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面会

 バルドル司令官の前についた秋葉。彼女は緊張してばくばく、とうるさく鼓動する心臓を落ち着かせるため深呼吸すると扉をノックした。


「南雲司令、東雲です。部屋に到着しました」

「秋葉さん? 扉、開いてるから入って頂戴」


 千草から入室の許可を得た秋葉は、しらず口のなかに溜まっていた唾をごくり、と呑み込むと意を決して中へ入る。


「……失礼します!」


 がちゃり、とドアノブを回すと勢い良く部屋に入る秋葉。

 そんな彼女の視線の先には、司令室に備え付けられたデスクに座り、パソコンによる作業をこなしている千草の姿があった。

 そして秋葉が部屋に入ってきたのを見た千草は、彼女へ声をかける。


「ごめんなさいね。もう少しで切りの良いところだから、あと少し待ってもらえる?」

「あ、はい……」


 千草が発するえもいわれぬ雰囲気に圧倒された秋葉は、気圧されたように呟く。それを了承と受け取った千草は、先ほどよりもさらに処理速度を上げ仕事に邁進するのだった。





 それから五分も経たずに仕事を終えた千草は、高揚感から、ほぅ、とため息をはいた。

 そして千草は、待たせてしまった秋葉を申し訳なさそうに見ると軽く頭を下げる。


「こちらから呼び出したのに、待たせてしまってごめんなさいね」

「いえ、それは……」


 千草からの謝罪を受け、逆に恐縮する秋葉。

 そもそも、普段は面倒見の良いお姉さん――それでも霞の義母だったりする――のように見えるが、彼女とて一つの組織をまとめる長なのだ。

 そんな彼女が、ただの気の良いお姉さんではないことをまざまざと見せつけられた秋葉は、ただただ圧倒されていた。


「それで今回呼んだ用件なのだけど――」

「は、はいっ!」

「なぁに? そんなに緊張しなくても良いわよ?」


 思わず裏返った言葉が出た秋葉を見て、くすり、と笑う千草。そこには確かに大人としての余裕があった。

 対して、緊張で固くなっている自身を比較して秋葉は羞恥で顔を赤く染まる。

 流石にこのままでは話が進まない、と悟った千草は強引に話を進めようとした。


「んんっ……! とりあえず秋葉さん。こちらに来てもらえる?」


 そう言って自身のデスクのとなり。不自然に置かれた椅子を示す千草。

 そのことを不思議に思いながらも、秋葉は指示されたようにちょこん、と椅子に座る。

 借りてきた猫のようにおとなしく座る秋葉に、千草はおかしさと申し訳なさを感じて苦笑いする。


「ごめんなさいね」

「司令……?」


 きっと、いや、絶対にこの娘はこのあとさらに緊張する事態に放り込まれる。そのことを理解していた千草は謝罪の言葉を口にする。

 しかし、そんなことを知らない秋葉は不思議そうに首をかしげた。


「今日来てもらったのは他でもないの。貴女と話したい、って方がおられて。でも、直接こちらにはこられないから通信で、という話になったのだけど……」

「はぁ……?」


 いまいち要領を得ない千草の話に気のない返事をする秋葉。だが、すぐ後にそれがどういった意味であったのか理解することとなった。

 千草がデスク上にある端末を操作すると天井から大型のモニターが降りてくる。

 まさしく秘密基地のギミックに目を輝かせる秋葉だが、直後モニターに映った人物を見て絶句する。


「久しぶりですね、南雲司令。そちらが例の……?」

「はい、協力していただけることになった魔法少女。オーラムリーフ、東雲秋葉さんです。()()()()()()


 そう、通信の主は政府の実質的No.2。片倉官房長官であった。

 秋葉にとってテレビでしか見ることのない、まさしく違う世界の住人が映し出されたことで先ほどよりもさらに緊張が高まる。

 内心では千草に対して、なんで教えてくれなかったのか、という罵倒をしていた。

 むろん、千草としてもサプライズとかいう人の心がない所業をするために秘密にしていたわけではない。


 彼女が片倉と面識を持つことがプラスになる、と判断したからだ。

 ただ、問題なのは今回の面会が急遽決まったこと。まさか、官房長官たる彼が秋葉に対して強い興味を抱くとは考えていなかったのだ。

 確かに、片倉と西野春菜。正確に言うなら春菜の父親が盟友であることは理解していたが、流石に盟友の娘。その親友に興味を抱くなどと思っていなかったからだ。


 むろん、これが、秋葉がそれなりの家の出であればまた違ったかもしれない。しかしそんなことはなく、彼女は一般家庭の出であり関係性は少ない。あくまで娘どうしの付き合いでしかなかった。


 そんな状況で親ならまだしも、娘の方に注目するとは思っていなかったのだ。

 だが、そんな考えなど当事者の秋葉には関係なく――。


「えっと、あの……。えぇ――?!」


 とてつもなく、あわあわ、と大混乱しているのだった。

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