保護
本日は諸事情で二話更新となります。
こちらは二話目です、よろしくお願いします。
窓から柔い日差しが差し込む病室。そこに一人の少女が横になっていた。
肩口まで伸びた薄いプラチナブロンドの髪はサラサラとした状態で枕に乗るように広がっていて、幼い、小学校高学年か中学生を思わせる顔立ちは安らかな寝顔をみせている。
また、掛け布団の上からでも分かる、年の割にはたわわに実った胸は布団を押し上げるとともに、呼吸に合わせて小さく上下していた。
そして病室の中ではぺら、ぺら、となにか紙を捲る音が響く。それは部屋の中に彼女以外の人物がいることを示していた。
その人物はちらり、と少女を見つめると口を開く。
「とりあえず異常はなし。後は目覚めるか、だけど……」
優しい眼差しで少女を見つめる女性。それはバベル四天王の一人、青木奈緒であった。
横になっていた少女の瞼がぴくり、と動く。
「う……」
彼女の可愛らしい唇から声が漏れた。
その声を聞いた奈緒は彼女へ近づく。
「もしかして、お目覚めかな?」
彼女の言葉を肯定するように、少しづつ少女の目が開いていく。だが、まだ目はとろんと微睡んでいて完全に意識は覚醒していないようだ。
「こ、こ……?」
それでも、なにかおかしい、と感じていた少女は疑問を口にする。
そんな少女の頭に優しく触れると、落ち着かせるように撫でながら奈緒は話しかける。
「心配しなくて良いよ、いまはゆっくり休みたまえ」
奈緒に頭を撫でられるのが気持ちいいのか、少女は目を細めると、ふたたび目を閉じ寝息をたてはじめた。
そんな彼女を奈緒は撫でながら優しく見つめていた。
ふたたび目を開いた少女。彼女は可愛らしい瞳をぱちくり、とさせる。意識も完全に覚醒しているようだ。
「え……?」
彼女の目には見覚えのない天井。そもそも、なんで横になっているのか? ここは一体どこなのか?
半ばパニックになった少女はがばり、とベッドから上体を起こす。しかし――。
「…………え、き、きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ――――!」
胸を隠すように腕をクロスさせる少女。顔は羞恥で赤く染まっている。それも当然だ。なにせ彼女はいま、生まれたままの姿なのだから。
その悲鳴を聞き付けて一人の人物が部屋に入ってくる。
「大丈――! あぁ……!!」
入ってきた人物は少女が起きていることに感極まった声をあげる。そして――。
「よかった、よかったよぉ…………!」
涙声で少女へ抱きつく。突然抱きつかれた少女は目を白黒させ、悲鳴を上げそうになる。しかし、抱きつかれた腕にふにょん、と柔らかい感触。それは、抱きついてきた人物が自身と同じ女性だということを示していて――。
思わず女性を見る少女。白い髪は短くまとめられ、体躯は小柄。それにどこかで見覚えがある気がして……。
その見覚えが、以前雑誌に写されていた人物だったのを思い出す。
そのときはヒロイン特集であり、彼女はメインで写されていた三人の一人。
ふたたび活動を再開した最強のヒロイン。そう言う見出しで出されていた女性。バウンティハンター-レオーネと瓜二つで……。
「ひぐっ、よがっだぁ。めざめてくれたぁ……!」
自身が起きたことに喜ぶ彼女に、少女は困惑するのだった。
そのとき、困惑する彼女の耳に第三者の声が聞こえてきた。
「やあやあ、ちゃんと起きたようだね。生き返った気分はどうだい、石原里桜くん?」
「わたしの名前……!」
突然見知らぬ人に名前を呼ばれ警戒する里桜と呼ばれた少女。
しかし、直後。その警戒は霧散することになる。里桜に抱きついていたレオーネが涙声で里桜の名前を呼んだ女性に話しかけたのだ。
「奈緒ねぇ……。里桜ちゃん起きたよぉ……!」
「はいはい、ちゃんと起きたから。きみもしゃんとしたまえよ、レオーネくん?」
二人のやり取りに身体がびくり、と反応する里桜。
「……えっと、本当にヒロインのレオーネさん? それに生き返った……?」
上擦った声で疑問を口にする。そんな彼女の疑問にレオーネは、感極まったままで声を出せないのか、こくり、と頷くことで返答する。
そんなレオーネを奈緒は呆れた様子で見つめるのだった。
その後しばらくレオーネが落ち着くのを待って三人――主に奈緒が話しはじめる。
「さてさて、本当なら自己紹介から始めるべきなのだがね。しかし、それよりもちょっと優先すべきことがあってね?」
「……はぁ」
奈緒の迂遠な言い方に気のない返事をする里桜。しかし、それも次の言葉を聞くまでだった。
「まず、きみに残念なお知らせがある。……飾らない言い方をすると公的、つまり世間さまの間では里桜くん、きみはすでに死んだことになっている」
「………………はぇ? えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ?!」
最初こそ理解できなかったのか、呆けた声を上げた里桜だが、頭の理解が追い付いた瞬間悲鳴を上げる。
そんな彼女に奈緒は二つの選択肢を突きつける。
「なのでいま、きみが取れる選択肢は二つ。一つは名前を変えて孤児院に入ること。もう一つは奈緒さんたちの保護を受け入れること。もちろん、その場合、ちょっとお手伝いを頼む場合もあるけどね」
「……あの、パパとママのとこに帰るのは――」
「そもそも、きみの葬式は終わってるからねぇ。今さら帰ったところで面倒事しかないよ? それとなく、きみのことを教えるのは構わないけどねぇ」
「うぅ……」
奈緒の指摘にショックを受ける里桜。本当なら両親のもとへ帰りたい。しかし、二人に迷惑はかけたくない。と、なると結局奈緒に提示された二つの選択肢、そのどちらかを選ぶ必要がある。どうしよう、と悩む。
「あの、奈緒さん?」
「なんだい?」
「レオーネさんは奈緒さんたちと同じとこにいるんですか?」
ならばヒロインであるレオーネ。彼女がいるのであれば安全だと考えた里桜は質問する。
その質問に奈緒は簡潔にそうだよ、と答えた。ならばもはや里桜の中で答えは決まった。
「それじゃ、奈緒さんたちのお世話になりたい、です」
「……ふふ、そうかそうか。それなら歓迎するよ。あぁ、順番が逆になったけど自己紹介をするしよう」
奈緒は不適な笑みを浮かべる。
「奈緒さんは青木奈緒って名前でね。これでもこの組織の中ではお偉いさんなんだ、だから安心してもらって良いよ?」
その言い方ならきっとある程度融通が利く、と言う意味だと思いホッとする里桜。しかし――。
「それでは改めて。秘密結社バベルはきみのことを歓迎するよ、石原里桜くん。いや、魔法少女-ヴィレッジロックくん?」
「…………え、えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ?!」
病室に里桜の悲鳴が響き渡った。これが石原里桜がバベルに保護された顛末だった。