疑問
昨日の休暇でリフレッシュできた千草はバルドル司令室に帰還していた。そして、休暇の数日前に官房長官からもたらされた一つの情報について思案していた。
「自衛隊でバベルに対抗するため開発中のパワードスーツ。それの仮想敵を務めてくれ、ね……」
訝しげな様子で考え込む千草。それも当然だ。彼女自身にも自衛隊との伝があるが、そちらからはそのような情報は降りてきていない。
それなのに、官房長官は自衛隊で新装備が開発中といっている。
いったいどちらの情報が正しいのか、あまりにちぐはぐだ。それに――。
「……あれは確かにレオーネちゃんだった」
先日ぶつかった彼女。改めてどう考えても行方不明となっていたヒロイン、レオーネで間違いない。
なぜ、彼女が行方をくらましたのか。なぜ、今になって現れたのか。
確かに彼女は依頼によって動くことから、バベル復活を機に活動を再開した、ともとれる。しかし、それにしてはなにか引っ掛かる。
自身の、バルドル司令の席に座り、顎に手を当てながら考える千草。
なにか、なにかを見逃している感覚がする。
まるで、喉に小骨が刺さったかのような違和感。
「……あの、司令」
そのまま考えを続けていた千草だったが、オペレーターの一人に声をかけられてハッとする。
いつの間にかかなり考え込んでいたらしい。
「あら、ごめんなさい。どうしたのかしら?」
謝る千草に恐縮した様子でオペレーターは、彼女へ声をかけた理由を告げる。
「申し訳ありません。先ほどから司令が上の空に見えたもので……」
「あ、ははは……。そういう訳ではないのだけど」
オペレーターに心配されていたことを知った千草は恥ずかしさに少し顔をひきつらせ、誤魔化すように笑う。
そして彼女はついこの間出会った、レオーネらしき女性について話す。
「この前、休みの時にね……。あの娘に、レオーネちゃんらしき娘に会ったのよ」
「……えっ! あの娘にですか?!」
千草の言葉を聞いて驚きをあらわにするオペレーター。
それもそうだ。このオペレーター、彼女もまたバルドルの所属としては古株であり、過去にレオーネと交友があった。
それ故に、レオーネの所在が不明になった時は千草と同じく無事を祈っていたのだ。
だからこそ先ほどは驚いたし、それ以上に無事を喜んだ。
だが、ふと疑問に思うオペレーター。
「……ん。あの娘らしき、ですか?」
「ええ、そうなのよ」
「それはいったいどういう……?」
千草の煮え切らない態度に疑問を抱くオペレーター。
だが、次に千草から出た言葉を聞いて納得する。
「ほら、あの娘。きれいな銀髪だったでしょう。でもこの間会った娘は銀、というよりは白髪に見えたのよ」
「なるほど、それで……。でも、それなら声はどうだったんです?」
「声、かぁ……。確かにレオーネちゃんぽかったけど」
「それなら、本人なんじゃ……?」
「でも、それならなんでこっちに顔を出さないのかが分からなくて……」
そのまま、うーん。と悩む二人。
レオーネ本人だとすると、なぜ名乗りでなかったのか。今まで、どこで何をしていたのか。
少なくとも、二人はレオーネと比較的仲が良い。それなりに交友を深めていた、と自負している。それなのに……。
レオーネが名乗り出ない理由が分からず、悶々と悩む二人。
その時、司令室の扉がかしゅ、と開き――。
「こんにち――あれ?」
「どうしたんですか、南雲司令?」
渚と霞が入ってくると、千草たちの顔を見てどうしたんだろう。と不思議そうに首をかしげている。
そして千草もまた、二人が入ってきたことに気付くと自身の席に表記されている現在時刻を確認する。
時刻を確認した千草は、既に夕方になりそうな時間帯だったことを理解する。
「あら……。もう、こんな時間だったのね」
「そうみたいですね」
思わず、と言った様子でこぼす千草と、それに同意するオペレーター。
そんな二人に、渚は疑問を投げ掛ける。
「二人とも、どうかしたの?」
「いえ、特にはないのよ。それよりもなぎささん、ちょっと頼みたいことがあるんだけど……」
「はい……?」
渚の問いにどこか誤魔化すように口を濁しながら頼み事があると告げる千草。
渚は、唐突に頼み事があると言われ困惑した表情を浮かべるのだった。