蔦の魔人
「まずはこちらの映像をご覧いただきたい」
片倉がそう言うと、彼の姿が消え何らかの映像が映し出される。それはどこかの住宅街のようで――。
「なんだよ、こいつ……」
「これは……」
映像を見た秋葉と千草。秋葉はどこか気持ち悪そうに、千草は眉間にシワをよせ、険しい表情を浮かべて見つめている。
その映像には住宅街を徘徊する魔物たち、そしてその中心に、まるで守られるようにぼぅっ、と佇んでいる怪物の姿があった。その怪物の姿は――。
「まるで蔦が触手みたいに……」
そう秋葉がこぼしたように全身が蔦に覆われ、その隙間からは人間の女性らしき体格の、しかしなにかに守られているのか姿がぼやけているなにか、が映し出されていた。
「これは以前、偶然撮影された映像です。他にもいくつか似たようなものがありますが……」
片倉の声が聞こえるとともに他の化け物。全身を岩で覆われ、どこかごつごつとしながらも女性らしい丸みを帯びた体躯の怪物。そして氷をまとい、氷が透明だからこそ他の怪物より身体が見えやすく、局部や乳房など、本当に大切な部分のみをかろうじてぼろ切れで守りつつ、だが肌が人間ではあり得ないほど青白くなっている怪物などの姿が映し出される。
「これらの最近確認された人外の化け物たち。これらをそちらから提供された証言と併せ、我らは魔人と定義しています」
「魔人、これが……?」
片倉の指摘に疑問を浮かべる秋葉。確かに、他の魔物たちとは一線を画し、どことなく怪人を思わせる姿ではあるが……。
「でも、それだったらアグに確認を取れば――」
「それはやめておいた方が良いでしょう」
秋葉の提言を即座に否定する片倉。なぜ、即座に否定されたのか、疑問に思う秋葉だったが……。
「先ほど映し出した一体。我らが蔦の魔人、仮の名をつけた存在に答えがあります」
それとともに先ほど映し出された蔦の怪物、そしてもう一人。魔法少女らしき姿が映し出される。
その魔法少女の姿を見た秋葉は、がたり、とけたたましい音をたてて席を立ち、魔法少女を凝視する。その姿、というよりもその顔に見覚えがあったから。
「はる、な――!」
「……っ」
秋葉の悲痛な叫び。その声を聞いて千草もまた苦虫を噛み潰した顔になる。
そう、映し出された魔法少女。それは行方不明になったはずの西野春菜らしき少女であった。
しかし、なぜ怪物と春菜らしき少女を同時に映したのか。秋葉は疑問を抱くが、即座に答えにたどり着き青ざめる。
「まさ、か……」
「えぇ、恐らく貴女が想像した通り。我らはこの怪物の正体。それが西野春菜さんである可能性が高い、と推察しています」
片倉の答え、それを聞いた秋葉は力なくふたたび席へ座り込む。
「なん、で――」
「むろん、我らも当てずっぽうで言っている訳ではありません」
そうして映し出される映像が切り替わった。それは以前、千草に見せてもらった監視カメラの映像。魔法少女らしき存在が戦っているもの。だが、いまなら分かる。あの映像に映し出された魔法少女、その正体が誰であるのか、を――。
「そんな、春菜……」
そう、映し出された映像に映っていた魔法少女。その衣装は先ほど見た西野春菜の魔法少女姿のデザインに酷似していた。
つまり、あの監視カメラに映っていた魔法少女。その正体は、秋葉が探し求めていた西野春菜本人である可能性が高かったのだ。
まさしく灯台もと暗し。身近に手掛かりが残っていたのだから、本来なら喜ぶべき場面。しかし――。
映像が切り替わる。次に映し出されたのは蔦の魔人。それと偶然相対してしまったのであろう、婦警の姿が映し出される。
婦警は半狂乱になって拳銃を魔人に発砲しつつ、トランシーバーへ何事か伝えている。恐らく、増援を要請しているのだろう。
事実、彼女が放った弾丸は蔦の触手に叩き落とされ、ダメージどころか本体にすら到達していない。
そして、今度は反撃とばかりに身体へまとまりついていた蔦が婦警に殺到。袖や胸元、スカートの裾から服の内部へ侵入すると内側から破り捨てられる。
突然服をズタズタに破り捨てられ、半裸となった婦警は恐怖に顔をひきつらせ、悲鳴を上げている。
婦警のあられのない姿から目を背けるように魔人を見た秋葉。そして蔦が周辺からいなくなって前より見えやすくなった魔人らしき怪物の姿をみて絶句する。
そこにはぼろぼろになっているが、どこか春菜が着ていた魔法少女の衣装らしきものをまとった、そして破けた服の隙間から人としてはあり得ざる緑色の肌をした怪物の姿。その横顔はとても見覚えがあり――。
「うそ、だろ……!」
うつろな目をして蔦に拘束され、口に突きこまれた蔦を吐き出そうとする婦警を見つめる春菜の横顔があった。
そして蔦の一部は婦警の身体を刺激して、嬲るように、さらにそのうちの2本は彼女の下腹部へ迫って――。
――そこで映像は途切れている。
「ちなみに、現在も捜索は続いていますが、この婦警も行方不明となっています。……、聞こえていますか?」
秋葉に問いかける片倉。しかし、秋葉は何も聞こえてないのか、呆然とした様子で映像が消えた。今は片倉が映し出されたモニターを見つめるのだった。