四天王という【名】の重み、レオーネが抱く思い
レオーネとの出会い、そして彼女がバベルに所属する経緯を思い出し、懐かしんでいた盛周だったが、いつまでも感傷に浸っている暇はない。
彼は気持ちを切り替えると皆に向かって話し始める。
「……ともかく、我らが今バルドルを援助しているしているのは相応の理由がある。それだけは頭に入れておいてもらう。良いな?」
盛周の毅然とした物言いに頭を下げる楓。
彼女にとって、盛周。大首領の決定は絶対であり異を唱えるということはあり得ない。
それは彼女が盛周に見いだされたということもあるし、何より――。
――彼女自身気付いていないが、盛周が何かを断言する時。その時に彼から絶大なプレッシャー、威厳を感じている。それこそ彼の言うことが絶対正義であり、彼が白と言えば黒ですら白になる。そのような認識を抱いている。
その彼が言うのだ。絶対的な威圧感を以て。
――必要だからこそバルドルを援助、支援している、と。
ならばそれが正解であり、異論を挟むなどという暴挙をするべきではない。
それが楓が至った結論だった。
そんな彼女を奈緒はどこか心配そうに、レオーネは呆れた様子で見ている。
盛周を信頼している、と言えば聞こえは良いかもしれないが、楓の本質は盲信だ。
この人は絶対に間違えない、この人についていけば安心だ、と。
――レオーネとしては盛周がそういう、崇拝の対象となるのは当然だと思っているし、そのこと自体は問題視していない。
だが、盲信というのはダメだ。
盲信とはこの人についていけば良い、という考えなどと言えばまだ聞こえは良いが、実質的にはただの思考停止だ。
それではダメだ。ご主人さまの力になれない。
そも、彼も人間なのだ。全能の神でも全知の存在でもない。
だからこそ彼は、盛周は【四天王】という制度を作り己の側近とした。
全ては、一人よりは二人、二人よりは三人の方がより多くの知恵を出せるという判断から。
なのに、その末席に座る者が思考停止?
はっきりと言えば愚か、という以上に利敵行為と断罪されてもおかしくない。
レオーネにとって、それほどに愚かしい行動に映るのだ、彼女の盲信は。
むろん彼女は先代時代から大幹部を務めていた朱音や奈緒、場合によってはヒロインとして大局の判断を求められたレオーネとは違い、ただの下っ端。それが偶然盛周に見初められ大抜擢された存在ゆえ、土台からして違う。
しかし、だからこそ、そこで終わってはいけない。
四天王である意味。その地位にいる理由を考えるべきなのだ。
そこら辺りが楓から欠落している。
もちろん、奈緒が行った研修で多少の意識改革は行われたようだが……。
それでも、彼女の中にある下っ端根性とでもいうべきか。それが抜けきっていない。自身が真の意味で上に立つ人物だと認識できていないのだ。
そこさえまともになれば、もう少しマシになるのに……。と嘆息するレオーネ。
レオーネが、なぜそこまで楓のことを気にするのか?
それは、彼女がバベルに保護された時期と楓が四天王候補に抜擢され、奈緒のもとへ来たのがほぼ同時期だから。
つまり、ある意味楓とレオーネは同期とも言える存在なのだ。
その同期が、同じ地位に立って、つまらない失敗をしていたらどう思うか? しかも、ある程度能力が分かって、この程度で終わる筈のない存在が、だ。
歯痒い、と思うのは仕方ないだろう。
お前はその程度じゃないだろう? もっと色々出来るだろう? なのになんだその体たらくは。
それがレオーネの偽りざる気持ちだ。
彼女は、草壁楓は、ボクの同期はこの程度で終わる存在なわけないだろ!
ボクには出来たぞ、ならボクと戦って、互角に至る君が出来ないわけないだろ!
そう思うからこそレオーネはイタズラと称して、なにかと楓にちょっかいを出してきた。
この程度、君なら問題ないだろ。だから這い上がってこいよ、と。
そんなことも出来ないのなら、君をライバル視してるボクが馬鹿みたいじゃないか、と。
だからこそ這い上がって、ともに盛周を支えよう、と。
そう思いながらレオーネは楓にちょっかいを出し続ける。
いつか真の意味で、四天王が本当の四天王として盛周の補佐をするのを夢見て。
そんな二人を保護者だった奈緒は微笑ましそうに、そして悩ましそうに見つめるのだった。