秋葉の潜在能力、魔法少女という能力(システム)
悩ましげな顔をしていたレオーネだったが、考えがまとまったのか、立ち上がったはいいものの未だフラフラしているオーラムリーフに話しかける。
「……今日はここまでにしとく?」
それは実質的な模擬戦終了するかの確認だった。
そして、そんな言葉を投げかれられたオーラムリーフは、顔を悔しそうに歪ませ、噛み締めた歯から歯軋りを響かせた。
彼女からすればレオーネの言葉は戦力外通告とも受け取れたのだから、その悔しさも一入だろう。
オーラムリーフ、秋葉からすれば言い方は悪くなるが、レオーネに甘く、舐められたまま終われるわけがない。
「まだ、まだぁ……!」
「熱意は買うけどねぇ……」
事実、レオーネとしてもオーラムリーフの意気は認めるものの、彼女のからだがついていっていない。
これ以上無理をさせるべきじゃない。そう判断したレオーネは模擬戦の終了を宣言しようとして――。
「あ、ぁぁぁぁぁぁ――!」
「……な」
――咆哮。
まだ、終わらない。終わらせない、という意志を見せるオーラムリーフの絶叫に、一瞬とはいえ身を怯ませてしまった。
そのことに気付いたレオーネは驚愕する。
まさか新人に、ド素人に己が怯まされた。
「……おもしろい!」
多少顔を引きつらせながらも獰猛な笑みを浮かべるレオーネ。
ただの気合いのみで、こちらを圧してくるなど経験すらなかった。
それを成してみせたオーラムリーフ、秋葉に興味が湧いたのだ。だからこそ、彼女は――。
――ドン!
震脚を以て地面を力強く踏み締め、オーラムリーフに向けて加速!
一瞬にして間合いをつめる。だが……。
「……くっ!」
「刃ぁ――!」
それを待っていたかのようにファイアブレイドを振りかぶるオーラムリーフ。そして、そのまま剣を振り下ろす。
それを野性的な勘によって回避したレオーネ。しかし、次の瞬間先ほどとは別の意味で顔を引きつらせることになる。
「は、はは……。ちょっと、威力高すぎじゃない、かな?」
レオーネが躱したファイアブレイドの切っ先が床に触れた瞬間、大爆発を引き起こす。そして爆炎と爆煙が晴れた時、そこには小規模なクレーター――。
「これは……。水瀬さんに怒られる、かなぁ……」
――しかもクレーターの表面は鏡面化。即ち、圧倒的な火力で液状化し、空気に冷やされ固まった床、そのなれの果てがさらされた。
いかにレオーネといえども、こんな超火力を身で受ければ耐えることすら出来ず蒸発するだろう。
それをまざまざと見せつけられたレオーネは戦慄する。
(これがこの娘の本来の――ううん、潜在能力、か……)
単純な戦闘能力ならレッドルビーやブルーサファイアにも引けをとらない逸材。まさに金の卵と呼ぶにふさわしい力。
素質はあったのだろう。しかし、ただの一般人だった秋葉にここまでの力を与える魔法少女という能力。
(こりゃ、ご主人さまが危惧する訳だ)
レオーネとオーラムリーフが模擬戦を行う発端となった、盛周が発したアグ調査の依頼。
これだけの力があれば盛周が心配するのも当然だ、とレオーネは納得していた。
もっとも、その結論は彼女の一部勘違いであり、盛周とすれば先ほどの魔法少女として能力の上昇はもちろん。何より、今回の行方不明事件において、年若い女性だけが選ばれていることに疑問を抱いていた。
そこになにか理由があるのではないか、と。
そして、その理由が不明である以上、アグという妖精を危険視するのもまた当然だった。
なぜならアグたち妖精と、魔法少女たちの敵である魔物が結託していない、という証拠はないのだから。
それはともかくとして、秋葉が、オーラムリーフがここまでの力を見せつけた以上、まだまだ油断するわけにはいかない。
先ほどまでの、少し緩かった雰囲気はどこにいったのか。レオーネは真剣な眼差しを向ける。しかし、当の本人は――。
「あっ、は……。は、ぁ――」
既に息も絶え絶えになり肩を揺らしている。そして――。
「……う、ぁ――」
「ちょっ――!」
呻き声を最後に、オーラムリーフの変身は解除され、東雲秋葉の姿に戻った少女は床に倒れそうになる。
もっとも、それはいち早く気付いたレオーネによって防がれ、倒れる前に抱き留められたのだが。
「ちょっと、秋葉ちゃん。大丈夫?!」
「……う、ぅ――」
「……どうやら、生きてるみたいだね」
秋葉の安否を心配したレオーネであったが、彼女がちゃんと呼吸をしていたことで安堵する。
後にアグへ確認した話だと、どうやら先ほどの一撃が、まさしく全身全霊の一撃。残った魔力をかき集めた攻撃だったようで、その結果。全ての力を使い果たした秋葉の変身は解除され気絶した。
ともかく、秋葉の安否を確認したレオーネは苦い、そしてどこか聖母を思わせる優しい笑顔を向ける。
「まったく、やるじゃん。……良くできました」
そう言いながら気絶した秋葉の頭を撫でるレオーネ。
気絶しているはずの秋葉は、その感触とレオーネの優しい言葉に認められたことを本能的に察知したのか、にへら、と顔を崩して笑みを浮かべるのだった。