出撃、特務小隊+α
立塔市郊外、複数のパワードスーツが背面にあるブースターから、バーニアの炎を吐き出しながら進んでいた。
「しかし隊長殿? 出向してすぐにお仕事とは幸先が良いですなぁ」
そうおどけた声を出すのは分隊長である庭月隆信陸曹長だ。
ちなみに、彼は急に仕事が入ったことに不満があるわけではなく、あくまで隊員たちの緊張をほぐすためおどけてみせているだけだ。ただ……。
「陸曹長、今は軽口を叩いている場合ではない。急ぐぞ!」
「……了解、了解しましたよ」
問題は、今回鮭延もまた余裕がない、ということだ。
それは、緊張している。という意味ではない。だが、もし彼らの仕事が遅くなれば遅くなるほどヒロイン。しかも、最近バルドルの協力者になったオーラムリーフ。東雲秋葉の出番ができてしまうということだ。それを鮭延は自衛隊員として、なにより大人として容認できなかった。
なにせ彼女は渚や霞――もっとも、霞の実年齢で考えると、秋葉の方が年上になるが――よりも年若い。現役の女子中学生なのだから。
そんな少女を戦場に立たせようとするなど、情けないという他ない。特に、これが2回目となればなおさらだ。
――そう、2回目だ。
1回目はバルドルとバベルの戦いに巻き込まれた真波渚。すなわち、レッドルビーのことだ。
彼女もバベルと戦い始めたのは中学生の頃だった。……情けなくはあるが、あのときは自衛隊はバベルに明確な対抗手段がなかった。それでも工夫に工夫を重ねることで、なんとか戦闘員――当時、まだバトロイドは開発されておらず、また人員不足でもなかったため下級戦闘員も人間が用いられていた――を撃破できる程度だった。
だからこそ彼女を頼らざるを得なかった。それに忸怩たる思いを抱いていた。
それも当然だ。本来、守るべき人に守られ助けられなければ事を成せなかったのだから。
だが、今は違う。零式起動甲冑フツヌシのデータをもとに製作された制式起動甲冑『モムノフ』に、それを十全に扱うための補助機たるパワードスーツ。そして武器には改良型バトロイドライフル。
これらの武装があればバベルの怪人たちとだって渡り合える。
もはやヒロインに、民間人に頼る必要はなくなる。それはすなわち彼女らを平和な日常へ送り返すことができる、ということ。
ならば、鮭延は自衛隊員として、そして大人としての責務を果たすため行動に移すのは当然であり、必然だった。だというのに……。
「このままでは繰り返しではないか……!」
彼はモムノフのモニター上に写る敵の座標、戦力データを見ながら悪態をつく。
――早く、もっと早く!
鮭延はさらにバーニアの噴射率をあげる。それによりただでさえ早い速度がさらに加速し、その速度は時速60㎞を超えていた。
もう少しだ、もう少しで敵が射程範囲に入る。
……しかし、その時。彼のとなりを白い閃光が駆け抜けていく。
「や、ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――!」
その閃光はデスサイズを振りかぶり一閃し、魔物たちを両断する!
「おいおい、うっそだろ……」
庭月の渇いた声が聞こえる。閃光の正体はレオーネ。バウンティハンターと称されるヒロインだ。
だが、彼女はレッドルビーのように超能力を、オーラムリーフみたいに魔法を使えるわけではなく、またブルーサファイアのごとくガイノイド。人造人間でもなく、ただ肉体を強化されただけの人間だ。
その人間が時速60㎞で進むモムノフを追い越し、魔物相手に一番槍を、敵を穿ち抜いて見せた。
はっきり言って常識を疑いたくなる光景だった。ただの人間がパワードスーツを、起動兵器を超える身体能力を発揮しているのだから。
――これが最強のヒロイン……!
正直、鮭延もまた彼女の身体能力には舌を巻く思いだ。彼もレオーネの来歴はある程度把握している。しかし、それでも百聞は一見にしかず。という言葉があるように、知識で知っていても実際この目で確かめた情報はここまでの衝撃をもたらす、という知見を得た。
なお、彼らが呆けている合間にもレオーネは縦横無尽に駆け巡り戦果を拡大していた。
その無双っぷりをみて現実逃避をしたくなった鮭延だが、無理やり精神を立て直すと。
「各員、全火器使用自由。敵を蹴散らせ!」
『了解!』
鮭延の指示のもと、レオーネに遅れて自衛隊特務部隊もまた、戦場へとその身をさらすのだった。