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魔法少女-ヴィレッジロック

 妖精たちの所業に怒りを露にしたレオーネだったが、なんとか感情を制御するように深呼吸する。そうして落ち着いたレオーネは謝罪の言葉を口にする。


「ごめんなさい、ご主人さま。うん、落ち着いた。里桜ちゃんも本当にごめんね?」

『こちらとしても、お前が落ち着いたのであればそれでいい』

「わたしは、まぁ……。それよりもご主人さま……?」


 里桜にとって、レオーネがバベルに所属していることもそうだし、盛周を、大首領をご主人さま呼びしていることも不可思議なことだった。

 そんな里桜の疑問に答えるようにレオーネは――むしろかつての思い出。盛周に救出されたことを噛み締めるよう恍惚の笑みを浮かべ――うわごとのようにしゃべる。


「ご主人さまはご主人さまだよ。あの方がいたからこそいまのボクがあるし、そうでなければ、そもそもボクはここにいなかっただろうね……」

「は、はぁ……」


 信仰する神に祈る敬虔な信徒のごとく真摯に、そしてひたすら恋する乙女のように頬を染め、妖艶な表情を浮かべるレオーネ。

 彼女の艶かしい姿を見た里桜は、まるで見てはいけないもの。偶然道端に落ちていた成年雑誌でも見つけてしまったかのごとく赤面する。それほど彼女には刺激が強かったのだろう。

 奈緒はそんな二人の反応をにたにた、と微笑ましいものを見つけたといわんばかりに、楽しげな表情で見つめている。


 それを通信越しに見ていた――一応、盛周の姿は映していないが、情報を得るため逆は行っていた――盛周、大首領は彼女に聞こえないよう嘆息する。

 どうにも、奈緒がいるときは真面目な空気になりづらい、と思いながら。しかし、他の四天王で適任なのが彼女しかいないのが事実。

 なにせ、朱音は四天王筆頭として業務の数々をこなしつつシナル・コーポレーション代表としての仕事も捌いている。そうでなかったとしても、彼女の表の顔が割れるのは避けたい。むろん、そういった意味では、表の顔を持たない奈緒以外全員そうなのだが。


 そして楓はもっと深刻だ。なにせ、彼女の表の顔は立塔学院高校で盛周たちの担任教師。それはすなわち、渚や霞。ヒロインたちの教師であることを意味する。その彼女の顔が割れるなど、盛周にしても、楓にしても悪夢でしかない。

 なんと言っても楓は盛周からすると手ずから見いだした私兵という立場でもあるし、楓からしても存在が露見する、ということは護衛任務の失敗を意味する。とてもではないが容認できないものだ。しかも、それが外部からもたらされるというのなら、悔やんでも悔やみきれないだろう。だからこそ、二人をこの場に呼ぶことはできない。少なくとも()()()

 彼女、里桜がバベルに対して帰属意識を持ち、こちらに忠誠。とはいかないまでも、隠し事を認めてくれる程度には信頼してもらわないと、どだい無理な話だ。


 それはともかくとして、このまま放っておいても事態は改善しないし、話が進まない。それを無理矢理進めるため、介入を決意する。と、言っても声掛けをして話を戻すよう促すだけだが……。


『んん……。レオーネ、トリップもそこまでにしておけ。里桜さんが困惑している』

「……! は、はいっ! ごめんなさい、ご主人さま」

『里桜さんも。レオーネのことについては後で話そう。それでよろしいか?』

「えっ、あっ……はい。わたしは、大丈夫です」

『感謝する。では博士、改めて報告の続きを』

「奈緒さんとしては、もうちょっと見てたかったんだけどねぇ……。まぁ、いいや――」


 奈緒は気分を入れ換えるため、こほんと咳払いを1つつくとしゃべりはじめた。


「魔人化についてさっき話したけど、それに付属して。もし、魔人化解除後の死亡ギミックを乗り越えたときの保険として、いくつか術式に対して自壊するよう仕掛けが施されていたみたいだね」

『……なんだと?』

「もちろん、それを見過ごす奈緒さんじゃないからね。無効化しておいたとも。いやぁ、まったく。秋葉くんさまさまだよ、彼女には足を向けて寝れないねぇ」


 奈緒の口からしれっと公開された情報に顔を絶望に染める里桜。一つ間違えば魔法少女としての自身が終わっていた、と宣告されればそれも仕方ないだろう。救いはそれが未然に防がれた、という奈緒の証言だが、問題はそれが信用できるか、ということ。

 彼女を不安を見て取ったレオーネはとある提案をする。


「ねぇ、ご主人さま? 念のため、里桜ちゃんに魔法が使えるか試してもらったら?」


 その提案を聞いた奈緒はおよよ、と泣き崩れる真似をする。


「……なんてことだ。まさか、まさかレオーネくんからそんな提案を出されるなんて……。奈緒さん、レオーネくんから信用されてなくてショックだよ、うぅ……」

「もぅ、奈緒ねぇ? 救われたボクが奈緒ねぇを信頼してないわけないじゃない。でも、里桜ちゃんはそういうわけにもいかないんだからさぁ……」

「もちろん、知っているとも」

「…………もぅ!」


 そのやり取りでようやく奈緒にからかわれていると気付いたレオーネは、ぷくぅ、とハムスターのように頬を膨らませて抗議する。

 二人のやり取りに毒気を抜かれた里桜は、通信の先にいる盛周へ確認を取る。


「あの、大首領、さん? ……えっと、良いですか?」

『……あぁ、構わない。試してみなさい』

「……! ありがとうございますっ!」


 許可が出たことが嬉しかったのか、里桜は声を弾ませて礼を言う。そして――。


「変身――!」


 その言霊とともに里桜を中心に魔力が渦巻き、衣服が光輝く。衣装が分解され、再構築されていく。

 まず再構築されたのは、色は大地をイメージしたのか黄色で、胴にコルセットが巻かれた中世期を思わせるワンピースドレス。そして、続くは胸元に防御を意識したのかブレストプレートが装着される。そして最後、里桜の両腕には武器ではなく防具。己の身の丈はあろうか、というほど大きいスパイク付きのタワーシールドが左右双方に形成される。

 里桜は自身がいままで同様、ちゃんと魔法少女の姿になれたことを歓喜する。


「やたっ……!」


 だが、その他の人間。盛周たちは予想よりも物々しい里桜、ヴィレッジロックの姿に絶句するのだった。

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