格と違い
ロブラスターが放った光がレオーネのいた付近に降り注ぎ、そして爆発!
粉塵が飛び散り、衝撃波が吹き荒れる。
それを青ざめた表情で見つめる鮭延たち。
レッドルビーやブルーサファイアと同年代に見える少女が怪人の放った攻撃の犠牲となったようにしか見えず、己の無力さをまざまざと見せつけられたのだから、是非もないだろう。
周囲に散らばる粉塵も風によって散らされ、ロブラスターによる攻撃の惨状が目前にさらされる。
熱光線によって無惨に破壊されたアスファルト。そして、その周辺には少女の姿はなく、熱によって完全に焼き払われてしまっていた――否。
ロブラスターの近くにぽつん、とほんの小さな影が……。
そしてその影は少しづつ大きくなって――。
その時になってようやくロブラスターも不審な影に気付き、上空を見上げる。そこには――。
「――せぇぇぇぇぇいっ!」
大きくデスサイズを振りかぶった彼女、レオーネの姿が!
そしてそのままレオーネはロブラスターにデスサイズを振り下ろす!
「ぬ、おぉぉぉぉぉぉぉ――!」
反射的に防御しようとしたロブラスター。
しかし、防御は間に合わず、上げようとしたハサミごと腕を切断される。
「ぐ、ぎ、あぁぁぁぁぁぁぁっ――!!」
仕留めたと思っていたレオーネに想定外の回避をされ、さらには想定外の攻撃とダメージを受けたロブラスターは絶叫を上げる。
そして切断された腕と胴体からは血液、というには躊躇うような錆び付いた鉄色の液体が噴射するとともに鈍色に輝く機械部品が姿を覗かせる。
「お、のれ。己ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ――!」
まさか自身がこれほどの手傷を負うことを予想していなかったロブラスターは、それを負わせるに至ったヒロイン、レオーネに怒りをぶつける。
まさか新世代のバベル怪人である己が、旧式とは比べ物にならぬほどの力を得ている筈の己が!
レッドルビーやブルーサファイアならまだいざ知らず、時代遅れのヒロインに手傷を負わされるとは!
それはロブラスターが無意識のうちに持った驕り、過信であった。
確かにレッドルビーとブルーサファイアはバベルの仇敵であり、最大限警戒するべき存在。
だが、だからといって他のヒロインたちが劣るなどということはあり得ない。
あくまでバベルという組織の邪魔をしていたのが、かの二人という話でしかないのだ。
そして、確かにレオーネはレッドルビーのように超能力といった特殊な力や、ブルーサファイアのように特殊な力を発揮できるスーツ、そしてブルーコメットのような専用兵装は持ち合わせていない。
だが、彼女はそれを補ってあまりある身体能力――それこそ単純な能力だけであればガイノイドである霞に比肩しうるほどの力――を持っている。
それを格下と思うのはあまりに短絡的、あまりに愚かという他ない。
そして、それ以上にロブラスターが軽視した問題。それはレオーネのヒロインとしての経験だ。
もっとも、これはロブラスターがまだ生まれたばかりで、なおかつレオーネのデータが意図的に入力されていなかったことが原因。つまり、ある意味ヒューマンエラーであった。
まぁ、だとしてもヒロイン相手に油断するのは怪人として言語道断であるのは確かだ。
それはともかくとして、レオーネの経験。これを軽視したのが、今回の直接原因といっていい。
そも、ヒロインとは、英雄とは死と隣り合わせの仕事といっていい。
そして経験が豊富であるということは、言い換えればその死に至る可能性を幾度となく乗り越えた、ということでもある。
即ち、たとえ初見殺しの攻撃――今回の場合は、ロブラスターのハサミから放たれた遠距離攻撃――であっても冷静さを取り戻し対処するだけの能力がある、ということになり得るのだ。
事実、先ほどのロブラスターキャノン。レオーネはそれを回避するだけではなく、敢えて引き付け、直前で跳躍し回避することで粉塵による目眩まし。さらには爆風を浴びることにより通常よりも高く飛翔し、上空からの奇襲。という攻撃に転じるための布石とした。
もっとも、そのせいで多少一張羅が汚れ、一部焼け焦げた後までついてしまっている。
ともかく、経験がある、というのはひとえにここまで可能性を引き上げることもでき得るという好例だろう。
それにまんまと引っ掛かったロブラスターは、結果として奇襲を許し、このような無様をさらす原因となっている。
そして、さらには冷静さまで失っている。その結果がどうなるか――。
「……はぁっ!」
「ぐ、がぁ……! こ、こんな、こんなことぉ……!」
怒りによる冷静さを、何より驕りにより危機感を失っていたロブラスターの胴体に、レオーネのデスサイズ。その凶刃が迫る。
だが、視野狭窄となっていたロブラスターが反応、ましてや回避など出来よう筈もなく――。
「が、ぎぃ、あぁっ――! そん、な、バカ、なぁ――!」
ロブラスターの上半身と下半身は泣き別れに、一刀両断されてしまう。
それでようやく自身の失態、そして最後を悟ったロブラスターは――。
「申し訳、ありません大樹……! バベルに、栄光あれぇぇぇぇぇぇぇ!!」
上半身が地に堕ち、下半身が倒れるとともに断末魔とともに爆発する。
その爆発を、ロブラスターの断末魔を看取ったレオーネは、冷たい視線でロブラスターだったものの残骸を見つめる。
そこにいつもの快活なレオーネの姿はなく、どことなく恐ろしげな姿をみせる。それはヒロインというよりも、むしろ――。
――どことなく、怪人を。倒すべき敵を彷彿とさせるものだった。