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過去と現在

 レオーネに呼び出された渚はそのまま彼女を後を着いていき、目的の場所。バルドル基地の一室にたどり着く。

 そこには司令の南雲千草と霞、母娘の姿があった。


「……あれ、かすみ?」

「……なぎさ、どうしてここに? 今日は池田さんと帰る予定では――」

「――ごめんね、ちょっと彼女の意見を聞きたくてボクが連れてきたんだよ」


 霞の疑問にレオーネが答える。

 その答えを聞いた霞は、少し恨みがましい視線を彼女へ向けた。

 親友が久々に想い人と帰ることが出来たというのに、わざわざ邪魔をする必要があったのか、と。

 レオーネも、そんな彼女の想いを察して苦笑を浮かべる。

 ただ、今回のことに関して渚の意見を聞きたい、というのも確かなのだ。

 己の後釜として秘密結社バベルと戦い、そして打倒してみせたヒロイン。即ち第一人者としての意見を、だ。

 そのためにもまず、なぜ今回渚をここに呼び出したのかを説明する必要がある。それは――。


「えっと、かすみちゃんだっけ……? ここにいるということは、千草さんから聞いてるとは思うけど」

「ええ、バベルについて不思議なことがある、と。ですが、それでなぎさを呼ぶ必要があったのですか?」


 やはり、親友の大切な時間を削ったことに思うところがあったのだろう。

 レオーネに対して少し刺々しい態度を取る霞。

 そんな取りつく暇もない彼女の態度に、レオーネと千草は互いを見合って苦笑する。

 そのことに、千草もまたグルだったのだと気付いた霞は二人を睨み付ける。


 辺りに漂う険悪な雰囲気に、結局訳も分かっていない渚はおろおろと回りを見渡す。

 そんな状況になってようやく観念したのか、千草は霞に頭を下げると今回のことについて告げる。


「ごめんなさいね。本当なら、なぎささんにはゆっくりしてもらいたかったんだけど……。レオーネちゃんとちょっと調べものしてたら、どうにも気になることを見つけて――」

「だから、その気になるものとは……?」


 いつまで経っても本題に入らない二人に、少しずつ苛立ちを募らせる霞。

 それを理解した千草は、本題に入るため近くにある資料を見るように告げる。


「それじゃなぎささんもこっちに来てもらって良いかしら?」

「はい……?」

「それで、そこに置いてある。そう、それ。その資料を見てほしいの」


 千草に示されるまま、置いてある資料に目を通す二人。

 その資料を見て、渚は疑問の声を上げる。


「……これ、バベルが起こした襲撃の被害報告?」

「ええ、それで……。二人とも、どこかおかしいところがあると思わない?」

「えっ……? えっと――」


 千草に問われた渚は、改めて資料を隅々まで見る。そして――。


「まって……、バベル復活後の被害。死者、重傷者がいない……?」


 そう、かつて渚がレッドルビーとして相対し、壊滅させたバベルの襲撃、破壊活動では死者、重傷者は普通に出ていた。渚の両親もその被害者に該当するのだから忘れられるわけがなかった。

 だが、バベル再始動後。

 盛周が大首領に就任した後のバベルでは、襲撃での死者、重傷者は発生していなかったのだ。


 渚の呟きを聞いた霞も慌てて資料を読み込む。そして、渚同様に驚きをあらわにする。

 そして、かつてサモバットと対決した時の襲撃を思い出す霞。


「確かに、あの時。保護した子供たちの中に怪我をした子はいなかった……。でも、そんなこと――」


 本当にあり得るの? と、こぼしそうになる霞。

 しかし、資料が。過去の記録がその通りである。と彼女たちに示している。


「分かってもらえたかしら?」


 千草の言葉が聞こえた二人は思わず彼女の方へ向く。そこには、二人同様に困惑した表情の千草の姿があった。

 そう、千草もまたこの資料を見つけて我が目を疑ったのだ。


 過去と現在のバベル、その二つの相違に。

 だからこそ、彼女は渚の意見を聞くためにレオーネに頼んで呼び出したのだ。常にバベルとの最前線を戦い抜いた英雄。レッドルビーである彼女を。


「……ええ、分かりました。でも――」

「そう、ね。なぎさ、これはあまりにも……」


 渚と霞、二人は困惑した声を発する。その声が示すように二人の顔色もまた、悩ましいものになっていた。

 それもそうだ。

 かつてのバベルは世界征服の野望のため、あらゆる手を尽くす非情さがあった。それが、二人の。レッドルビー、そしてブルーサファイアの偽りざる認識だ。

 だが、今のバベルには、そのような気概がないように見える。というよりも、世界征服が目的ではなくなったかのような――。


「やっぱり、君たちでも分からない、か」

「……え?」


 レオーネがふとこぼした言葉を聞いて疑問に思った渚は彼女を見る。

 そんな彼女をレオーネは、どこか微笑ましそうに見るのだった。

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