負担を軽減しようとしてるのに、国家の運営など出来るわけがない。

 それどころかこの状態では、いくらヒロインが三人いたとしても全世界規模での抑止力。武力による恐怖政治など夢のまた夢だ。


 その程度のことが分からない奈緒ではない。それでも――。


「そんなこと分かってるさ! ……でも、それでも」

「親父が望んだから、か……」


 盛周の言葉に力なく頷く奈緒。

 それでも拘る理由。それは先代が望んだから。

 そこまで奈緒が頑なになる理由。それは――。


「博士が、貴女が親父に見出だされたから。俺が楓を見出だしたように」

「あぁ、そうだとも。あの方は、まさしく私の光だった」


 そう言って肯定する奈緒。

 その瞳には憧憬が、かつてのバベルへの思いが詰まっていたのだった。

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