盛周の罪、そして彼が目指すもの
――これは俺が大首領という意味を、バベルという組織。秘密結社というものが存在するこの世界を甘く、軽く考えていた結果の罪だ。だからこそ俺は……。
レオーネが総理大臣たちと面会している頃、盛周はバベル秘密基地内の私室にて物思いに耽っていた。
「……そうか、そうだったな。あいつと、レオーネと出会って、もう大体二年くらいになるのか」
そう言いながら背を仰け反らせ、天をあおぐ盛周。彼の伸びとともに椅子が軋み、小気味よう音をたてる。
その音を聞きながら盛周はかつてのことを思い出していた。
始めに感じたのは困惑、そして怒りと嫌悪感だった。
偶然探り当てた他の秘密結社が所有する基地。その中で監禁され、汚され尽くしたレオーネを見た盛周の感情はそれだった。
巫山戯るな、と思った。
なぜ一人の女性、彼女にここまでする必要がある。
ヒロインだから? 敵対したから? 論外だ。
後ろ暗い秘密結社などという稼業をやっている以上、彼女らと敵対するのは当然だし、そのことに不服を覚えること自体無意味。それに彼女らをなぶることになんの意味がある?
それがただの報復、意趣返しだとするのなら見苦しいとしか感じない。
敵対、邪魔をしてきたとはいえ、戦士として相対し倒したというのであれば、それ相応の扱いというものがあろう。
その結果がコレだというのであれば、その組織に対して侮蔑を禁じ得ない。
……そして、それ以上に俺は、自身に対しても愚かだった。という他ない。
当然だ。俺自身、転生したという意識。そして秘密結社とヒロイン。これらの存在で、どこか物語の世界に入ったような錯覚に陥っていた。
だが、違う!
これは現実、決して特撮などのフィクションではないのだ。
それを目の前の光景は、まざまざと俺に見せつけてくる。
負けた女性の戦士が、兵士がどのような末路をたどるのか。知識では知っていた。いや、知っているつもりだった。
だが、目の前にあるこの光景は、そんな意識を、知識を嘲笑うかのような凄惨さだった。
そして同時に、俺に力があることを、バベルという組織があることを心から感謝した。
この力がなければ彼女を助けるどころか、このような目に遭っていることすら気付かなかった。
そして、仮に気付いたとしても力がないから、俺には無理だ、と言い訳して目を逸らしていただろう。
だからこそ、業腹だが大首領という名の力を得たことに感謝した。
しかし、同時にこの光景は俺に一つの結論をもたらした。
――やはり、正義だけで人は救えない。
前世の特撮におけるヒーローたち。彼らは基本、何らかの問題が起きてから対処する受動的な立場にあった。
それは物語として盛り上がりのために必要だったのかもしれない。
だが、現実でも警察という存在は犯罪の抑止にはなれど完全に防ぐことは出来ず、やはり事件が起きてからの対処になるのが普通だった。
それは一重に正義というしがらみ、法治国家としての限界があったのだと思う。
それも当然だ。罪を憎んで人を憎まず、法によって人を裁くのであればどうしても初動は遅くなる。それは仕方ない。
それに人が人を裁くの良しとする。そんな国を良しとするなら、その最後は私刑が横行する混沌とした世界になるだろう。
それを防ぐのが法なのだから。
だが、それでも。だからこそどうしても犠牲になる人が出てきてしまう。
どうしても正義で全ての人を救うのは不可能。夢物語だ。
だからこそ決めたのだ、あの時、俺は悪になる。悪を裁く悪になるのだ、と。
それは一つ間違えばただの暴力装置。世界に混沌を産み出す存在になりかねない。だが、それでも必要だと思った。
そも、悪とはなんなのか? 今でこそ善悪という言葉で語られるが、はるか昔。悪という言葉は力強さという意味も持っていた。
それゆえ悪党とは力の強い集団、という意味も持っていたし、悪、という字が異名についていた偉人たちも存在する。
そして俺が目指す悪はそれだ。外道ではなく、力を持つ者。力を以てことを為す者。
正義では大多数を救えても、どうしても取りこぼす人たちが出る。その一握りを救う、それが俺の目指す【悪】。
そのためにこの力を、バベル大首領という権力を使おう。
それがきっと俺の贖罪に、そしてその果てに目指す道へ続くと思うから。