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バベル再興記~転生したら秘密結社の大首領になりました~  作者: 想いの力のその先へ
第五章 魔法少女-オーラムリーフ

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決着、氷の魔人

 氷の人型から氷の鎧を纏った姿に変化した魔人。氷の面積こそ減ったが、放つ冷気はむしろ苛烈さを増した。


「……っ、このままじゃ、まずいね」


 レオーネは内心歯噛みする。エレファントムは怪人、ということで寒さは大丈夫のはずだ。しかし、レオーネ本人とオーラムリーフはそうもいかない。

 レオーネは身体能力こそ優れているが、それ以外は只人。体温が低くなればそれだけ身体の動きも悪くなってくる。事実、レオーネの指はかじかみ、少し痺れはじめていた。

 オーラムリーフもそうだ。彼女は炎の魔法少女であるからして、ある程度自身の炎で暖を取ることは可能。しかし、それは魔力との交換であり、継戦能力の低下はまぬがれない。

 即ち、時間がかかる程、ヒロイン側は形勢不利になっていく。


 問題はそれだけじゃない。よくよく見れば、魔人の足元からピキピキ、と公園の土が凍結していく音が響いている。己が優位に立てる自陣を増やしているのだ。

 そして、魔人の足裏にはまるでアイスブレードらしきもの。明らかに凍らせた地面を高速移動できますよ、と宣言しているようなものだった。


 それに引き換え、レオーネたちは凍った地面に足を取られ、まともな移動ができなくなるのは明白。機動力すら奪われることになる。


「――かといって、無策の突撃は論外。どうしよっかなぁ……」


 思わず笑いがこぼれるレオーネ。正確には、笑わなければやってられない、という心境だ。それほどまでに手詰まりな状況だった。

 なにしろ、この場にいる三人。いずれも近接戦闘が主体。かろうじて、オーラムリーフだけが中距離戦も可能か、といった程度なのだ。

 それに引き換え、あちらは時間経過を待つだけでも勝利を得ることができる上、先ほどエレファントムに氷の刃を放ったように中、遠距離戦も行える。許されるのならば、お手上げ、と言いたい状況だった。


「さてさて……。リーフちゃん、何かある? 正直、ボクはお手上げなんだけど」


 早々に自身が切れる手札がないと、レオーネはサレンダーする。それに対してオーラムリーフは、自身に良い考えがある。と口を開いた。


「なぁ、レオーネさん。エレファントムでも良いけど、アタシをあいつのとこまで飛ばしてくれ」

「ちょっと、リーフちゃん。大丈夫なの?」

「うん、大丈夫。アタシがまず、先陣を切って魔人の周囲を溶かす。その後は……」


 オーラムリーフの作戦、それは半ば博打じみたものであった。なにしろ、飛ばしたとしても間違いなく魔人の迎撃がある。

 即ち、迎撃を溶かせなければ失敗。きちんと魔人のもとまでたどり着けなければ失敗。周囲を溶かす魔力が残っていなければ失敗。それどころか、溶かすだけの威力がなければそもそも失敗。という、分の悪い賭けであった。


 ただし、それが成功できれば、後はレオーネ、エレファントムも合流して数で囲めば良い、という寸法。まさしく、死中に活を見いだす、といったところだった。


「はぁぁぁぁ……。分かったよ」


 大きくため息を吐いてレオーネは頷いた。彼女としても手詰まりである以上、少しでも可能性があるならそれに賭けるしかなかった。

 正直、秋葉――オーラムリーフ――はヒロインとしては新人も良いところ。あまり無茶はさせたくなかった。だが、いまの状況は彼女へ無茶させることを要求している。それがレオーネには歯痒かった。


「リーフちゃん、無茶しないで、とは言わない。頑張って」

「……はいっ!」


 それはレオーネがオーラムリーフを、新たなヒロインを認めた確かな証。それに応えようとオーラムリーフもまた、自身の士気を、気力を高める。

 オーラムリーフを頼もしく思う。そして、できれば自身で送り出したかったレオーネ。しかし、既に彼女は身体の冷えによる身体能力低下が起こりはじめていた。

 それも仕方ない。彼女が白い息を吐いていることからも分かるように、この周囲の気温は氷点下に近い温度にまで下がっている。

 そんな中でレオーネはもともと外套を纏っているとはいえ、それ以外は半袖、ショートパンツという薄着なのだ。耐寒防御などできるはずもなかった。

 そのため、レオーネは彼女を送り出す役目をエレファントムに託した。


「どうにも、いまのボクにはあそこまでリーフちゃんを送るのは無理みたい。……頼める?」

「くふふっ、任せるんだぞぉう!」


 レオーネに頼られて上機嫌なエレファントム。なにしろ、レオーネの本来の役職はバベル四天王。秘密結社バベルの大幹部なのだ。大首領と奈緒に任務を任され、いま、また大幹部のレオーネに頼られる。

