転送
千草、ならびにバルドルから緊急連絡を受けた渚、霞の両名は出撃のため、とある部屋へと急いでいた。
「……もう! この頃やっと静かになったから、少しは休めると思ったのにぃ!」
「なぎさ、言いたいことは分かりますが、今は急ぎましょう」
「うぅ……。分かってるけどぉ!」
そうじゃれあいながら二人は目的の部屋に到着する。
「でも、ここを使うのも久しぶりじゃない?」
「……確かに、そうですね」
そう言いながら部屋の中に入る二人。
部屋の内装はドーム状になっており、壁面の一部にホログラムで表示されたモニター。そして中央には円形の舞台に近しいものが設置してある。
そしてそれを囲うように複数の機械式のアーム。その先端にはパラボラアンテナのようなものが装着されていた。
「……なんというか、本当今さらだけどさぁ……。ここだけ凄くレトロチックだよねぇ」
部屋の中を見渡して、しみじみと呟く渚。
彼女が言うように、部屋の内装はどことなく昭和風のハイテク感を、ある意味バルドルの基地内で唯一時代錯誤を感じさせる見た目になっていた。
そんなこの部屋の名称は緊急転送室。
バルドルの科学技術、そして渚。レッドルビーの超能力を解析、一部を再現したことにより可能になったいわゆるテレポートを機械的に行う施設である。
……とはいえ、実のところ渚の超能力を解析したのは確かなのだが、それに対してほぼ成果は上がっていなかったりする。
この転送室自体も実際のところ、偶然成功しただけであり、理屈も理論も分からず、動物実験の結果、とりあえず使用可能と分かったので使用している。という有り様だ。
それどころか、渚自身テレポートを使えるわけではなく、理論上可能である。程度しか分かっていないというオチだ。
そのことから、この部屋を使うのは本当に緊急時。何らかの問題が発生し、即時展開が必要な時のみ使用する程度に抑えている。
ともかく、今は各方面でバベルが暴れていることと一部では怪人の出現まで確認されているため、緊急事態と判断し使用に踏み切ったのだった。
『二人とも準備できた?』
雑談していた二人のもとに水瀬が、準備が出来たかどうかの確認するため通信をしてきた。
いくら雑談していたとはいえ、既に準備自体は終わらせていたため、大丈夫だと返事する二人。
「水瀬さん! はい、こちらは大丈夫です。かすみも大丈夫だよね?」
「ええ、大丈夫です」
『それじゃ転送するわね。あと、状況によっては変身する暇がないかもしれないから、前もって変身しておいてね』
「それもそうでしたね。じゃあ、ちょっとだけ待っててください」
霞が水瀬の提案を聞いてその通りだと判断すると、少しだけ時間が欲しいと告げる。そして――。
「いいですね、なぎさ?」
「うんっ! いくよっ、変身――!」
「……――着装!」
彼女らの掛け声とともに着ていた制服が紐解かれ、それぞれのヒロインとしての姿になる。
変身し終えた渚、レッドルビーは調子を確かめるように掌を握ったり開いたりしている。
そして問題なし、と判断した彼女は気炎を上げた。
「よっし! こっちはいつでも行けるよ!」
そんな彼女を横目に霞、ブルーサファイアも己のコスチュームや専用武装であるブルーコメットを精査し、なにも問題ないことを確認する。
「ええ、私もです。水瀬さんお願いします」
『ええ、分かったわ。それじゃお願いね。――転送開始!』
水瀬の言葉とともに転送装置が起動し、二人に向かって特殊な力場が発生。彼女たちを包みこんでいく。
その後、少しづつ二人の身体か薄く、霞んでいく。転送が始まった合図だ。
そして最終的に彼女たちの姿が消え、部屋の中には再び静寂が訪れたのだった。