執念
ガスパイダーを殴り飛ばしたルビーだったが、その時感じた妙な手応えに首をかしげる。
「……すこし、硬くなってる?」
彼女の疑問は正解だった。
彼女の知らぬことではあるが、ガスパイダーは新型コアの搭載時に装甲等も強化されていた。
即ち、今までよりも確実に打たれ強くなったいたのだ。
その証拠に、ガスパイダーはダメージを毛ほどの感じていない様子で立ち上がる。
「……ふ、ふふ。素晴らしいな。これなら勝てる――!」
感触を確かめるように拳を握りながら喜色に富んだ声を上げていた。
そんなガスパイダーを見て、ルビーは警戒するように足を踏みしめ、迎撃の構えをとる。今回のガスパイダーが、今までとはまったく違う、ということを理解して。
「ではいくぞ、宿敵よ!」
その言葉と同時にガスパイダーは彼女へ突撃!
その速度は、彼女が今まで相手取った怪人たちの中でもトップクラスだった。
確かに目を見張る速度ではある。だが――!
「……それでも!」
ルビーも伊達に数多の怪人たちと戦って生き残ってきたわけではない。
ガスパイダーの突撃に会わせるように拳を突き出し、二つの拳が激突! 周りに衝撃波を撒き散らす。
「……ぐぅ!」
「……このぉ!」
そして弾き翔ばされるように距離を取る両者。それは拳の衝撃が、威力が同格であることを示す証拠でもあった。
そのことに気を良くするガスパイダー。
なぜなら、彼女とはじめて戦った時はともかく、その後は常に劣勢の戦いを強いられていたのだ。
それが互角まで持ち直した。つまり、それは彼女へ勝利することも不可能ではない、という証拠に他ならない。
だか、彼が気を良くしていたのもすぐに失われることになる。
身体に僅かな衝撃を感じるとともに湿った感触。
「――各員、撃て! 気を逸らすだけでも良い。それだけでも援護になる!」
鮭延が自身の分隊へと、そう指示を出し実際にペイント弾が着弾していたのだ。
無論、ペイント弾でダメージを与えられるわけがない。だが、苛立ちでルビーに割いている警戒を分散させることは出来る。
「貴様ら、舐めているのかぁ! フシュルルル――」
「……散開!」
実際、鮭延の思惑は成功し、ガスパイダーは蜘蛛の糸を隊員たちに投射。
それを予期していた鮭延は隊員たちに散開を指示し回避させる。
そして、隊員を攻撃する。ということは一瞬とはいえレッドルビーへのマークが甘くなる、ということを意味する。同時にそんな隙を見逃すほど彼女は甘くなかった。
「……いま!」
彼女は自身の鉄甲の一部をスライドさせ、PDCを、サイキックエナジーを本格的に放出する。そして――。
「……ふっ!」
「……ぬう、しまった!」
超常の力で踏み込むとガスパイダーへ一瞬の内に接近!
「――イン、パクトォ!」
ガスパイダーに足払いをかけると、そのまま拳にサイキックエナジーをまとわせ、必殺の一撃を叩き込む。
だが、それだけでは今の、強化されたガスパイダーは倒せない。もっとも、それは想定済みだ。
だから彼女は一撃だけで終わらせない。
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
――右で胴を打ち込む!
――まだ!
――左で脇腹を抉る!
――まだ!
――再び右で、今度は頬を!
――まだまだ!
――次は左で、胸を!
――もっと!
――今度は右でアッパーカット!
ルビーから怒涛の連撃を受けたガスパイダーは天高く打ち上げれる。そして、それはダメージを受けたガスパイダーが無防備になっていることを意味する。
その隙を見逃す理由はない。だからこそ、ルビーはガスパイダーにトドメを刺すべく跳躍する!
「これでぇ、トドメ――!」
跳躍すると同時に、足下からサイキックエナジーを噴射することでルビーは打ち上げられたガスパイダーよりも高く天を舞う。
そして彼女は空中でくるり、と廻ると今度は天に向かってサイキックエナジーを放ちガスパイダー目掛けて加速!
そのまま加速したエネルギーと落下エネルギー。さらには回転することによるエネルギーをプラスさせ、最後に本命とばかりに脚にサイキックエナジーを集中!
「――や、あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
気炎とともに渾身の跳び蹴りがガスパイダーへ浴びせかけられる。それを受けたガスパイダーは――。
「ぐ、おぉぉぉぉぉぉぉぉぉ――!」
地面に向かって弾丸のように打ち出され、激突!
激突の衝撃で辺りは小規模の地震が起きたように揺れ、爆心地には土煙が立ち昇る。
遅れて地面に降り立ったルビーは、手応えを感じ取ったようでガッツポーズをしている。だが――。
「……まだだ!」
爆心地から聞こえるガスパイダーの声。
土煙が晴れるとそこには満身創痍ながらも立ち上がっているガスパイダーの姿が。
今だ健在な姿に驚くルビー。
それを見てガスパイダーは。
「なめるな、なめるなよレッドルビー! 俺は、俺さまはまだ終わって、なぁぁぁぁい――!」
と、啖呵を切り、気炎を発するのであった。