秋葉の思い
アナザールビーから魔人、という存在を聞かされた秋葉はバルドル内に宛がわれた私室で一人、物思いに耽っていた。
「魔人、ね……」
ベッドで横になってごろごろ、と寝返りを打つ秋葉。その度に彼女が横になったベッドから、ぎしぎし、とスプリングが軋む音が聞こえる。
「春菜、お前も戦ってるのかよ……?」
以前見せてもらった春菜らしき魔法少女が戦っている映像を思い出して、秋葉はぽつりと呟く。
行方不明となった親友、アタシをアタシとして見てくれた人。
秋葉にとって、西野春菜は間違いなく特別な人だった。
――あいつを助けるためならアタシは。
秋葉は不安で瞳を揺らしながらも、決意を固めるように眼前に持ってきた手をぎゅ、と握る。
確かに、秋葉だけでは無理かもしれない。しかし、今はバルドルの仲間が、憧れのヒロインたちがともにいる。彼女たちの力を借りることができたなら……。
「……いや、こんなこと考えちゃダメだよな」
春菜を助けたい、という意思は秋葉のものだ。レッドルビーやブルーサファイア、ましてやレオーネのものではない。
秋葉の、オーラムリーフの原初の願い。
それを他人に任せるなど、あってはならない。なにせ西野春菜は、秋葉にとって大切な人なのだから。
「秋葉、大丈夫なんだもん?」
「……あ、あぁ。大丈夫だよ」
ずっと考え込んでいた秋葉を心配したアグに、一瞬反応が遅れるものの秋葉は大丈夫だと言葉を返す。
……そう、大丈夫。大丈夫なのだ。そうでなくては春菜を助けることなど――。
――ピピッ。
その時、部屋に備え付けられた通信機から呼び出し音が鳴る。
基本、呼び出しがあるにしても職員や渚たちが呼びに来るのが普通なのに珍しい、と思いつつ秋葉は壁に埋設された通信機の通話ボタンをタッチする。
「はい、こちら東雲です」
「良かった、秋葉さん部屋にいたわね」
「……南雲司令?」
通信の主はバルドルの司令、南雲千草だった。しかし、だとするとますます秋葉はなぜわざわざ通信したのかが分からない。
内心首をかしげている秋葉であるが、そんなことはおかまいなく、千草は用件を告げてくる。
「悪いけど今から司令室にこれるかしら?」
「司令室に……?」
「ちょっと、貴女だけにお話が、ね」
千草から名指しで、しかも単独での話と聞いて秋葉のなかに緊張が走る。
もしかしたら春菜に関する話かもしれない。そうでなくとも魔法少女として、異世界-イマジンやアグなど妖精の話という可能性もある。
そう思った秋葉は、そのことについて千草に問いかける。
「アグも連れていった方がいいですか?」
「……アグさん? いいえ、あくまで貴女単独でお願いするわ」
「……わかりました」
決定だ。これで千草からの話はおおよそ春菜についてだと当たりをつけた秋葉。
それがどのような話かは見当もつかない。しかし、それでも部屋で悶々とするよりも有意義ではある筈だ。
「秋葉、いくんだもん?」
確認を終え、通信を切断した秋葉に対して問いかけるアグ。
「あぁ、聞いての通りだから留守番頼むな、アグ」
「仕方ないもん……」
秋葉からもたらされた問いかけの答えに、アグは寂しそうにしょんぼりとしている。
そのことに多少の罪悪感を覚える秋葉。しかし、アグをおいて単独で会うことが千草の要請でもあり、仕方ないと思い直すと。
「ともかく行ってくるから。おとなしく待っててくれよな」
そう言って部屋を出ようとする秋葉。だが、なにか思い出したのか、彼女は部屋を出る前にアグへと振り返り――。
「あぁ、それと。もしなぎさ先輩たちが部屋に来たら、司令室で話してるって伝えといてくれよ。……じゃあ、行ってくる」
そして今度こそ部屋を後にする秋葉。
その背中をアグは寂しそうに見つめていた。