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アグの思い、アグの憤怒

 正直、アグは最初秋葉に本当のことを話すかどうか悩んでいた。

 なにを馬鹿なことを、と思うかもしれないがアグにとって、それは間違いなく選択肢のひとつだった。

 なぜなら、秋葉が詳しい内容を知らなければ()()という悪党に利用されたあわれな被害者、で済む。共犯者、という立場にならなくて済むのだ。

 もし、秋葉が全てを知った上で協力すれば、万一残党を取り逃がした場合、彼女に復讐戦を挑む。という可能性を生み出してしまう。

 彼女の家族を、弟、妹たちの幸せな姿を見たアグとしてはそんなこと認められる筈がない。

 だからこそ悩んでいた。でも――。


「秋葉――」

「……なんだよ」

「言い訳がましく聞こえるかもしれないけど、オイラの話を聞いてほしいもん」


 それでも、彼女の憔悴した姿はみてられなかった。この選択肢が正しいのかはわからない。でも、彼女が壊れていくさまを、()()()()()()かもしれない、という可能性を見過ごす訳にはいかなかった。

 虫の良い話だとは思う。秋葉からすれば完全に利用されているだけなのは事実だが、それでもアグは彼女を、秋葉を相棒だと思っているのだから。


 贖罪(しょくざい)、というつもりはない。彼女が魔物と戦い、勝利したときに浮かべた確かな手応えを感じたような真剣な表情も、ヒロインになれたんだ、と憧れの存在になれたことで浮かべていた年相応の笑み。

 そんな彼女を傷つけるつもりはなかった。でも、それがアグは独りよがりだったのかもしれない。と思うようになっていた。

 秋葉に思いっきり首を絞められたとき、彼女の顔は憤怒に染まっていた。だが、瞳の奥にはそれ以上に悲しみが、相棒に裏切られたという絶望が見え隠れしていた。

 そんな彼女相手にさらに嘘を塗り固めて、というのは無理だった。だからこそ、真実を話すべきだと思ったし、その結果見限られても仕方ない。それだけのことをしてきたのだから。

 アグは覚悟を決めるように深呼吸を繰り返す。そして覚悟が決まったのか、秋葉に自身が知ることを話しはじめた。


「……確かに、オイラは魔人や魔法少女のことを知ってたもん。それに秋葉の親友、西野春菜のことも――」

「……っ!」


 アグの口から放たれた春菜の名前。それを聞いた秋葉は反射的にアグのことを殴りそうになる、が何とか踏みとどまる。

 それは、アグが本当に後悔しているように見えたから。少なくともいたずらやその類いではない、というのがわかったから。

 アグも秋葉がぎりぎりのところで我慢してくれたことを理解して、柔らかい笑みを浮かべる。


「……ありがとう。でも、あの娘を助けられなかったのはオイラの罪だもん」

「……罪? どういうことだよ、アグ?」


 アグの語りから、なにかよろしくないものを感じて問いかける秋葉。それではまるで春菜を助けられる可能性があったが、今では不可能。と言ってるように聞こえて――。


「もともと、オイラは秋葉ともう一人。魔法少女の素質を持つ少女の目星をつけてたもん」

「それが、春菜……?」


 秋葉の指摘にこくり、と頷くアグ。しかし、彼はどこか悔いる様子で。


「……でも、それを他の妖精に悟られてしまってたもん。それで先を越されて」

「うん? なぁ、アグ。話が見えないんだけど……」


 アグの話に困惑する秋葉。彼女の反応に、アグも大前提の説明を忘れていたことを思いだし、謝ったあと、その説明を行う。魔人と魔法少女、だけではなく魔物と妖精の国の関係を。

 その全てを聞いた秋葉は顔を青ざめさせる。


「まて、よ……。それって、つまり――」

「そうだもん、わかりやすく言えばマッチポンプ。妖精たちによる自作自演」


 アグの言葉を聞いた秋葉は片倉の映像に映っていた他の魔人たちを思い返す。

 確かに他の魔人たちもどこか女性的――特に氷の魔人は顕著――だった。

 つまり、それはあの魔人たち。女性たちも被害者だということで――。


「う、ぐ……!」


 そのことを理解し、吐き気を催す秋葉。それでも実際に吐かなかっただけでも大したものだろう。なにせ、自身もまたあの魔人たちの仲間入りする可能性がある、という確たる証拠なのだから。

 だが、そこで秋葉は違和感を覚える。今までの話で噛み合わない部分があった。それを確認するためアグに話しかける。


「……なぁ、アグ。お前の言い方、どこか他人事に聞こえるのは――」


 しかし、アグへの問いかけは途中で止まる。彼の雰囲気が変わったのもある、がそれ以上に動物、アライグマの顔である筈なのに忌々しい、と考えているのが手に取るようにわかったから。さらにいえば他の妖精と同一視されたことに腹立っていた。


「あんな屑どもがいなければ……! オイラは、オレは――!」

「ア、グ……?」


 アグの豹変に面食らう秋葉。しかし、アグはそんな秋葉の様子にも気付かず怒っていた。


「本来、妖精は自然とともに。人とともにあるべきなのに! なのに、あいつらは思い上がって――!」


 今までここまで怒りを爆発させたアグを見たことなかった秋葉は、あまりの剣幕に圧倒される。

 そこでアグは秋葉の怯えた様子を見て、多少冷静さを取り戻す。


「ごめん、だもん」


 アグはそう謝ると首を横に振る。そして。


「……これ以上詳しい話は、きっとこの組織も知ってた方がいいもん。秋葉、お願いできる?」


 それはアグが千草と会談をもちたい、という意味だと悟った秋葉は――。


「……あ、あぁ。とりあえず水瀬さんに連絡してみるよ」


 己が出来ることをやってみる、と告げるのだった。

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