一つの可能性
「何がおかしいんですか、レオーネさん?」
レオーネの仕草に、何かあるのかと思った渚は問いかける。
そんな彼女にレオーネは否定するように首を振る。
「そんなつもりはなかったんだけど、ね。ただ――」
そう言うとレオーネは千草を見る。
急に見つめられた千草は、どうしたのか、と首をかしげている。
そんな彼女にレオーネは一つの情報を告げる。
「実はボク。この頃、片倉さんの頼みで少し動いてたんだよね」
「片倉さん、って……。まさか、官房長官の?」
「そう、片倉官房長官」
レオーネの口から国家運営の実質No.2の名が出て驚く千草。そして、同時にかつて通信を受けた時、レオーネのことについて一切喋らなかったことに、ほんの少し、怒りをみせる。
あの人は、私たちがレオーネちゃんを心配していたことを知ってたはずなのに、と。
その顔を見て、レオーネは慌てた様子で弁解する。
「あぁ、待って千草さん。もともとボクが片倉さんに黙ってるように頼んだんだよ」
「……え?」
レオーネから放たれた予想外の言葉に驚く千草。そしてレオーネは彼女の驚きが治まる前に、畳み掛けるように続きを話す。
「ちょっとボクも当時忙しくてさ、顔出す余裕ないし、下手に話題に出るとまた色々と面倒になりそうだから黙ってもらってたの!」
「面倒って……」
レオーネの言葉を聞いて呆然とする千草。
彼女にとってレオーネもまた身内、娘のように考えていた節もあり、そのようなことを考えていたことにショックを受けていた。
そんな千草を見て、流石に悪いと思ったのかレオーネも申し訳なさそうに謝っていたが……。
「あはは……。ごめんね?」
「ふぅ、もう良いわ。……それに、そう思われるこちらにも問題があったのだろうし」
「あ、はは……。……本当にごめんなさい」
千草の悲しそうな顔と物言いに、流石に罪悪感を覚えたのか、レオーネはさらに真剣な様子で謝る。
彼女としても千草やバルドルの面々が嫌いという訳ではなく、あくまで個人的な理由から伝えないように要請していただけなのだから、自身の自業自得とはいえ千草の様子に多少堪えていた。
そんな申し訳なさそうなレオーネの姿を見た千草は――。
「ふふっ、少しは反省したかしら? レオーネちゃん?」
まるでイタズラが成功した子供のように微笑んでいる。
そのことで彼女に嵌められたと気付いたレオーネは――。
「ちょっ……! 千草さん――?!」
思わず怒気を発しそうになる。が、そもそもの原因は自分自身のため怒る訳にもいかずため息を吐く。
「……もう、千草さん」
「これでお相子よ、レオーネちゃん?」
「――まったく、かなわないなぁ」
そうしてお互いにクスクス笑う二人。そこには先ほどまでの蟠りはなく、いつもの雰囲気に戻っていた。
そしてレオーネは気を取り直して先ほど話そうとしていたことについて告げる。
「それで、えっと。なんだったっけ……。そうそう、ボクの方でも少し調べてたんだけど、復活したバベル。新生バベルとでも言おうかな? そこで興味深いことが起きてね」
「……何があったのかしら?」
先ほどとは違い真面目な話だと判断した千草は先を促す。それに応え、レオーネは続きを話す。
「どうやら彼らは何度か他の秘密結社と抗争を繰り広げていた可能性が高いんだ」
「……そうなの?」
レオーネの言葉に思わず確認を取る千草。
それも仕方ない。
彼女の言葉は言い換えれば、本来味方ではないが、積極的に敵に回す必要がない者たちが潰し合いを繰り広げていたという意味になるのだから。
そしてそれは、バルドルや自衛隊、警察機構の利にこそなれど、バベルには何の利益ももたらさない筈なのだ。
なのに敢えて悪が悪を潰す行為をなぜする必要があったのか。
あまりにも不可思議な行為に千草はもとより、渚、霞のヒロインたち二人も首をかしげることになる。
そんな彼女らにレオーネは一つの可能性。考えづらい、あり得ない。といいたくなる可能性を示す。
「もしかしたらバベルが改心。今までとは真逆方向に方針転換したのかも、ね」
と、告げたレオーネに三人は驚きの表情で見つめるのだった。