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二人の決意

「やぁ、お楽しみだったかな?」


 レオーネの頭を撫でていた盛周の耳に聞こえてきた唐突な声。彼女の声が聞こえてきたことで嘆息する。


「覗き見――今回の場合、不法侵入か。どちらにせよ趣味が良いとはいえんな、博士」

「はははっ、奈緒さんの趣味が良いなんて微塵も思ってないくせに」


 からから、と笑う奈緒。いつの間にか、ヴィレッジロックの検査を終わらせた彼女は、報告のため部屋を訪れていた。

 すると、部屋の中ではすやすやと眠るレオーネと、そんな彼女の頭を優しく撫でる盛周。彼女は面白いものを見た、とばかりににやにやして二人を見ていた。

 しかし、にやにやしていた彼女は打って変わって真剣な表情を浮かべる。


「それで大首領、どうするんだい? このまま報告して良いのなら、報告するけども」

「ここに博士が来た、ということはそれなりに重要な話なのだろう?」

「……まぁね」


 盛周の指摘に肩をすくめる奈緒。その言動こそが、盛周の言を肯定するものだった。

 そもそも、いくら奈緒が自由奔放だといっても、最低限確認もせず人の部屋に入る、などという常識や良識を投げ捨てるような行動をとる筈もない。それこそ、さきほど盛周が確認したように重要な、もしくは即座に報告を必要とする案件でもない限りは……。


「それで何があった? 彼女の身になにか問題が?」

「いんや、そっちはまったく問題なし。いたって健康体だよ。一度、死んだ筈なのにねぇ?」


 盛周の心配を一笑に付す奈緒。そして彼女は、予想外の報告を上げる。


「検査中に聞いた話だけど、魔人化する前。一時的にとある魔法少女とコンビを組んでたそうだよ」

「コンビ……? まぁ、一人より二人の方が魔物との戦闘も優位に立てるだろうよ。それだけなら、そこまで驚くことも――」

「……コンビを組んでた魔法少女、名前をスプリングリーン。変身前の名前は西()()()()だってさ」

「…………なっ!」


 奈緒から告げられた名前に絶句する盛周。なぜなら、その名前はバルドルに協力する魔法少女。オーラムリーフこと、東雲秋葉が探している親友の名前だったからだ。

 驚く盛周に、奈緒は人差し指を立てて、しぃ、と息を吐く。


「…………んみゅ」


 盛周の声に反応したのか、レオーネが意味もない寝言を呟く。だが、起きることはなく、むにゃむにゃ言いながらふたたび寝息を立てる。

 レオーネが起きなかった安堵から、ほぅ、とため息をつく盛周。そんな彼を、奈緒はくすくす笑っていた。


「やれやれ、大首領はお優しいこと」

「それを言うなら博士も、だろう?」


 奈緒のからかいに盛周はそう言って反論する。盛周からの反論を受け、奈緒はさきほどとは違い渋面になる。まさか、そう返されるとは思っていなかったようだ。


「やれやれ、なんのことだか――」

「レオーネに奈緒ねぇ、と呼ばれること。満更でもないんだろう、博士」


 盛周の指摘が図星だったようで、奈緒は二の句が告げなくなる。事実、奈緒にとってじゃれついてくるレオーネは可愛らしくもあり邪険にする気は起きなかった。

 特にレオーネの見た目が幼いこともあって、奈緒は実の妹のように可愛がる節もあった。それがまたレオーネにも心地よかったのか、さらに慕うという循環を生み出していた。


「……レオーネは」

「……?」

「いま、幸せだと言ってくれたよ」

「……そうかい、この娘が」


 二人とレオーネの出会いは、ある意味最悪のものであると言ってよかった。バベルとは別の秘密結社に捕らえられ、身も心もボロボロになっていた彼女。救出した後も、しばらくはまともに会話すらできなかった。

 いまでこそ、彼女は元気な姿を見せているが、それは奈緒や朱音たちをはじめとするスタッフたちによる献身的な介護があったからだ。それがなければ彼女は一体どうなっていたか……。

 そんな彼女が、かつての自身と同じヴィレッジロックを救い、幸せだと語る。それがどれだけ嬉しく、誇らしいことか。


 先代大首領の息子にして、彼の夢を引き継ぐ盛周。先代大首領に心酔し、彼が望んだ理想を完遂しようと邁進する奈緒。

 二人の目指すところはわずかに違うが根底にある思い。人々を、この世界を救いたい、という願いは同じだ。そして、レオーネもまた救いたい人々の一人であることに変わりない。


 無意識に顔がほころぶ二人。たとえこれが小さい一歩だったとしても、一歩は一歩。このまま歩み続ければ、いずれ目指す地へたどり着けるかもしれない。そのためには苦難も試練もあるだろう。だが、それでも――。


「諦める、などという理由にはならないな」

「あぁ、そうだとも」


 互いの目を見て頷きあう。二人の目的、それはいまだ頂きも見えぬ高き山々の頂点。自身たちだけでは成し得ないことかもしれない。それでも諦めるわけにはいかなかった。そうしなければ――。


「……いま、本当の意味で迫る危機を知っているのは俺たちバベルだけだ。そして俺たちが諦めてしまえば」

「もはや、対抗する手段が失われかねない。もちろん、いまは政府。かつて先代を、奈緒さんたちを遠ざけた者たちの中にも協力者がいる」

「あぁ、同志たちのためにも、守るべき無辜の民ためにも抗うんだ、俺たちが。そして――」

「――道を示す、そうすればいずれ奈緒さんたちの後に続くものがあらわれる。それだけでもバベルという組織の価値が示される。道を照らす光明として」


 二人はレオーネがくれた誇りを胸に決意すると、さらなる目標へ向けて邁進する。その手始めがスプリングリーン、西野春菜の救出。そのためにはヴィレッジロック、石原里桜が持つ情報が必要となる。そしてゆくゆくは……。


「バベルとバルドルの同盟。夢物語で終わらせるわけにはいかないな」


 そう、盛周は一人呟くのだった。

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