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新たなる矛

 レッドルビーとガスパイダーが激闘を繰り広げていた時、ブルーサファイアとサモバットもまた熾烈な争いを繰り広げていた。


「……っ、手強い――」

「くははっ、このサモバットさまを、以前までと同じだと思うなよっ!」


 コウモリの顔から表情こそ窺えないものの、勝ち誇ったように喜色のこもった声を出すサモバット。対してサファイアは、追い詰められた。とまではいかないが、それでも劣勢に違いなく、少し苦しげな表情を浮かべている。

 そして、それは二人の身体にも傷の有無として現れていた。

 サモバットは身体に細かい傷はあるものの急所、胴体や首、頭といった部分には傷を負っていない。

 しかし、サファイアは顔こそ傷付いていないが、他の部分は大なり小なりの傷が、そしてパワードスーツの一部も破けており、女性として大切な部分こそ露出を防いでいたが、彼女の珠の肌が多少見え隠れしていた。


 ただ、それでもサファイアの戦闘能力はまだ失われていない。

 パワードスーツの身体補助機能はまだ動くし、ブルーコメットも万全の状態、とまではいえないが、それでも戦闘を続ける分には問題ない。


 ただ、問題があるとすれば――。


「……っ、この短期間でここまでパワーアップしてるなんて……。いったいどんな手品を――」

「種も仕掛けもあるが――。それを教えるほど優しくは――!」

「しまっ――!」


 サファイアが僅かに思案した隙をつき、サモバットが彼女へ斬りかかる。

 その速度は、以前の比ではなく。まさしく進化、と。そう評すべきスピードであった。

 それでもサモバットの斬撃はなんとか防御するサファイア。しかし――。


「……ぐぅ、また――」


 確かに()()は防いだ。しかし、その筈の彼女に傷が、パワードスーツを貫いた一筋の切り傷が新たに付いていた。

 なぜその様な事態になっているのか。


 それはサモバットの斬撃が鋭すぎるがゆえに、ただの斬撃だけではなく、それに併せてかまいたちまで発生していたのだ。

 つまり、サファイアは物理的な斬撃は防御できていたが、副次的に発生したかまいたち。即ちく()()()()()()()は防げていなかった。……というよりも防ぎようがなかった、というのが正確か。

 そも、斬撃だけならば直接武器――今回の場合、サモバットの翼――を防ぐ、いわゆる点を防御すれば事足りるが、かまいたちとなると、点だけではなく全体、つまり面で防がなくてはならない。

 だが、それは彼女には、サファイアにはほぼ不可能と言っていい。

 なぜなら彼女が防御に使っているブルーコメットは、あくまで武器。

 いくら流体金属で形を変更できる、とはいってもそれはあくまで武器に限定しての話だ。

 つまり防御系の兵装、盾や籠手などといった物に変形できないのだ。


 ならばサファイアに必要なのは回避になるが、これも難しい。

 なぜならサファイアよりもサモバットが素早いのだ。その状態では回避行動を行おうにも……。

 だからこそ、サファイアは苦肉の策として防御を選択している。

 ただ、それでもこのままではじり貧であることに違いはない。


 ……このままなにも起きなければ、であるが。


 ――どこからともなく、風を切る音が聞こえてくる。


 その音を聴いたサモバットは音のする方角に向き直り――。


 ――次の瞬間、重たい衝撃を響かせた轟音とともに吹き飛ばされる。


「――な、なにぃぃぃぃぃぃぃぃ――!!」


 驚愕の声を上げるサモバット。当然だ、ここには彼とサファイアしかいない筈なのだから。そしてサモバットはサファイアから注意を逸らしていない。

 なのに、吹き飛ばされた。これはつまり二人以外の第三者がいることに他ならない。


「――各員撃ち続けろ! 彼女を、ブルーサファイアを援護するんだよ!」


 そう誰かが指示を飛ばしている。その誰かを見るサファイア。そこには――。


「これ以上彼女をやらせるな! 自衛官の意地を見せろ!」


 ――鮭延に命じられて、本部へ報告に走っていた筈の庭月がいた。

 そのことに驚くサファイア。


「庭月陸曹長?! どうしてここに……」


 サファイアの疑問に、にやり、と不適に笑って庭月は答える。


「なぁに、報告自体はすぐに終わりますよ。そもそも、我々だって無能じゃない。お膝元でこんな騒ぎが起きれば即応しますとも」


 そう言いながらライフルを掲げる庭月。

 そんな彼の姿を見てサファイアはあることに気付く。


 ――さっきサモバットは衝撃で吹き飛んでいた。つまり、ペイント弾ではあり得ない訳で……。まさか……?


 そう、庭月率いる第二分隊。彼らが使うライフルには今、実戦用の弾倉が装着されていた。

 そして、それはサモバットに対して明確なダメージを与えている。つまり、自衛隊は怪人相手に矛となり得る武装を手に入れたことを証明して見せたのだ。

 そのことに頼もしさを覚えるサファイア。もちろん今後も彼女は戦い続けるつもりだが、それでも戦力が多くなるに越したことはない。

 戦力が増えれば増えるほど守れる可能性が、そして渚が、レッドルビーが危険にさらされる可能性が減るのだから。


 その近い将来を夢想して、少し頬が緩むサファイア。

 そして彼女は庭月たちに声をかける。


「では皆さん、援護はお任せします――!」


 それだけを告げると、彼女はサモバットに突撃を、決着をつけるべく駆けるのだった。

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