レオーネの決意、彼女の功績 前編
しばらく呆然としていた楓だったが、ようやく頭の中の整理が出来たようで正気に戻ったらしく、話を中断させたことに頭を下げていた。
「……申し訳ありません、お待たせいたしました」
「いや、いいさ。楓の気持ちも分からなくはないからなぁ。……いや、ほんとに」
楓の謝罪を受け取った盛周の染々とした言葉に、朱音や奈緒も同意するようにうんうん、と頷いている。
それどころか、普段楓で遊んでいるレオーネすらも、少し同情した表情で見つめている。
もっとも、見つめられた当人は多少屈辱を感じたようで、皆には見えない位置。机の下で拳を握りしめている。
何にせよ、これで話を進められるようになったのは事実。なので盛周は先に進めるためにも口を開く。
「それでなんだったっけか……。そうそう、オカルト方面の話だったな。とはいえ、そちらはあくまで科学技術で対抗できるかの技術立証の意味合いが強くて、仮に出来たとしても本格的な導入はするつもりはないんだが……」
「……はっ?」
盛周の話に、今日はいったい何回驚かされるんだろう。と思いつつ、また驚く楓。
そんな彼女の反応とは関係なしに、盛周は苦虫を噛み潰した表情を浮かべ話を続ける。
「そもそも、そこら辺りは縄張り争いみたいな部分があるから。……それでも、ここまで漕ぎ着けたのは、それに他の部分でもレオーネの助力があったからこそ、ここまでこれた」
その言葉を聞いてレオーネは得意満面な表情でなだらかな胸を張る。
そんな彼女を微笑ましそうに見つつ、盛周は染々と呟く。
「やはり、コネがあるとこうも違うからなぁ……。実際、レオーネが仲間になったからこそ、取れる札が多くなった。本当に感謝してるよ」
「……えへへ」
盛周のべた褒めに流石に恥ずかしくなったのか、頬を赤らめ描きながらも満面の笑みを浮かべるレオーネ。
そんな彼女を尻目に、盛周は過去に起きた奈緒とレオーネに対するやり取りを思い出していた。
「それで、なんだ博士。話というのは……?」
バベル内部にある大首領の専用部屋。そこに訪ねてきた奈緒と、その後ろに隠れている救助した少女を見ながら問いかける盛周。
少なくとも、直近で彼女と会うスケジュールはなかったため、何らかの問題が発生したのか? と、疑問を抱いていた彼だったが、直後奈緒の口からでた言葉に驚くことになる。
「どうも、彼女からお願い事があるらしくてねぇ……」
「ふむ? 程度にもよるが、基本的には叶える方向で進めるつもりだが、その願いとは?」
「……うん、彼女曰く、洗脳処置をしないで、だそうだよ」
「……おい」
彼女、奈緒の口からでた言葉を聞いた盛周は思わずドスの効いた低い声を出す。
その声にびくり、と震えて奈緒の陰に隠れるレオーネ。
そんな彼女に構わず、盛周は鋭い視線を奈緒に向ける。――洗脳の件、話したのか、と。
その視線に貫かれた奈緒は恍惚とした表情を浮かべてぶるりと震える。
「……は、ぁ。うん、すごく良い。……て、そうじゃなかった。別に私は話してないよ。ただ単にこの間の話、盗み聞きされてたみたいでねぇ……」
「……はぁっ?」
確かに彼女、保護した少女。レオーネに行動制限などはつけていなかった。それは彼女の精神状態のこともあったし、色々なところにいる人間と話すことで気晴らしになれば良い。という盛周なりの気遣いだった。
だが、その結果。件の話を盗み聞きされる、というのはあまりにも間抜けすぎだ、と頭を抱えたくなる盛周。
しかし、既に聞かれている以上誤魔化す訳にもいかず……。
「……君がそう望むならそうするが。しかし、洗脳処置と言ってもあくまで君の記憶、その一部を消すだけだ。……それでも嫌なのか?」
盛周の問いかけにこくり、と頷くレオーネ。そして彼女はその理由について語る。
「だってその記憶を消されたら、ボクは貴方のことも忘れちゃうから……」
「……? それの何が問題なんだ?」
「大問題だよ、だってボクは――」
そう言って、本当に言って良いのか逡巡するレオーネ。だが、意を決した表情で続きを話す。
「――ボクはヒロインだもん。だから、いつかきっと貴方と敵対することになる。……そんなの絶体にやだ! ボクは、ボクを救ってくれた人と戦うのも、殺すのも絶体にしたくない!」
「……そう、か」
むろん、盛周も目の前の彼女がヒロインであることも、最強と謳われたレオーネであることも知っている。
その上で、の提案だったのだが……。
しかし、本人が望まぬ以上無理強いも出来ない。ならば……。
「なら君はどうしたい? どうありたい?」
レオーネの望みを問う盛周。もっとも、次に聞こえた声に呆然とすることになった。
「……なら、ボクのご主人さまになってください」
「………………はぁっ?」
流石に色々と脈絡が無さすぎる、と思う盛周。
もっとも盛周も、レオーネが両親からの愛情を知らず、愛情の形がペットと主人で固定されているなど夢にも思わなかったのだ。
二人のやり取りを見て爆笑する奈緒。
その爆笑をBGMに、何とも言えない雰囲気が辺り一面に広がるのだった。