新たなる怪人
楓に襲撃に関して委細任せる、と言った盛周だったが、同時に完成した怪人。ロブラスターについて気になったこともあり、奈緒のラボへと訪れていた。
「それで博士、新しい怪人とやらはどこにいるんだ?」
「……大首領、急に来たと思ったらそれかい? まぁ、いいや。ロブラスターならそこで起動待ちだよ」
そう言って奈緒は一つの大型シリンダーを指差す。そこには緑色の液体がなみなみと注がれて、その中にロブラスター、赤いザリガニボディと人を掛け合わせたような怪人が漂っていた。
それを見た盛周は感心したような声を上げる。
「ほう、これが……。しかし、怪人とはこうやって作成するのか、博士?」
そう言いながら疑問を口にする盛周。
彼自身、今まで旧型の、既に完成していた怪人しか見たことがなく、前世のフィクションで見た怪人たちにしても手術室のベッドに括られて改造されている場面が主流だった。そのため、目の前にある光景は、今まで見たことがない、とても新鮮な光景に写っていた。
それに対して、奈緒は不思議そうな顔をして、盛周の疑問に答える。
「……うん? あぁ、そうだったね。大首領は初めて見るんだったっけ? そうだよ、昔はそれこそ手術さながらのやり方で改造するのが一般的だったんだけど、今はナノテクノロジーの発達もあってこちらのシリンダー型が主流だね。……まぁ、規模が小さかったり、財政的に厳しい秘密結社は、今も従来の方法が主流らしいけど……」
「……そうなのか?」
奈緒の説明に驚いた盛周は、目を普段よりも見開きながら問いかける。
と、いっても盛周が疑問に思ったのは他の秘密結社についてではなく、バベルが新しい怪人作成方法を採用できるほど資金的に潤っている。というところであったが。
もっとも、盛周が疑問に思うのも無理はない。
なにせバベルは一度、レッドルビーたちの手によって壊滅的な被害、というよりも実際に一度壊滅したのだ。
それなのに、僅か二、三年で復活し、さらには新しい機材、方法を採用できるほど飛躍できる。などと考えられるわけがない。
……まぁ、現実にはその飛躍が起きてしまっているのだから、事実は小説より奇なり。と言う他ないのだが……。
「あぁ、それは朱音のお陰だね」
「……彼女のお陰。――そうか、シナル・コーポレーション!」
「そそ、あそこの業績のお陰でこちらの資金も潤ってねぇ。お陰様で研究資金や、開発資金も増えてウハウハだよ」
そう言いながら心底嬉しそうに、にやり、と笑う奈緒。
彼女にとっても資金が増えることは嬉しいし、何よりシナル・コーポレーションが販売している物資は、すべて彼女の作品なのだ。
まさにマッチポンプだが、それはそれとして開発したものが金になって、データもたんまり手に入る。まさに極楽といっていい状況だろう。
しかも、手に入ったデータは新しい怪人に転用できるとくれば、もはや笑いが止まらない。といった心境になるのも無理はない。
まさしく、我が世の春が来た。といっても過言ではないのだから。
「それは何より。それで、このロブラスターは既に完成してるんだよな?」
「あぁ、そうだよ? ただ、今から起動実験だけどね」
「……おいおい、大丈夫なんだろうな?」
「大丈夫だとも、この奈緒さんを信じなさい」
そう言って彼女は、どや顔をしながら人よりも少々慎ましやかな胸を張る。
そんな彼女を苦笑してみる盛周。
もっとも、当の本人は盛周の反応などどこ吹く風といわんばかりに起動準備をする。そして――。
「それじゃ、やろうか。――ポチッとな」
彼女の気の抜けた掛け声とともに、エンターキーが押され、その直後。
シリンダー内の液体が排出され、それとともにカバー部分を解放。
解放されるのを待っていたように、ロブラスターは地に足を降ろすと彼らに向かって歩き出す。
そして盛周の側に立つと、そのまま跪く。
「お初に御目にかかります、大首領。ロブラスター、起動いたしました。これより我が力、大首領とバベルのために」
恭しく盛周へ挨拶するロブラスター。
それを見た盛周は、広角を上げる。そして――。
「よろしい、ならばその力、早速見せてもらおう。――貴様が行うべき作戦は、四天王の一人。草壁楓が把握している。……励めよ」
「――ありがたき幸せ!」
盛周の激励を聞いたロブラスターは、感極まりながら返答すると立ち上がり、盛周と奈緒へ軽く挨拶してから、おそらく楓に指示を仰ぐためラボを去っていく。
それを面白いものを見た、といった様子で見送る盛周。
「……さて、では。――新しい怪人の力、見せてもらうとするか」
と、楽しげに呟くのであった。