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レオーネのおねだり

 久々にヴィレッジロックの姿に変身できた里桜はご満悦とばかりにほくほく顔になっていた。


「えへへ……。ちゃんとなれた!」


 物々しいナリとは相対的にきゃいきゃいとはしゃぐ里桜に気を取り直したレオーネが語りかける。


「ほら、大丈夫。良かったね、里桜ちゃん。ううん、ヴィレッジロックちゃん、って言うべきかな?」

「えへへ、どっちでも大丈夫だよ、レオーネさん。ありがとうっ!」


 里桜、ヴィレッジロックとのかわいいやり取りにほっこりする盛周。しかし、いつまでもほっこりとしているわけにもいかない。

 あくまで里桜、ヴィレッジロックは変身できたが、どこか本人も気付かない点で問題が起きている可能性もあるのだ。なにせ、彼女は一度死の淵から甦ったのだからどこか問題があってもおかしくない。


『……博士』

「はいはい、わかっているとも。相変わらず大首領は心配性のご様子だ」


 盛周に呼び掛けられただけでなんのことか理解した奈緒は肩をすくめる。そして、いまだはしゃいでいるヴィレッジロックへ話しかける。


「さて、ヴィレッジロックくん?」

「……あっ! えっと、奈緒さん。ありがとうございましたっ!」


 奈緒に話しかけられたヴィレッジロックは、彼女へ向き直ると、深々とお辞儀をする。彼女にとって奈緒は間違いなく恩人。そのことが彼女を行動に移させた。

 奈緒はそんなヴィレッジロックの礼儀正しさを見て、本当にヒロインらしい娘だ、と感心していた。


「いやいや、奈緒さんとしてもきみには感謝しているとも。きみがここに来てくれたから色々とデータを得ることができたからねぇ」


 彼女の視線に合わせるようしゃがみながら語る奈緒。そして彼女はにこやかな笑みを浮かべつつ本題に入る。


「さて、それじゃあ奈緒さんについて来てもらっていいかな?」

「えっ……?」

「なに、ちゃんと変身はできたけどきみが気付いてないところでなにか不調があるかもしれないからね。検査というわけだ」

「あぅ……。はいぃ……」


 奈緒の説明に納得したヴィレッジロックだが、それでも彼女に着いていくのは消極的な様子を見せる。検査などのそういったことが苦手なのかもしれない。

 姿だけを見れば、なんというか小さい風貌も相まって微笑ましく感じる。が、それはそれとして彼女の体調が心配なのはたしか。もしも、万が一があってからでは遅い。

 レオーネも同じ心配をしていたのか、ヴィレッジロックへ優しく語りかける。


「ねぇ、里桜ちゃん。ボクもきみのことが心配なんだ。だから、ね?」

「レオーネさん……。うん、わかった」


 レオーネの説得が功を奏したのか、彼女は意を決した様子で奈緒へ近寄る。


「それじゃあ、いこうか?」

「はいっ、奈緒さん。よろしくお願いしますっ!」


 そのまま二人は部屋を後にする。本当ならまだまだ話したいこと、話すべきことがあったのだが、こればかりは仕方ない。

 なんともいえない気分で二人を見送るレオーネと盛周。

 里桜が部屋からいなくなったことで、通信用のディスプレイに盛周の顔が表示される。

 そこには、少しいたずらっ子っぽい盛周の顔があって――。


『ふふ、レオーネ。いいお姉さんをしてたじゃないか』


 レオーネをからかうようにそう告げる。しかし、レオーネには効かなかったようで。


「まぁ、ボクがお姉さんなのは事実だからね」


 と、誇らしげにする。それを見ておかしくなった盛周は――。


『ふっ、く……。ち、違いない……』

「あぁっ! ご主人さま、おかしいって思ったでしょ!」


 盛周の態度にぷりぷり怒り出すレオーネ。

 そんなレオーネを落ち着かせようとした盛周。しかし、その前に落ち着いた様子のレオーネが話しかけてくる。


「ねぇ、ご主人さま?」

『どうした?』

「たしか、少しだけ時間あったよね?」

『あるにはあるが……』


 それがどうした、と問おうとして――。


「なら、さ。ちょっとだけボクに時間ちょうだい。……ご褒美ほしいな」


 そう言いながら盛周におねだりするレオーネ。その顔は盛周よりも年上らしく、赤く染まり妖艶に歪んでいて、淑女(おんな)の顔だった。










 以前、レオーネはバベル内の盛周の部屋で二人きりになったことがある。あのときは、盛周への報告が主であったが、それでも身体を密着させて喜んでいたのを覚えている。

 いまはそのときと同じように身体を密着させている。が、そのときと明確に違うことがある、それは――。


「は、ん……。……ご主、人さまぁ」


 ちゅ、ちゅ、と啄むようなキス。ソファーに座る盛周の膝に乗り、抱きしめられながらするキスに、レオーネは天にも昇る気持ちだった。

 実際、いまレオーネの顔は愛する人とキスすることでとろとろに蕩けており、もしバルドルのレオーネを知る面々がいたら顔を真っ赤にして絶句していただろう。

 それほどまでにレオーネは幸せそうな顔をしていた。


「ねぇ、ご主人さま?」

「なんだ……?」

「ボクね、幸せだよ。ご主人さまを感じられて」


 そう言って彼女は猫のようにごろごろ、と胸に頭を擦り付ける。まるで盛周は自分のものだ。と、そうマーキングするように。


「そうか……」


 レオーネの告白とも取れる言葉を聞いて、盛周もまた微笑む。もし、レオーネが保護された当初ならこういったスキンシップはできなかっただろう。それだけでも彼女の心が少しづつ持ち直してきた証拠なのだから。

 そして同時に渚と同じように、レオーネも、彼女も愛おしく感じる。

 男としては最低かもしれない、ある意味彼女の弱味に付け込んでいるのだから。それでも――。


「レオーネ」

「ご主人さ――う、むぅ……!」


 顎を持ち上げられたレオーネは、そのまま盛周からキスされ目を白黒させる。しかもそれはただのキスではなく――。


「ん、んぅ……!」


 こくり、と喉がなる。先ほどの啄むキスとはまったく違う深いキス。身体の奥から燃えるような感覚が浮かぶ。ゾクゾクとした快感が駆け巡る。

 そして呑み込んだものは甘露のようで、まだまだずっと味わっていたい、そう思った。


「ぷ、ぁ……」


 盛周とレオーネの唇に銀の橋がかかり、ぷつり、と切れた。


「ごしゅじん、さまぁ……」


 とろん、と蕩けた瞳。妖艶に微笑み、口角があがる。しかし、身体は微かに震えている。やはり、まだトラウマが癒えていないのだろう。

 そのことを悟った盛周はレオーネをまた抱きしめる。とく、とく、と互いが互いの心臓の鼓動を感じる。


「あっ……」


 まだ、焦らなくていい。彼女もまた、ゆっくりと癒していけば良いのだから。

 そのまま盛周はレオーネの頭を撫でる。それは彼女が眠りにつくまで続くのだった。

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