秘密研究
バベル秘密基地。その会議室で盛周はいつものように四天王らと顔を付き合わせて話し合っていた。
「……魔人、イマジン世界における怪人か」
「うん、もちろんあの娘。もう一人のなぎさちゃんが言ってることを信じるなら、だけどね」
念のため、必ずしも正しい情報かどうか分からないことを告げるレオーネ。しかし盛周は首を力なく横に振って。
「嘘をついてる可能性は低いだろう。少なくともあいつは、あのレッドルビーはオーラムリーフを重要視しているように見える」
「それはそうなんだけどねぇ……」
そう言ってため息をはく二人。どうにも情報が少なすぎて判断ができないのだ。
「こちらの味方をしたかと思えば、今度はあちらの味方をして。かと思えば魔物に対して共同戦線を張る。はてさてどういった意図があるのかな?」
悩む二人に奈緒は愉しそうに茶々を入れる。それを呆れた目で見る朱音。
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょうに。それよりも奈緒、あのレッドルビーの装備についてなにかないの?」
「なにか、と言われてもねぇ……」
そう言いながら、彼女はレオーネが手に入れたアナザールビーの戦闘映像を見る。そして、お手上げだ、とばかりに肩を竦める。
「ま、映像だけじゃレッドルビーとブルーサファイアの合の子かな? なんて感想が精一杯だねぇ」
「貴女ねぇ……」
奈緒が発した冗談交じりの言葉に、今度こそ呆れ果てる朱音。
そんな中、四天王最後の一人である楓がおずおずと手を上げて発言する。
「あの、奈緒さま。先ほどの映像だけを見るならブルーサファイアよりも、むしろブラックオニキスに近いような気がするのですが……」
楓の指摘に、奈緒は我が意を得たり。とばかりににやり、と笑い。
「はっはっはっ、楓くんの観察眼が鋭くなって奈緒さんは嬉しいよ。確かにあれはむしろブラックオニキスに近いだろうねぇ」
おおらかに笑った奈緒は楓をほめると、ちらり、と盛周を見る。
彼女の視線、その意味を悟った盛周は奈緒を見つめ返しこくり、と頷く。
その仕草で許可が出たと理解した奈緒は他の四天王にも隠していたとある研究について話す。
「実は奈緒さん、大首領にとある依頼をされていてねぇ。あのレッドルビーの装備品、その研究の一部である可能性が高いと思ってるよ」
「……待ちなさい、奈緒。こちらにはそんな話まったく降りてきてないけど……」
聞き捨てならない話が出てきたことで、朱音は表情を険しくして奈緒へ詰め寄る。
それもそうだ。いくら朱音が首魁となるシナル・コーポレーションが資金や資源を稼いでいると言っても、バベルの懐事情が厳しいのはかわりない。
そんな状況で、秘密裏に進められていた研究がある。などと急に言われたらどう言うことだ。となるのは自明の理だ。
険しい表情で睨む朱音とそれを飄々とかわす奈緒。そんな二人の間に割り込むように盛周が話しかける。
「すまんが朱音さん。今回のことは博士がさっき言ったように俺の直接指示だ。それに資金についても当てがある」
「盛周さま……? 資金に当てがある、とは?」
「今回の魔物の件もあって、計画を少し前倒しさせてもらった。レオーネ、交渉の方はどうだった?」
突然のキラーパスに目を白黒させるレオーネ。しかし、盛周が何を言ってるのか理解した彼女は、少し安堵した表情を見せて報告する。
「うん、伊達総理と片倉官房長官。政府の人たちと交渉した結果、フツヌシの量産計画。モムノフの採用を後押ししてくれるように調整してくれるって」
レオーネの報告に目を見開く朱音。
そう、魔物襲撃時。レオーネが政府機関に顔を出していたのはこの交渉のためだった。
しかし、それでも、だ。
確かにいずれ盛周がテストしている零式起動甲冑フツヌシのデータを精査し、簡易量産型を作成。モムノフとして自衛隊へ納品する計画はあった。
だが、それはあくまで現時点で計画までであり実行に移せる段階ではなかった筈。
そんな考えの彼女へ、盛周は畳み掛けるように告げる。
「現状、自衛隊は魔物相手にはほぼ無力化されてしまっている。一応、こちらから横流ししているバトロイド用ライフルの飽和攻撃であれば撃破可能の試算もあるが、それだって現実的じゃない。彼らには新たな矛が必要なんだ。それも早急的にな」
「ですが、ハスユミは――」
「……あぁ、量産に向く装備じゃない」
事実、どうしてもハスユミは製造時に呪術的な手作業が必要になることからコストが跳ね上がってしまう欠点を持つ。だが――。
「今回、ブラックオニキスでも魔物の撃破ができることが判明したからな。現状繋ぎとしてバベル製PDCとハスユミのハイローミックスで対応可能だという試算が出た。それならば、ある程度コストは抑えられる」
「確かに、それならば……」
うつむき考え込む朱音。その頭のなかでは高速で費用や利益、その他諸々について必要なことをまとめている。
そして考えがまとまったのか、朱音は頭を上げた。
「お話は確かに分かりました、それに資金調達についても。しかし盛周さま、そうまでして一体、なんの研究を?」
「それは、一言で言えばフツヌシに変わる新たなパワードスーツ。それの技術蓄積を、といったところになるか」
「フツヌシに変わる? あれでは不足だ、と?」
フツヌシ自体も現状ではオーバースペックぎみなのに、それ以上のものを。そう言いはなった盛周に、朱音は訝しげな視線を向ける。
盛周もまた、彼女からそう思われるのを承知の上で告げたのだ。きっと必要になる、と確信して。
その盛周の様子に、ますます疑問が膨れ上がる朱音であった。