面会と確認
バルドル基地内で歩夢と談笑していたレオーネは、その後別れを惜しみながらも基地内から出て、現在とある場所へと向かっていた。
「むぅ……、まったく。こんなにも早く来ることになるなんて思ってなかったんだけどなぁ……」
どこか不満げに口をこぼして、てくてく歩くレオーネ。そしてしばらくすると彼女の目指していた目的地へ到着した。
目的地に着いたレオーネは近くにいる守衛に声をかける。
「すみませーん、少し良いですか?」
「あれっ? レオーネさん、どうしてここに? 今日、来られるという連絡は受けてませんが……?」
急に姿を表したレオーネに困惑する守衛。同時に彼の口ぶりから彼女が何度かここに足を運んでいることが分かる。
訝しむ守衛に、レオーネは苦笑いを浮かべながら誤魔化すように問いかけをする。
「あはは……、えっと。ちょっと至急の用ができたので、あの人に会えます?」
「……あぁ、なるほど。――ちょっと待ってくださいね。確認を取ります」
そう言うと守衛はどこかに電話をかける。そして数コールもしないうちに繋がったようで、用件の確認を行う。
そして、どうやら首尾よく終わったようで、電話を切るとレオーネへ話しかける。
「三十分程度なら大丈夫だそうです」
そう言いながら門を開ける守衛。
その守衛にレオーネは軽く会釈して礼を告げる。
「ありがとう、ごめんね?」
「いえいえ、お仕事頑張ってください」
「そちらも頑張ってね、それじゃ!」
そう言ってレオーネは建物の中には入っていく。その建物の名は首相官邸。即ち、国のトップである内閣総理大臣や、官房長官が座する場所であった。
勝手知ったる場所だとばかりに、首相官邸の中を進むレオーネ。そして、目的の場所、かつて官房長官との密談を行った部屋へたどり着く。
守衛の話では既に目的の人物は部屋の中にいるという。
レオーネは深呼吸することで少しでも緊張を和らげると、異を決して扉を開ける。そこには――。
「ようこそ、レオーネさん。この度は危急の用とのことで。どのようなご用件ですか?」
そこには以前密談を行った相手、片倉官房長官の姿があった。
その彼から問いかけられたレオーネは、質問に答えることもせず呆けている。……否、正確には彼の隣にいる人物を驚きの目で見つめている。
彼女からすると、まさかここにいるとは……。といった心持ちだったのだろう。その人物は……。
「よう、お嬢ちゃん。元気そうだな。それでどうしたんだ、急に?」
「…………伊達、内閣総理大臣」
そこにいたのは、レオーネが言うように国の政治面でのトップである総理大臣であった。
予想外の、しかしある意味首相官邸にいて当然の人物たる伊達総理の登場に驚いていたレオーネだったが、すぐさま心の中の動揺を治めると、急な来訪について謝罪するとともに、今回の目的について話す。
「えっと……。まずはアポイントメントもなしに急な来訪について謝罪します。ですが、どうしても確認しなければいけないことが出来ましたので……」
「確認しなければいけないこと、ですか?」
レオーネの言葉を聞いた片倉官房長官は思い当たる節がないのか、首をかしげている。
彼が本気で不思議がっている様子から、少なくともあの件には関わっていなさそうだ。と判断したレオーネ。
しかし、一応確認のため問いかける。
「シナル・コーポレーションがバルドルに援助を行っている件について、です」
「あぁ、あれかぁ……。こちらとしては助かってるが、それがどうかしたのか?」
レオーネがシナル・コーポレーションの件を告げたことで、得心がいったのか伊達総理は頷きつつも、なにか問題があったのか、と問い返す。
その総理の声を聞いて、彼もまた関わり合いになってない可能性が頭に過ったレオーネ。
だが、その場合はその場合で調査してもらう必要がある以上、事態を把握してもらうためにも事情を話すことにした。
「前回、ボクがバルドル司令部に行ったことで気付いたんですが、どうにも援助金の一部が届いていない可能性があるようで……」
「……それは、本当か?」
レオーネの話を聞いた途端、険しい顔つきに伊達総理。片倉官房長官もまた、信じ難い、といわんばかりに顔を歪めている。
そして二人は顔を見合わせると、小声で何事かを話す。そしてすぐにレオーネへと視線を戻すと――。
「レオーネさん、情報提供感謝します。こちらの方でも調査させていただきます」
その言葉とともに頭を下げる片倉官房長官。そして次に伊達総理が口を開く。
「それでお嬢ちゃん。それだけじゃねぇんだろ?」
「ええ、そうです。千草さんから聞いた不審な事件について、お二人の方でなにか情報があるのかな、と思いまして……」
「それを聞きに来た、てことは――」
「はい、ボクは可能性として、十分にあり得る。と思っています」
レオーネの口から出た不審な事件。という言葉に反応する伊達総理。
その顔は、先ほどよりもさらに険しい顔つきになっていた。
そして彼はレオーネの質問に答える。
「……残念ながら、こちらでも有力な情報ってのはない」
「そう、ですか……」
伊達総理の返答を聞いて、予想していたとは言え、やはりそうなってしまった。と、落胆するレオーネ。
彼女の落胆している様子に、少し罪悪感を感じた伊達総理だが、すぐに気を取り直して話しかける。
「そちらの件も分かった。こちらでも可能な限り対応してみよう。それでいいな?」
「はい、お手数をお掛けします」
「なぁに、構わねえさ。持ちつ持たれつ、ってやつだ」
伊達総理の返答を聞いてにこり、と笑うレオーネ。そこでなにかを思い出したのか、レオーネは焦った様子で話を切り出す。
「あっ、そういえば……。あの、すみません。実は――」
そのレオーネの話を聞いた伊達総理と片倉官房長官は呆れた様子で苦笑いを浮かべる。
「おいおい、そりゃないぜお嬢ちゃん……」
「……まぁ、分かりました。そちらの方も私たちで対応しておきましょう」
「……お願いします」
顔から火が出るのでは、というほどに真っ赤になって縮こまるレオーネをみて、二人はお互いをみて肩をすくませるのだった。