岩の魔人
さきほどまでのおちゃらけた雰囲気はどこへいったのか、庭月はモムノフの中から厳しい目で魔物をにらみ、バトロイドライフルを照準!
「そこだ、当たれよ!」
狙いを澄まして発射!
ライフルから放たれた弾丸は魔物へ直撃する。しかし――。
――カァン。
「ちぃ、弾かれた!」
魔物が持つ防御膜を貫くことができず、あらぬ方向へ弾かれてしまう。だが――。
――ダン、ダン。
ここにいるのは庭月だけではない。他の隊員もまた魔物と相対しており、庭月が弾丸を放った際、追撃を行っていた。
確かに、庭月が放った弾丸は防ぐことはできた。だが、それだけだ。
一発でダメなら、二発、三発放てば良い。それで敵を穿つことができるなら安い出費だ。まぁ、今回の場合国がバックにいるからこそ出費を気にしなくて良い、という側面もあるが。
「撃破、確認!」
「よし、次だ!」
魔物を撃破した隊員たちは次の獲物に狙いを定める。そしてその光景を生み出しているのは庭月だけではない。
そこかしこで同じような光景が起きていた。
順調に魔物たちを殲滅している特務部隊の面々。しかし、あくまで魔物は前座であり本丸は別だ。
その本丸である魔人、岩の魔人は……。
「…………」
「……どうにも、やりにくいなぁ」
現在、この場にいる唯一のヒロイン。レオーネと相対していた。
デスサイズを構えるレオーネは、魔人を油断なく見据えながら、さてどうしたものか。と思案している。
魔物相手には問題なく振るえたデスサイズであるが、それが魔人相手にまで効果があるかは未知数だ。
さらにいえば目の前の魔人。あの魔人は岩に覆われていることから防御力が高そうなのは見てわかる。
「いくらこの鎌が奈緒ねぇ製だといっても、さすがに厳しいかなぁ……?」
そう、いまレオーネが持っているデスサイズは、以前までのものとは違い奈緒が製作したものだ。
と、いうのもさすがに特殊能力をなにも持たないレオーネでは魔物相手だと有効打を与えられない可能性があるとして、万が一の可能性を考慮して突貫工事で用意したのだ。
そして、その効果は見ての通り。魔物たちが持つ防御膜を簡単に破ってみせた。
むろん、だからといって魔人相手、しかもいかにも防御特化の相手はさすがに分が悪いと思える。
「まぁ、だからってお見合いしてる訳にもいかないんだけど、ね!」
意を決して突撃するレオーネ。そして彼女は――。
「破っ――!」
デスサイズでなはく蹴りを放つ。まずは小手調べ。が、やはり岩で覆われた魔人にダメージを与えられるわけもなく。
「やっぱり、見かけ倒しなわけ、ないか……!」
効果がないと見るやレオーネはとん、とんとん、と地面を蹴って跳ねるように連続でバックステップをする。そして、一瞬遅れ彼女がいた場所に地面から石の槍が生える。もしも、レオーネがバックステップをしていなければそのまま串刺しになっていただろう。
「あんまり、これ使いたくないんだよねぇ。当たったところで刃こぼれしそうだし……」
レオーネの懸念は事実、そうだろう。デスサイズ、鎌という刃物はあくまで切り裂くことを主眼においたものだ。これがメイスやモーニングスターのような打撃武器であればまた話は別だったろうが……。
そんな心配をしているレオーネの耳に、ごごご、と地響きが聞こえる。
「……やばっ!」
とっさに退くレオーネ。その足元から地面を引き裂くよう地割れが広がる。もし、そのままその場に留まれば地割れに呑み込まれていただろう。
そして地割れはどぉん、という轟音とともに閉じる。もし、巻き込まれていれば即席の土葬が完了していた。
陥っていたかもしれない自身の末路を見たレオーネはぶるり、と身体を震わして。
「……なんてデタラメ」
思わず呟く。オーラムリーフ、東雲秋葉も火炎の竜巻を起こしたりなどの人智を超えた事象を引き起こすが、今回の地割れもそれに引けをとらない。魔法少女という存在の異能をまざまざと見せつけているといって良い。惜しむらくは、それが敵方でこちらにキバをむいているということだ。
「――でも!」
一連の攻撃で、もはや躊躇している場合でないことを悟ったレオーネ。
彼女はデスサイズを振りかぶって吶喊。一気に魔人へと近づく。
「あ、ぁぁぁぁぁぁぁぁ――!!」
――一閃!
デスサイズの刃が煌めき、魔人へと迫る。
――ギィン!
しかし、刃は魔人を傷付けることなく弾かれる。だが――!
「まだ、まだぁ――!」
デスサイズが弾かれた衝撃を利用してレオーネは身体を独楽のように回転。勢いをつけて後ろ回し蹴りを浴びせる。
予想外の場所から奇襲じみた攻撃。それを浴びることになった魔人はたたらを踏む。
「よし、いま――!」
「………………下がりなさい!」
追撃を仕掛けようとするレオーネに、どこからか聞こえてきた忠告。
本来であれば聞く必要がない筈の忠告に従い、レオーネは無意識にその場を離れる。直後、魔人を覆っていた岩からまるでハリネズミのように槍の穂先が乱立。もし追撃していればレオーネが逆撃を受け、身体中が穴だらけになっていたに違いない。
「誰だか知らないけどありが――」
忠告が聞こえてきた方向を見て、感謝の言葉を紡ごうとしてレオーネは止まる。
そこには、彼女がよく知る、そして知らない人物がいた。
その人物は黒い旋風となり、魔人へ迫る。
「……破ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
手刀に籠められたサイキックエナジー。その一撃が岩から生えた穂先を刈り取っていく。
「あの娘が噂の……」
その姿を見て呆然と呟くレオーネ。彼女の視線の先にはブルーサファイアのパワードスーツに似た装備とレッドルビーのPDCをまとった、成長した渚の姿。アナザーレッドルビーが魔人と相対していた。