介入
「お、雄ォォォォォォォォォォ!」
アクジロー、盛周は雄叫びをあげながら再び大太刀を抜き放つとレッドルビーへ突進。
大上段に振り上げた太刀を思いっきり、躊躇なく振り下ろす。
このような一撃が当たればレッドルビーは、渚はいくら変身して強化されているとはいえ、ミンチよりも悲惨な事態になるだろう。
むろん、それは当たれば。という前提の話。
そもそも、こんな隙の大きい攻撃に当たる訳がない。と幼馴染みを信頼しているからこそ放った一撃だ。
そしてレッドルビーは彼の期待通り、攻撃を回避してみせると、振り下ろしたことで隙が出来たアクジローの懐へ飛び込んで鳩尾に一撃を叩き込む。しかし――。
「はぁっ! ……く、硬い――」
『ぬるい、と言ったぁ――!!』
「きゃっ……!」
零式起動甲冑、フツヌシの装甲を貫くことは出来ず、さらには反撃を受けて後退る。
そして後退ると同時に胸を押さえ、少し顔を赤らめる。
先ほどの反撃。アクジローはあくまでレッドルビーを自身から退かせるための軽い一撃だったが、それが偶然にも彼女の胸を押すことになったのだ。
流石に彼女も、英雄である前に一人の女の子。
推定、男性に胸を触られて平気でいられる訳がない。……もっとも、中身のことを知れば、また別の反応を見せる可能性が高いのだが。
ともかく、急に男から胸を触られた羞恥からレッドルビーは声を荒げて罵る。
「……この、変態!」
もっとも、そう言われたアクジローからすれば堪ったものではない。
そも、装甲越しなので感触を確かめるのは不可能だし、さらに言えば今回のは単なる事故だ。
それなのに変態などと罵られるのは、流石に納得いかない。
まぁ、これも男の論理だというのは理解しているつもりだ。男の道理があるのなら、女の道理もある。それはごく自然なものだ。
……納得するかどうかは別として。
「……それにこの人、何で私ばっかり――!」
確かにレッドルビーが言うようにアクジロー。盛周は彼女を優先的に狙っている。勿論それにも彼なりの理由がある。……と、いってもそれが戦略的とかそう言う話ではなくて、むしろ盛周の個人的な理由だったが。と、いうのも――。
(……いや、流石にあの状態じゃ目のやり場に困るって)
そう、ブルーサファイアのパワードスーツはサモバットとの戦いのまま修理を終えていない訳で、つまり色々と見えてはいけないものがモニター越しとはいえ――むしろモニターを介する分、肉眼よりもはっきり――見えそうな状態なのだ。
そんな彼女の柔肌を見るのは駄目だろう。と思う盛周は、なるべく彼女を視界に入れないようにしていた。そして、その結果レッドルビー、渚が割りを食っていた、というのが真相だ。
まぁ、流石にいざとなれば盛周も躊躇を捨ててブルーサファイア、霞に攻撃を仕掛けるつもりではあるのだが。
正直な話、今回のことは盛周にとっても想定外の事態だが、だからといって手を抜くつもりはない。というよりも、正確には英雄二人相手に手を抜けるだけの余裕はない。
彼自身、幾度となくシミュレーターによる訓練をこなし、またとある事情で少なからず実戦を経験しているが、それでも経験でいえば三人の中で一番下。余裕などある訳がない。
だからこそ――。
『悪いが、ここからは本気でいかせてもらう――!』
「……っ!」
アクジローは腰部にマウントしていた――どことなく、戦国時代に使われた火縄銃に似た姿の――筒状のものを彼女らへと向ける。
それは見た目通りの銃、というにはあまりにもかけ離れていた。
それもその筈、アクジローが引き金を引くが銃弾は発射されない。だが――。
「ちょっ……!!」
「くっ――!!」
銃弾は発射されなかった。しかし、それよりも凶悪な、もし照射されてしまえば一瞬で蒸発しかねない熱線、むしろ光線と言うべきか、が二人目掛けて放たれたのだ。
そのため、二人は慌てて回避行動をとり、結果難を逃れた。しかし――。
「……ぐぅ!」
「きゃあっ!」
仮に二人から外れたとしても、その威力は健在。彼女らの後方へそのまま突き進み、地面へと着弾すると大爆発を引き起こし、二人はその爆風による二次被害を被ることとなった。
さらには爆風による土煙も立ち上る。
だが、それが幸か不幸か二人の姿を覆い隠し追撃を逃れることに成功する。
もっとも、アクジローが追撃しなかったのは、二人の姿が確認できなくなったことも理由ではあるが、それ以上に――。
(……流石に威力が強すぎる。これでは……)
筒状の武器。ヒナワと名付けられた専用ライフルを使うのを躊躇したのだ。
彼としても今、無意味に彼女らを殺すつもりは毛頭ない。
何より、彼が考えている今後の計画からすると、彼女らを殺すのはむしろ悪手。最悪、自らの首を絞める選択になりかねない。
ゆえに、ヒナワを使った追撃をためらったのだ。
そうやってアクジローが追撃を躊躇ううちに土煙も晴れていく。
そして晴れた後、着弾地点を見たアクジロー、そしてヒロイン二人は度肝を抜かされることとなる。
『これは……』
「……なんてこと」
「ちょっと、シャレになってない、かな……」
着弾した地点には衝撃の凄まじさを物語るクレーターが、さらにその表面は光線の熱量で融解し完全なガラス状になっていた。
その光景を見て顔を青ざめさせるレッドルビー。
流石に彼女が超能力の力場を使い、バリアを張れるとはいっても熱量はどうしようもない。つまり、今の攻撃は回避に失敗した時点で死ぬことが決定する、理不尽極まりない攻撃だということが判明した訳だ。
思わず呆然とする三人。
しかし、そこで今まで沈黙を保っていた怪人。ガスパイダーだアクジロー、盛周に進言する。
「大首領! いまこそ、憎きヒロインどもを叩く好機。一気呵成に攻めましょう!」
『――あ、あぁ。そう――! 下がれ、貴様ら!』
呆然としていたアクジローは、流れのまま攻撃命令を出しそうになるが、そんな彼と、そして怪人たちを狙ったかのように、なにかが飛んでくる。
アクジローは飛んできたそれを反射的に叩き落とす。
叩き落としたときに聞こえた金属音、そして落とした場所には――。
『……投げナイフ、だと?』
そう、叩き落とした場所には、複数本の投てき用のナイフが落ちている。
しかもアクジロー。盛周にはそのナイフに見覚えがあった。とはいえ、それは直接見た訳ではなく、とあるヒロインの資料。その中で使用していた武装に関しての記述で――。
「あらら、残念」
『――!』
急に聞こえてきた二人のヒロインでも、怪人の声でもない第三者の声。
その子絵が聞こえる方向に目を向けたアクジロー。そこには身体かすっぽりと覆い隠される外套をまといフードで顔を隠した女性。
そう、彼女の名は――。
『貴様、バウンティハンターか!』
「流石に後輩二人を見捨てるってのは、性に合わなくってね。邪魔させてもらうよ?」
そう言いながらフードを、外套を脱ぎさる女性。
その外套の中からは、可愛らしい意匠ながら動きやすそうにも見える革製のジャケットやパンツ。そして、胸元はタンクトップといった、防御よりも回避を重きにおいた服装のヒロイン。
かつてバウンティハンターと呼ばれ、最強格と目されるヒロイン、レオーネが姿を現したのだった。