表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/199

盛周と朱音

 渚が恥ずかしさやらなんやらでうめいている頃、バベル秘密基地の一室では盛周と朱音が話し合っていた。


「それで、シナル・コーポレーションの方は順調なのか?」

「はい、盛周さま。何も問題ありません。もともとあの会社は、我らが資金洗浄のために使っていたペーパーカンパニーの一つでしかありませんし、むしろ実態が出来たことで色々と捗っていますわ」

「ならば良いんだがな……」


 そう言ってため息を吐く盛周。

 そんな彼を心配そうに見つめた朱音は、何かあったのか、と問いかける。


「何かあったのですか、盛周さま?」

「いや、別に問題がある訳じゃあない。ただなぁ――」


 そう言いながら、背を伸ばすのように仰け反る盛周。それにあわせて座っていた椅子の背もたれが、ぎしり、と軋む音を鳴らせた。


「どうしてもこの立場だと煩わしいことも多くなる。そう思っただけだ」

「……それは、心中お察しします」


 心底疲れた様子で愚痴をこぼす盛周に、朱音自身同じような立場で思うところがあったのか、同意するように慰めの言葉を口にする。

 沈痛そうな顔の彼女を見て、盛周は頭をがしがしと掻く。


「すまんな、つまらないことを言った」


 そして彼女へ頭を下げ、そのように謝罪の言葉を口にする。

 それに慌てたのは朱音だった。

 彼女は普段の凛とした表情が崩れ、わたわた、と端から見ると面白く感じるほどに動揺していた。


「頭をお上げください盛周さま! ……なにも、そう、なにも盛周さまには問題はございませんので――!」

「……くはっ、そう慌てることもあるまいに――」

「……うぅ」


 普段見せない彼女の様子に、思わず笑ってしまう盛周。

 彼に笑われたことから、朱音は恥ずかしいのか頬を赤く染める。

 そのまま少し、穏やかな時が流れる。

 それが二人の間に流れる空気を優しいものに変え、落ち着かせていく。


 そして彼女が落ち着いたのを見計らって盛周は話を進める。


「それで、()()からなにか連絡はあったのか?」

「……いえ、今はまだ――」


 そう言って盛周の問いかけに首を振る朱音。

 それを聞いた盛周は。


「……まぁ、便りがないのは良い便り、ともいう。今は信じるとしよう」

「……はっ」


 盛周の独り言のような呟きに同意するように返事する朱音。

 そして、盛周は改めて彼女を見据え。


「彼女もそうだが……。朱音さん、貴女にも苦労をかける」


 バベル大首領としてではなく、彼女に恩義を感じる一人の男として礼を告げる。

 もっとも、その言葉を聞いた朱音は――。


「……ふふっ、盛周さま。私のことは呼び捨てでいい、と申しましたのに」


 彼から醸し出される真剣な空気を、敢えて払拭するように優しく語りかける。

 それがかつての、バベル大首領に就任する前のことを思い出させて、盛周は柔らかく微笑む。


「そうは言ってもな。やはり貴女が俺の恩人なのには代わりない。だから、せめて二人きりの時はそう呼びたいんだよ。何より俺も恩知らずにはなりたくないから、な」


 冗談交じりにそう言って肩をすくめる盛周。

 そんな彼を見て、朱音もまたくすくす、と笑うのだった。



 そうして談笑していた二人だが、不意に盛周へ通信が入る。

 それを受けて、二人は普段のバベル大首領と大幹部という立場へ戻る。


「……なにごとか?」

『あぁ、大首領。ちょうど良かった』

「……博士、何かあったのか?」


 通信してきた相手は朱音と同じく大幹部、四天王の一人の奈緒であった。

 まさか、彼女から直々に連絡があるとは思わず怪訝な表情を浮かべた盛周。

 しかし、次に発された彼女の言葉で納得する。


『新しい怪人が完成したよ。それで楓くんも計画の策定を終わらせてるから、いつでも始められるみたいだよ』

「なるほど、了解した。……ちなみに、新しい怪人の名は?」

『新しい怪人の名前? ……うん、そうだね。ザリガニ型の怪人だから、ロブラスターで良いんじゃないかな?』


 新たなる怪人の名を聞いた盛周は目を鋭くさせる。

 これからがバベルとして、大首領として正念場となる、そう感じて。そして盛周は命を下す。


「では、はじめよう。我らのため、後のための戦いを。博士、楓にも伝えてくれ。襲撃の件、万事任せる、と」

『了解、伝えとくよ』


 そう言って奈緒は通信を遮断する。

 そして盛周もまた、今まで見せることのなかった、好戦的な笑みを浮かべるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