共闘
「どうやら間に合ったようだな」
多少傷つきはしているものの、レッドルビーの無事な姿を見て盛周は人知れず安堵していた。
流石に先ほどの状況。ルビーが魔物たちに囲まれていた状況を見たときは肝を冷やしたからだ。
それは彼女が人類の希望、ヒロインであることもそうだが、一番の理由はやはり彼女が幼馴染みだから。
盛周にだって人並みの情はある。幼馴染みの渚が敵になぶられている姿を見るのは遠慮したかった。
だからこそ、彼は救援が間に合ったことに安堵した。
そしてレッドルビーもまた、戦場に現れた盛周。アクジローの姿を見て、自身が彼に救われたことを理解して頬を赤らめる。
彼女だって花も恥じらう乙女だ。それが自身の好いた男に救われる。まさに白馬の王子さまが現れたようではないか。
もっとも、その姿は全身甲冑の機械でできた鎧武者だが。
「……あ、ありがとう」
だからこそ、ルビーがぶっきらぼうな礼を言うのも無理なかった。
ルビー自身、先ほどの絶体絶命の状況とは別の意味で心臓がうるさいほど高なっていたし、緊張もしていた。それに――。
「大首領! ご無理をなさって――!」
この場には盛周、アクジローだけでなくブラックオニキス。自身の力を再現したバベルの戦士もいた。
彼女にルビーが、渚がアクジローの正体を知っていることを悟られる訳にはいかない。そうなってしまえば組織は、秘密結社バベルは盛周を守るため彼の身を隔離する、つまり離れ離れになるかもしれない。
それを彼女は許容できなかった。
「オニキス、今はそれよりもこの場を掃討する」
オニキス、楓に指示しながら盛周はルビーを見る。
彼と目があったルビー、渚は再び胸が高鳴るのを感じた。その証拠に顔も先ほどよりさらに赤みが差している。
「レッドルビー、今はバベルだバルドルだなどと言っている状況じゃない。協力して事にあたるぞ」
「……わかったよ」
お互いがお互いの正体を知った今からすると完全な茶番だが、それをすることに意味がある。
なにせ本来バベルとバルドルは不倶戴天の敵。しかもバベルと言う組織はルビー、渚の両親の、そしてルビーは盛周の両親、双方ともに仇となるのだ。
それがなにもなく共闘するなど不自然すぎる。だからこそ、多少面倒であろうとも今回のような儀式が必要となる。
それにこれはなにも知らない、と思われているオニキス、楓に対する言い訳という一面もある。
もっとも楓もまた、以前のカメンリザードが護衛を行った件で盛周の正体バレを知っていたので杞憂であった。
……まぁ、結果として楓の胃にまたもや少なからずのダメージを与える結果となってしまったのだが。
それはともかくとして、ルビーに共闘の申し出を受け入れられた盛周は彼女の背を守るように移動し、ハスユミを構える。
「ならばここからは共同作業だ。背中は任せる」
「きょ……!」
盛周の共同作業、という言葉に思わずどもるルビー。もはや、盛周が自身をからかうため、わざと言ってるんじゃないか、と思ってしまう。
だが、こうしている合間にも仲間が。オーラムリーフとブルーサファイアに危機が訪れているかもしれない。それを考えれば、ここでまごついているわけにもいかなかった。
「……っ、うん! 一気に終わらせるよ!」
頬をぱん! と、気合いをいれるように叩きながらルビーは宣言する。
事実、色々な意味で盛周に翻弄されているものの、それを除けばこのシチュエーションは渚にとっても実に滾るものだ。
本来叶う筈もなかった想い人と同じ場に立ち、想い人に頼られ、想い人に勇姿を見せ、そして魅せられる。
そう思うだけで今まで戦闘で蓄積していた疲労も消えていくし、闘志も湧いてくる。
そして闘志が湧く、ということは彼女の精神に由来する超能力の出力も上がるということも意味するのだから――。
――その結果は、もはや言葉にすることも必要ないだろう。
しかし、あえて言葉にするのなら。
魔物たちは然したる抵抗もできず、レッドルビーとアクジロー。そして、ブラックオニキスに蹂躙される未来しか残されていなかった、ただそれだけである。