もう一つの邂逅
アクジローとレッドルビー、そしてブラックオニキスによる魔物たちへの蹂躙劇が開催されている頃。オーラムリーフとブルーサファイアもまた別の場所で戦っていた。
「ファイア、ブレイド――! はぁっ!」
リーフが炎の剣を振るう度、魔物は焼却され塵となっていく。だが、それでも魔物の方が数が多いこともあり殲滅速度はそこまで早くない、のだが。
「させません! ――シュート!」
ブルーコメットをライフルモードに変形させたサファイアが、リーフを守るように、そして常に一対一で戦えるように援護している。
確かにサファイアの攻撃では今の魔物に対して致命傷を与えることはできない。しかし、衝撃を与える。吹き飛ばすことはできる。
それによって彼女は常にリーフが有利に立ち回れるように手を打っていた。
「サファイア先輩、助かる!」
「いいから貴女は敵を倒すことに集中!」
「ラジャー!」
本来即席のコンビである二人。彼女らがここまで連携をとれるのは、ひとえにサファイアの、霞の能力の高さゆえだった。
彼女自身、人間と寸分違わぬ見た目であるが実際にはガイノイド。すなわち人造人間だ。
そして彼女の頭脳たるAIは数多くの技術者、研究者。その中でも天才と称される青木奈緒や、彼女をも超える先代バベル大首領や副首領の手によって生み出されたものだ。
……時々、主に盛周関連の事になるとポンコツ化することのあるAIではあるが、それでも常人よりもはるかに高度な知能を持つ頭脳は戦場に於いても、常に最適解。不可能であった場合は次善の策を提示する。
そして彼女の身体能力は、その提示された策を実行するにたる実力を有するため問題なく、それこそ木からリンゴが落ちるのが当然のように、障害もなくこなしていく。
そうやって一体一体確実に処理していく二人。だが、それでもやはり疲労というものは少しづつ、少しずつ溜まっていく。
「……くそっ、どんだけいるんだよ!」
キリのない状況に悪態づくリーフ。
本来、そんな彼女をたしなめるべきサファイアだが、彼女自身も心のなかで同意していた。
(……いくら楽に倒せるとはいっても、このままじゃじり貧ね。渚の方は――)
今頃、孤軍奮闘しているであろう親友を心配する。実際のところはアクジローたちの増援を得て無双している訳だが、それを知ったら彼女はどう思うのだろうか?
それはともかくとして、遅々として進展しない状況に焦れるサファイア。
こちらはいつか終わるだろう、いつかは。しかし、その間ルビーが、渚が耐えられる保証がない。ゆえに一時でも早く殲滅をする必要がある、が。
「……このぉっ!」
魔物を切り裂くリーフ。
彼女の戦力自体は頼もしくあるがやはり本人の適正が近、中距離ということもあってどうしても殲滅力に欠ける。
むろん、フレアストームという範囲攻撃もあるにはあるが……。
(流石に市街地戦では……)
そう、今度は威力の大きさが問題となる。そもそもオーラムリーフの炎、という魔法属性が威力として破格なのに、それを市街地で使おうものならどれ程の被害が出るか想像したくない。
むろん、威力を絞ればある程度の軽減は可能であろうが、問題は――。
「……あの娘は、そこまで魔法にも戦場にも慣れてない」
そう、彼女のヒロインとしての経験の少なさ。それが弱点として露呈していた。
もちろん、それを補うためにサファイアが援護についているのだが、それでも今の状況では――。
「……どうにか、どうにか。あと一手が――」
――なら、その一手になってあげる。
「…………えっ?」
どこからともなく聞こえてきた声に疑問を抱くサファイア。しかし、その直後。
目の前を奔るサイキックエナジーの奔流を見て絶句する。
あれは、あれはルビーのサイコバスター……!
驚き、力が放たれた場所を見るサファイア。そこにはかつて映像で見た外套を纏った戦士が――。
「……えっ、なぎ、さ――?」
……どこか成長した渚を思わせる、戦士の姿があった。