驚きと不安
自衛隊製のパワードスーツを見て驚いていたレッドルビーとブルーサファイア。だが、二人にとってさらなる驚きが襲う。
それは彼らが訓練のために持ち出した武器。二人はその武器に見覚えがあった。しかし、それは同時に今まで共闘していた彼らが使用していた武器ではなかった。それは――。
「……うそ」
「まさか……」
各々が呆然として呟く二人。
彼女たちの視線の先にある武器。それは秘密結社バベルの戦闘員。バトロイドが使用していたライフル――少なくとも同型か、新たに開発された模倣品――に見えた。
パワードスーツだけではなく武器まで。それだけのものを見せられた二人の驚愕たるや、いかほどのものか。
もし、あのライフルがバトロイドと同型なら、そのバトロイドを撃破するのに必要な隊員の数が数人、場合によっては十人前後だったのが、二、三人程度に収まる可能性すらある。
それどころか、今まで自衛隊では撃破不可能だった怪人ですら倒せる可能性が出てくる。
無論、それは悪いことではなくむしろ良いことなのだが、いくらなんでも急に技術が発展しすぎている、とも感じられる。
まるでどこからか技術を供与――横流し――されている、とも取れる状況。
そのことに気持ち悪さすら感じる二人。
本当にその武器は安全なのか? もしかしたら、何らかのトラップが仕掛けられている可能性はないのか?
その様な心配が頭をよぎる。
二人の顔に、そんな心配がありありと現れていたのだろう。
彼女らを安心させようと鮭延が口を開く。
「あぁ、あの武器はもともと鹵獲品を解析し、隊員でも扱いやすいようにデチューンしたものですよ」
「……え、そうなんですか?」
「ええ、まぁ、今回は訓練ともあって弾薬はペイント弾になってますが」
「なるほど……」
鮭延の説明に納得がいったのか、ブルーサファイアはしきりに頷いている。
それとは逆にレッドルビーは、なにか懸念でもあるのか険しい表情を浮かべている。
そのことが気になったブルーサファイアは彼女へ問い掛ける。
「ルビー、どうしたんですか? そんな怖い顔をして」
「……へっ? あ、うん。ペイント弾って聞いたから、ついたら汚れ落ちるかなぁ、って……。そんなに怖い顔してた?」
レッドルビーの飄々とした返しに肩透かしを食らうサファイア。そして彼女は先ほどと同じように呆れた様子で肩をすくめている。
そんな彼女とのやり取りをして、レッドルビーもまた緊張がほぐれたのか、へにゃり、と人好きのする笑みを浮かべている。
……ただ一つ。彼女がサファイアの問い掛けを誤魔化し、本当の意味での心配ごとを告げなかったのを除けば、という話になるが。
というのも、これは完全にレッドルビーの肌感覚の話になり、正直なところ彼女自身も確証を持てていないのだから。
それは、感覚でいえば彼女の肌に感じるざらつきのようなもの。いわゆる嫌な予感というやつだ。
彼女はその感覚を一つの指針として重要視している。
なぜそんなことを、と思うかもしれない。だが、彼女は、彼女自身だからこそその感覚を大事にしている。
なぜなら、彼女の武器は超能力。いわゆる非科学的な力だ。
それが存在し、現実に行使できる以上、悪い予感や勘などといったものを否定できる道理はない。
そして何よりも――彼女自身は行使できるつもりはないが、物語の中に於いて超能力という力の一辺に未来予知というものがある。
そんなものがある以上、警戒しない。という選択肢はとれないだろう。だからこそ彼女は自分の感覚を大事にして、時には警戒する。
それが自身を、仲間を、そして大事な人を守るための一助になると信じて。
だけど、今は――。
「まず、仮想敵を頑張らないと、ね」
そう言うとレッドルビー、渚は不安を追い払うように、自身に気合いを入れるように頬をパチン、と叩く。ただ――。
「いふぁい……」
「ああ、もうなぎさ。……勢いよく叩きすぎなんですよ」
叩く力加減を間違えて、頬を赤く染めながら涙目になり、相棒の霞に心配され、鮭延からは苦笑される。というオチがつくのだった。