蝶の羽ばたき、その結果
岩の魔人はレオーネとアナザールビー。二人をいよいよ驚異だと感じたのか、4本の腕に備え付けられていた多数の岩の鞭を射出。二人の命を刈り取るべく差し向ける。
しかし、二人とて危険だと分かっていて当たってやる義理などなく――。
「こんの……!」
「くっ……」
それぞれ飛び退くことで回避する。その後、二人がいた場所へ殺到する岩の鞭。あるものは地面に突き刺さり、あるものは打ち付けることで地面にヒビがはいる。
その威力を見てレオーネは顔をひきつらせる。超能力を持つアナザールビーならともかくとして、特殊な能力を持たないレオーネが直撃をもらえば最悪、一撃で致命傷となりかねない。
そんなことを考えながら地面を注視していたレオーネ。だが、彼女はふとした違和感を抱く。なぜ、鞭の攻撃を刺突と打撃にわけたのか?
確実に当てたいのであれば、薙ぎ払いなどの効果範囲が大きいものを使えば良い。確実に刺突を当てたいのであればどちらか一方に刺突を集中、全方位から攻撃すれば良い。にもかかわらず、岩の魔人が選択したのはどっちつかずと言っていい刺突と打撃の混合攻撃。
――一体、どういうつもり……?
訝しむレオーネ。しかし、その答えはすぐに示された。
「ちょっと、冗談でしょ――?!」
ひび割れボロボロになった地面、そこに突き刺した岩の鞭で無理矢理剥がしたのだ。
そしてそれを持ち上げる岩の魔人。彼女が次に取ろうとする行動が予測できたレオーネは冷や汗を流す。
「ちょぉと、それはシャレにならない、かなぁ……」
一応、魔人相手に思い止まるよう話しかけるレオーネ。
しかし、彼女がそんな言葉を聞き入れる必要などなく――。
――ぶぉん!
と、空気を割く音とともに地面の塊をレオーネたちに投てきする!
「ちょ――?!」
内心、やっぱりぃ?! と、半泣きになりながら逃げるレオーネ。アナザールビーもまた、さすがにあんなもの超能力で防ぐのは無理、とばかりに回避する。
少し遅れてレオーネたちがいた地点に着弾する地面の塊。轟音とともに地面に叩きつけられ、塊は崩壊し、つぶてとなって破壊を撒き散らす。
それをレオーネは付近にあった障害物を盾とすることで、アナザールビーは超能力のバリアを張ることで防ぐ。
「あ、危なかったぁ……」
とりあえずの危機が去ったことで安堵のため息をついたレオーネ。しかし、このまま手をこまねいていてはじり貧となる。
ならば、攻勢をかけるべきだが――。
「あれを突破しろ、って無理ゲーじゃない……?」
魔人の周囲でゆらゆら、と揺れている岩の鞭たち。それが一種の結界として機能してしまっているため、吶喊するのはあまりに無謀と言わざるをえなかった。
「さてさて、どうしよっかなぁ……」
なんとか鞭結界を突破する手立てを考えていたが。
「……ここはわたしに任せてください」
「…………えっ?」
いつの間にかレオーネの近くまで来ていたアナザールビーがそんな提案をする。
「わたしが血路を開きます。レオーネさんはその後に攻撃を――」
そこまで言って有無を言わさず突撃するアナザールビー。
レオーネとしては無茶な突撃は止めるつもりだったが、その前にアナザールビーは突撃してしまった。
ならば、攻めて彼女を援護するためにも後へ続くしかなく。
「くっ……!」
死中に活を得るべく後へ続くレオーネ。先に突撃していたアナザールビーはある意味予想通り岩の鞭に全身を拘束されていた。
ぎちぎち、と拘束が強まることで脂汗を流すアナザールビー。しかし、その顔には不適な笑みが浮かんでおり――。
「――バースト!」
自身の周囲に展開させた力場を崩壊させ、爆発を起こして無理矢理拘束を剥がす。
「むちゃくちゃだよ……?!」
呆れた声をあげるレオーネ。そんな言葉を浴びせながらも、彼女はアナザールビーが開いた血路を進む。それを察知した魔人は妨害しようとするが――。
「……させない!」
その妨害は、すべてアナザールビーのサイキックバスターの拡散モードで防がれてしまう。また、それだけではなく、ブルーコメットをライフルモードに変えて乱射。それで足止めまでする始末。
アナザールビーの無茶苦茶な、脳筋戦法に軽く引くレオーネだが、そのこととは別に魔人の懐に入り込み――。
「これなら――! いっけぇぇぇぇぇぇぇぇ――――!!」
自身の全霊を込めデスサイズの刃を岩の腕き振り下ろして両断し、さらには――。
「これ、でぇぇぇぇぇぇぇぇ――――!!」
「――――――?!」
魔人の腹に深々と突き刺さるレオーネの拳。その一撃により前のめりにヘドを吐くと脱力する魔人。そして彼女を覆っていた岩もぼろぼろと剥がれていき――。
「よしっ、ボクの勝ち! ……まさか、ここまでうまく行くなんて」
まさか、まさかのただ勝利するだけでなく、魔人を捕縛するという戦果に、当の本人すらも驚くのだった。