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密談

 厳粛な雰囲気に包まれた狭い空間。そこにとある二人の男女が顔を合わせている。

 一人は初老の、(いわお)を思わせる厳格な雰囲気を纏わせる男性。

 対するは、この場にいるのが相応しくなさそうにすら思える小柄な体格の、得てすれば子供。中学生にも間違われそうな体躯をした白髪の少女。

 しかし、彼女の実年齢は既に成人しており、そのことから一部、彼女のことを知っている者たちからは、栄養失調ぎみではないのか。と心配されていたりする。


 そんな彼女は良く言えばスラリとした、悪く言えば子供体型の胸を張るように背筋をピン、と伸ばしつつソプラノ調の声で男性と話をしている。


「――これで報告は以上となります、()()()()

「ええ、分かりました。ご苦労さまです」

「……いえ、これが今のボクに課せられた仕事ですので」


 少女の口から出た官房長官という役職。そう、目の前にいる巌のような男は、現在の内閣府における実質的なNo.2。その立ち位置にいる人物だった。

 なぜそのような人物が、少女と見まごう女性と一対一で、護衛すら付けずに面会しているのか?

 それは今この場では語るべき内容はない。ただ一つ、言えることがあるとすれば。それは、彼女が内閣府、政府にとって有用な存在であることと同時に、彼女がこの場にいることを悟られるのはお互いにとって不利になる。ということだ。

 もちろん、そのことは彼女自身理解しており、だからこそ彼女が独自に持つホットラインにて連絡を取り、面会の調整を行っているのだが。

 そして、その事実は同時に。少なくとも彼女は政府からある程度の信用を得ていることを意味する。


「しかし、今回は本当に助かりました。貴女が提供してくれた情報によって、ことがスムーズに運んでいますから」

「恐縮です」


 彼女からしても官房長官の言葉は世辞や社交辞令には聞こえず、本心から感謝されていることを感じたことで少し、その色白な頬を赤らめ控えめに感謝の意を表する。

 そんな彼女を見て男は微笑ましそうに――事実、彼女との年の差は親子、もしかしたら祖父孫ほど離れているため――見つめている。


 そのこともあり、先ほどとは打って変わり秘密の面会とは思えないほど、緩い雰囲気が辺りを漂う。

 その雰囲気を嫌ったのか、あるいは単に恥ずかしくなったのか。

 彼女はこほん、と咳払いを一つする。


「それでは、今回の取引は以上ですね」

「ええ、そうですね。お疲れさまでした」


 彼女の言葉を肯定するように官房長官も言葉を続ける。そして、全て終わったとばかりに席を立とうとする女性。

 だが、そこで官房長官は彼女を引き留めるように声をかける。


「ああ、お待ちください」

「……なにか?」

「いえ、()()()()()()に伝えてほしいのですよ。今回も助かりました、と」


 彼の言葉を聞いた女性は、少女の姿からは想像できないほどの可憐な笑みを浮かべる。それはまるで愛しい人へ向ける無償の愛のようであった。


「……確かに伝言承りました。ですが、一つだけ訂正を」

「……なにか?」

()()()()はボクの雇用主、じゃなくてご主人さまですよ?」


 その言葉を最後に彼女はいつの間にか取り出した外套を纏い、最初からここにいなかったかのように姿が掻き消えていく。

 彼女がこの場から去ったことを理解した官房長官は人知れず大きなため息を吐く。

 そして、無意識の内に握りこんだ拳を、いつの間にか汗で湿ったそれを開くと、気を落ち着かせるように深呼吸する。


「……やれやれ、彼女があそこまで心酔するとは。少なくとも、今は敵でないことを喜ぶべきだが」


 そこまで言ってかぶりを振る。今はそんな無駄なことを考える時間はないからだ。

 彼はそれほど暇はないし、何より――。


「――今は情報を共有するのが先決、か」


 そう言うと彼は部屋に設置されている電話の受話器を手に取る。すると、何も操作していないにも関わらず何処へ電話が繋がる。


『はい、どうなされましたか官房長官?』

「今から、緊急のオンライン会議を行いたい。バルドルの南雲司令に連絡をお願いできるかな?」

『――承知致しました。ただいま連絡致します』


 それを最後に通話が途切れる。電話先の人員はこれでバルドルの南雲千草に連絡を入れるだろう。

 そのことを確信した彼は、今まで座っていた椅子に深く身を沈める。


「……()()()()()()()()()()、これからこそが正念場、か」


 そう言いながらも、彼の目は獲物を狩る鷹の目のようにギラついていた。

 これから起きるであろう難題を解決するために覚悟を決めるとともに、()()()とともに国を、民を守るために。

 そのためならば、何であろうと成してみせると意気込みながら。

 とりあえず、今はバルドルから通信が来るのを待つのであった。

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