不可解
襲撃のために出撃したバトロイド及び怪人はひとまず襲撃の目的地付近に到着していた。
「……ふむ、ここが今回の。しかし、なんというか随分と限定的な……」
そう言いながら腕部全体を覆うバックラーを着けた短い腕で、なんとか腕組みをしようとする黒色の怪人。
その姿は前方から見ると人と昆虫が合体したような姿だとわかるが、後ろから見ると甲殻に覆われていることもあり、全体的に丸っこい印象を受ける。
怪人の名は、ダンゴバックラー。
その名の通り、ダンゴムシをモチーフとした怪人だった。
ダンゴバックラーは確認のため、改めて辺りを見渡す。
今回の襲撃地は今までの都市部ではなく郊外。むしろ建物などはほぼ見当たらず、長閑な田園風景が広がっていた。ただ一つ――。
「いやぁ、なんともまぁ……。これだけ場違いだのぉ……」
今回の襲撃目標、ダンゴバックラーが見上げている田園風景には場違いな建物。一つだけポツンと建っている複数のビルと倉庫からなる、明らかに農業とは関係なさそうな工場らしき建造物があった。
今までの襲撃、主に市街地を中心に仕掛けていた時とは明らかに違う目標。そのことに戸惑うダンゴバックラーだったが、だからと言って手を抜くつもりはない。何よりも今回の目標、それを指定したのは……。
「なんにしても大首領直々のご命令なのだ。失敗は許されぬ」
ダンゴバックラーの言うとおり、今回の目標設定には盛周の意思が関わっていた。
それを失敗などということは怪人として、バベルの者として恥であり何としてでも成功させなければ、と意気込むダンゴバックラー。
そして彼は号令を下す。
「さぁ、バトロイドどもよ! この建物を破壊ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ――!!」
しかし、彼は号令途中に背中から衝撃を受け、思わずつんのめりそうになる。さらには何体かのバトロイドも同じように衝撃を受け、こちらの場合はダンゴバックラーのように背中に甲殻。防御できるものがなかった結果、完全に貫通し爆散。辺り一面に破片を撒き散らすことになった。
突然の不意打ちに怒り心頭のダンゴバックラーは、即座に体勢を立て直すと衝撃を受けた方角へ視線を走らせる。
「おのれぇっ! どこのどいつだぁ、いきなり攻撃を仕掛ける馬鹿者はぁ――!」
そう怒鳴り散らすダンゴバックラーの眼前に、一つの人影が舞い降りてくる。
「はぁぁぁぁぁぁっ! ――サイコ・インパクトぉ!」
「ぐへぁっ――!!」
舞い降りてきた人影、レッドルビーから腹めがけてサイコ・インパクトを叩き込まれたダンゴバックラーは体をくの字にして吹き飛ばされる。
そのままダンゴバックラーは二回、三回とごろごろ転がっていく。
その合間にも長距離から狙撃され、爆散していくバトロイドたち。ついには全てのバトロイドが撃破されてしまう。
それを見せつけられる形となったダンゴバックラーは憤慨する。
「おのれ、貴様らかレッドルビー、ブルーサファイア!」
そう、長距離からバトロイドを狙撃していた犯人。それはブルーコメットをスナイパーライフルに変形させたブルーサファイアだった。
そしてバトロイドたちの掃討を終えた彼女は棍状態に戻し、ダンゴバックラーの前に現れた。
しかし、彼女の顔は不可解だ。と言わんばかりに悩ましげな顔になっている。
それがダンゴバックラーの癪に触ったようで――。
「貴様ぁ! 我らを馬鹿にしているのか!」
ブルーサファイアに怒鳴り散らす。
もっとも、ブルーサファイアはそのことについてはなにも思っておらず、ましてや古巣とはいえ今は敵対組織でしかないバベルの怪人に怒鳴られたところでなにも感じていない。
それよりも彼女の頭の中にあるのは、バベル襲撃の情報を流してきた相手。それは警視庁でも自衛隊でもなく、内閣府。即ち日本政府からであった。
確かに一見、この国の最高決定機関である政府から情報が降りてくるのは正しく見えるし、バルドルの政府直轄の組織であることからも、そうおかしなことではない。しかし――。
(なぜ今回に限って……? 今まで、そんなことはなかったのに)
そう、疑問はそこに行き着く。今までバルドルの行動はあまりよろしくない話であるが、バベルの壊滅前から一貫して被害が出てから対処するという後手の形になるのが基本だった。唯一の例外が、ブルーサファイア。霞が組織を裏切った結果判明した、バベル本拠地への奇襲作戦のみだ。
むろん、こうやって先手を取れることに問題がある訳ではない。ないが、なら誰がこの情報をもたらしたのか?
バベル内に私と同じように裏切り者?
そう考えたブルーサファイアだったが、その考えを即座に否定する。
(組織の大幹部で生き残っているのは、恐らく当時組織に於いてNo.3の葛城さまと、私を創るのに関わった青木さま。……でも、二人とも。まぁ、青木さまはともかく、葛城さまは忠誠心の塊のような方だから論外。それに青木さまも青木さまで、先代と副首領を慕っていたから……)
だから二人が裏切っている、と考えるのは論外。しかも――。
(葛城さまは、ああ見えて苛烈な部分があるから、そもそも裏切りなんて許さない、筈。しかも私という前例がいる以上、さらに監視の目は厳しくなっている筈)
だからこそあり得ない、と結論付けるブルーサファイア。
そこまで考えたブルーサファイアはかぶりを振る。少なくとも、今考えることでもないし、戦いの最中で余計な思考にリソースを割く訳にはいかない。
いくらこちらが数の上で有利でも、何が起きるか分からない。それが戦いだ。
実際、ブルーサファイアが余計なことを考えている合間にもレッドルビーとダンゴバックラーの戦い――とはいえ実情はダンゴバックラーの防戦一方――は続いていた。
「レッドルビー、援護します!」
だから、この考えは後でいい。今は怪人を倒すことが先決なのだから。
その決意をもってブルーサファイアもまた、ダンゴバックラーに対して攻撃を仕掛けるのだった。