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ハスユミ

 時間は盛周とブラックオニキスがレッドルビーの所へ到着する少し前まで遡る。

 秘密基地から出撃した盛周は、フツヌシに搭載された背部ブースターを点火させ高速移動しながら武器の確認を行っていた。と、いうのも、今彼が持っている武装は大太刀のタマハガネとライフル、ヒナワではなく――。


「このタイミングで完成したのは良いが……。テストもなくぶっつけ本番とは……」


 手に持った弓、ハスユミをしげしげと見つめる。

 そう、今盛周が持っている武装はこれ一つであり、タマハガネとヒナワは基地内部格納庫へ置いてきていた。

 なぜ盛周はそのようなことをしたのか。その理由はある意味単純明快。タマハガネとヒナワは本来怪人などの物理攻撃が通用する相手用の武装であり、逆にハスユミ。こちらは魔物たちのように特殊な攻撃でないと痛打を与えられない敵専用の武装として開発されていたからだ。

 もっとも、そんな特殊な運用をすることから開発は難航。今回、レオーネや政府方面の特殊な伝手、そして奈緒が開発したPDCもどきの力で最低限のスペックに手が届き、ようやく完成したのだ。


「それでもやるしかない。今は一歩でも前に――」


 ハスユミを握りしめる盛周。

 怖い、という思いは正直ある。しかし、それでも進むしかない。


「大首領……」


 そんな盛周を楓――ブラックオニキスは心配そうに見つめる。

 本来であれば盛周が、大首領が前線に出るなど容認できない。だが、それを盛周に言ったところで彼が引かないのは理解している。

 それでも本当はやめてほしいのが本音だ。なにせ、同じように先代もまた前線に赴き、結果として戦死。組織は崩壊の憂き目にあった。それを繰り返すわけにはいかないのだから。


「……大首領、やはり――」

「みなまで言うな」


 むろん、盛周も彼女が言いたいことは理解している。それでも、今は――。


「いくぞ、時間が惜しい」

「……はっ!」


 盛周とブラックオニキスは急ぐ。魔物たちを倒すために。己が成すべきことを成すために。







「――見えた!」


 しばらく進んでいた盛周たちの前に魔物たちの群れが姿を表す。

 どうやら付近の避難は完了しているようで人の気配はなく、辺りの建造物を壊しているようだ。


「ゴブリン型が2、狼男型が1! 仕掛けるぞ!」

「はっ、お任せを!」


 その言葉とともに突撃するブラックオニキス。彼女はPDC擬きを起動すると、脚に力場をまとわせる。


「はぁぁぁぁぁ――――!!」


 そのまま彼女は気炎を上げて跳躍。力場のお陰もあってか、普通よりも大幅に飛び上がったオニキスは空中で一回転。近くにいたゴブリン型へ強烈な飛び蹴りを浴びせる!


「グゲェェェェェェェェ――――…………」


 突然の奇襲を受けたゴブリン型は悲鳴を上げて吹き飛び、地面を二回、三回とバウンド。最期には反応することなく事切れる。

 仲間を殺された魔物たちは下手人であるブラックオニキスを敵として狙いを定めるが……。


「――南無、八幡大菩薩……!」


 その言霊とともに自身に光の矢が殺到、打ち込まれた2体は光の矢。その内部に内包されたエネルギーの解放に巻き込まれ爆散する。


「……っ。どうやら成功、か」


 先ほどの光の矢。それこそがハスユミの、新兵器の威力であった。


「ご無事ですか、大首領」

「あぁ、オニキス。感謝する」

「しかし、凄まじい威力ですね、それは……」


 そういいながらハスユミをまじまじと見るブラックオニキス。

 その視線を受け、盛周もまたハスユミを見る。そして、己が正直な思いを吐露する。


「あぁ、まったくだ。だが、これぐらいしてもらわねば、な……」


 ハスユミの製作過程を思い出しながら、独りごちる盛周。それだけの手間とコストをかけたのだから、役に立ちませんでした。では終われないのは確かだ。

 なにしろ、ハスユミは構成する金属の生成時点で梵字や霊験あらたかなお経を刻み込まれ、さらにPDC擬きで擬似的に霊力を再現している。

 だが無尽蔵に起動させていれば、それだけ武器を消耗させてしまう。それを防ぐための手立てが先ほど盛周が口ずさんだ起動キー。


 ――即ち、南無八幡大菩薩。


 この言葉は本来、八幡大菩薩に自らの命運を委ねます。という意味合いの言葉であるが、盛周は得物であるハスユミにお経を刻むことで、より深く関係を持つ。言うなれば一種の拡大解釈により、ハスユミに低度の神降ろしを行おうとした。

 もっとも、それ自体は失敗したが、それでも最低限魔物相手にダメージを与えられるだけの権能を付与することには成功し、そのことから初めてハスユミは一応の完成をみたのだ。


「実際の効果も確認は取れた。これならいけるな」

「おめでとうございます、大首領」

「あぁ、じゃあ後は――」


 そう言って、盛周はフツヌシの中で獰猛な笑みを浮かべる。


「――我らの敵を狩るだけだ。いくぞ!」

「――はっ!」


 そうして二人はいまだ跋扈する魔物たちを狩るため、先を急ぐのだった。

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