計画
楓が盛周から改めて襲撃計画の策定を指示された日から数日後。
なんと彼女は早々に計画の策定を終え、盛周がいる大首領用の個室へ報告に来ていた。
まさかこんなにも早く策定が終わるとは思っておらず、最初は驚いていた盛周。
もっとも、彼女のそういうところも含め、有能だったからこそ四天王として抜擢したことを思い出し、彼は自らを納得させていた。
だが、それに反して当の本人たる楓はどこか苦々しい雰囲気を発している。
そのことに疑問をもった盛周は、手に持った資料をヒラヒラとさせながら彼女へ問い掛ける。
「どうした楓? ……少なくとも見せてもらった部分では良く出来てるが、なにか問題でも?」
「……っ。いえ、なにも問題は。ですが、ちょっと……」
恐らく問い掛けられるとは思っていなかったのだろう。肩をびくつかせて少し驚いていた楓は、なぜ自身がそのような反応をしていたのかを答える。
「……今回の襲撃計画ですが、あの娘から貰った情報がなければここまで早く出来なかったもので」
そう言いながら悔しそうにする楓。
彼女の言葉。そして、悔しそうな表情から情報が誰からもたらされたのか察した盛周は、納得した様子をみせる。
「なるほど、そういうことか」
「……申し訳ありません」
「別に俺に謝る必要はないんだがなぁ……」
そう言いながら困ったような、どこかもどかしそうな表情を浮かべる盛周。
「ただ、彼女とはもう少し、仲良くなってくれると、俺としても助かるんだか……」
盛周の言葉を聞いた楓は申し訳なさそうに頭を下げる。
彼女自身も盛周の言いたいことは理解できている。しかし、納得は出来ないでいたのだ。
そんな彼女の様子に盛周は嘆息する。
「やはり、難しいか?」
「…………はっ」
盛周の問い掛けに、短く、申し訳なさそうに返事する楓。
やはり彼女にとって同僚とはいえ外様の、しかもかつて敵対していた者を信用するのは難しい。ということなのだろう。
――それが、たとえ盛周直々の指名であったとしても、だ。
そう、バベル四天王。彼女たちの地位を与えたのはすべて盛周だ。
そもそも、壊滅前のバベルには四天王と呼ばれる地位はなく、基本的に大首領と副首領。盛周の両親によるトップダウン方式だった。
しかし盛周はバベルという組織の知識に乏しく、間違った方向に舵取りをする可能性を危惧し、自らをサポートする意味合いを含めて四天王という地位を創設。
そして古参である朱音と奈緒。新参だが有能であった楓と最後の一人。計四人をその地位に据えると一種の合議制の形を取った。
それが現在、新生バベルの体制だった。
もっとも、盛周は気付いていないが、その四天王という制度を創設させたことにより、奈緒は盛周の力量に――先代よりも劣るのではないか、と――不安を覚え、彼を試すような行動とともに、彼を先代大首領の後継に相応しくなるように鍛えようとしていた。
朱音もまた奈緒の思惑は薄々気付いており、それが盛周のためになることも理解していたため、敢えて目をつぶっている。
ともかく、そういったことから盛周にとって四天王がもっとも信用できる存在であり、だからこそ、四天王どうしでいがみ合うのは可能な限り避けてほしいというのが本音だった。
もちろんそれはあくまで盛周の言い分で、彼女らにも彼女らなりの言い分があることから、必ずしもそれが出来る、とは考えていない。
ただ、出来る限り仲良く自身を支えてもらいたい、という願望でしかないのだから。
しかし、いつまでもそのことに拘っている場合でもないため、盛周は話題を変える意味も込めて楓に話しかける。
「まぁ、それはともかくとして、だ。計画自体はこれで問題ないのだろう?」
「はい」
「ならば委細任せる。頼りにしているぞ」
「――はっ!」
盛周の頼りにする。という言葉を聞いた楓は真面目な、硬い表情ながらも嬉々とした雰囲気で力強く返事をすると部屋から退室する。
そんな彼女を見送った盛周は、今一度楓が策定した資料に目を通すと、どこか感慨深げに呟く。
「しっかし、自衛隊基地。しかも、パワードスーツの試験場を襲撃、ねぇ……」
そう言ってため息をつく盛周。
彼にとしても今回のことに関しては想定外の事態ではある、が。それでも、そう悪いことばかりでもない、と思い直す。
「まぁ、色々な意味である意味都合はよくある、かな? 新型コアのテストとしても申し分ないだろうし……」
そう言いながら彼は今度の襲撃について思いを馳せるのだった。