 エレファントムにとって、これ程の誉れは他になかった。俄然、やる気が出るというものだ。


「それじゃ、行くぞぉう?」

「……あぁ!」


 エレファントムの手のひらに乗りながら覚悟を決めたオーラムリーフ。エレファントムも疑似筋肉がぎちぎち、力を溜め、悲鳴を上げている。


「そぉら、飛ぶんだぞぉう!」


 矢を放つようにオーラムリーフを投げる。ごぅ、と風を切る音がオーラムリーフの耳へ響く。彼女は弧の軌跡を描きながら空へ舞い上がる。

 この角度なら、間違いなく氷の魔人まで届く。三人ともが得心した。

 そして、それは氷の魔人にも当てはまった。

 上空を飛翔する天敵(オーラムリーフ)。巨大な熱の塊を懐に入れようものなら敗北は必定。なんとしても迎撃しないといけない。魔人は数多の刃を生成し、放とうとして――。


 ぱきり――凍結した地面が割れた音が響く。

 振り向こうとした魔人は後ろから羽交い締めで拘束された。

 次々と予測不能なことが起きて、パニックに陥る魔人。自身を拘束したものを確認しようとして――。


「くふふっ、油断大敵だぞぉう?」


 独特の語尾が聞こえた。間違いない、エレファントムだ。

 しかし、なぜ彼がここにいるのか。それはオーラムリーフを投げ飛ばした直後――。


「おいらはファントム(亡霊)。どこにでもいて、どこにもいないんだぞぉう」


 そう、なんてことはない。上空にいるオーラムリーフを囮として、彼女に注意が逸れた瞬間に幽体化。そして、死角に回るよう後方へ移動し、幽体化を解除、拘束したのだ。

 だが、これは諸刃の刃でもある。いくらエレファントムが凍結に耐性があったとしても、じかに一帯の気温が下がる原因を拘束していたら、流石にダメージを受ける。

 しかし、エレファントムにはそれは些細な問題。要はオーラムリーフがたどり着くまで注意を引き付ければ良い。


 そして、思惑通り魔人は顕現させた氷刃をエレファントムへ向けた。降り注ぐ氷刃、ぐさり、と人工筋肉を貫く感覚。


「……ぞ、ぉう!」


 だが、倒れるつもりはない。魔人によって破壊された部下たち。バトロイドの仇に一矢報いるまでは。

 ぎりぎり、と万力の力で締め上げる。絶対に逃がさない。それだけを考えている。

 いまだ降り注ぐ氷刃。それでも、致命傷。頭やコアだけは避ける。それら以外は敢えて受け、氷刃自体を盾とする。


 氷刃に氷刃がぶつかり、さらなる大きさに進化する。


 ――それが、どうした。


 エレファントムにとって、オーラムリーフが、宿敵(ヒロイン)が懐にたどり着くまで耐えれば勝ちなのだ。


「やるんだぞぉう、オーラムリーフぅ!」


 バチバチ、とダメージの負荷から紫電。火花を散らしながら叫ぶエレファントム。

 オーラムリーフも自由落下のスピードすら味方に付けて、刃を、太刀を振り下ろす。


「ファイア、ブレイド――!」


 炎の剣を袈裟懸けに切り込む。氷鎧に食い込み、じゅう、と蒸気をあげ融ける。しかし、足りない。いまだ火力が足りない。もはや、エレファントムも限界だ。エレファントムの拘束が解かれた瞬間、オーラムリーフは魔人の逆襲を受けるだろう。

 だが秋葉も、オーラムリーフもここで終われない。本来、敵であるエレファントムの献身。自らを犠牲にしての血路。それを無駄にはできない、だから――!


「破、ぁぁぁあぁ――!」


 ファイアブレイドの出力が上がる。オーラムリーフの背中から炎の翼がばさり、と拡がる。

 それは、彼女自身が無意識に生み出した新しき魔法。自身の魔力を高め、大空を飛ぶための新たなる力。


 ――フレアウィング。


 爆発的な蒸気が吹き出し、辺りを蹂躙。氷が融けていく。魔人は大口を開け、声なき悲鳴を、そして声の代わりにギチギチ、と氷が不協和音を奏でる。

 オーラムリーフはすべてを断ち切るように、ファイアブレイドを振り抜いた。








「それじゃあ、この娘は貰っていくよ」


 そういって魔人、いや、魔法少女の亡骸を抱えるレオーネ。結局、岩の魔人。石原里桜と同じように氷の魔人にも敗れると生命活動を停止する仕掛けが施されていた。

 しかし、里桜と同じ、ということは彼女もまた蘇生できる可能性がある。


「あぁ、頼むよレオーネさん」


 オーラムリーフもそれが当然のように見送る。人死になど起きない方がいいから。だからこそ、レオーネに。秘密結社バベルに託す。それが一番だと信じて。そして――。


「……世話になったな、エレファントム」


 優しげに声をかける。エレファントムはそんな彼女の声に反応しない。否、できない。

 融けかかった氷刃が身体を貫いたまま膝をついている。彼は、最後の最後まで魔人を拘束して、オーラムリーフが彼女を、魔法少女を解放するのを確認して機能を停止した。


 彼の背後には一体のバトロイド。魔人を発見した際、エレファントムを呼びに行った個体だ。

 目元のバイザーが光ったあと、バトロイドはエレファントムだったものを抱える。


「大丈夫、なんだよな。レオーネさん」


 それは一体どちらへの言葉か。優しげに、そして寂しげに語りかけるオーラムリーフを安心させるように、レオーネは微笑む。


「大丈夫、奈緒姉ぇだもん。……それじゃあ、また」

「うん、また……」


 そうしてレオーネとオーラムリーフは別れる。片方はバベルに、片方はバルドルへ戻るために。

 オーラムリーフの心に苦いものを残して……。

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