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盛周の頼み

 自身の、バベル秘密基地内の私室で盛周は、久々にこちらへ帰ってきたレオーネから報告を受けていた。ただ、普段とちょっと違う点が一つ、それは――。


「……それでね、ご主人さま――」


 盛周の()()をくすぐるレオーネの吐息。

 二人は今、部屋に併設された寝室。そこに設置されたベッドの上に座り、しかもレオーネは盛周へもたれかかるように抱きついていた。

 その顔は羞恥と高揚感でほんのりと紅潮していて、端から見ればとても幸せそうに顔が緩んでいる。


 そして、盛周もまたそんなレオーネの様子を見て、安堵の笑みを浮かべていた。

 彼としてもやはりレオーネの精神状態は気がかりであり、彼女が幸せそうな顔を見れるのは良かった、と心から思っている。

 なにせ、捕えられていた彼女を救出したのは彼自身であるし、その時の、精神崩壊寸前の彼女を見ていた身としては、ここまで復調した彼女を見て、良かった。と安堵するのは普通のことだ。

 しかも、それが見目麗しい美少女――一応、レオーネの方が年上で成人済み――なのであればなおさらに。


 もっとも、盛周のその笑みはレオーネにとって、ある意味目の毒であった。

 ただでさえ、今の彼女は慎ましやかな胸がふにょん、と形を変えるほどに身体を密着させていた訳で……。

 それこそ、二人の顔もあと少し、あと少し近づければそのままキスできそうなほどに接近していたのだから、その破壊力は半端なかった。


「……あ、ぅぅぅぁ――」


 ぷしゅう、と沸騰したやかんのように頭から湯気を立ち昇らせるレオーネ。

 そんなレオーネに盛周は気付かぬうちに追撃をかける。

 彼女の頬に、そっと手を添えると、心配そうな表情を浮かべて彼女へ語りかける。


「……大丈夫か、レオーネ?」

「――ふぁ、はいぅ! だい、大丈夫だよっ、ご主人さま!」


 ……別に盛周はレオーネをからかうつもりでそんなことをやった訳ではない。これが幼馴染みの渚あたりであれば、からかうために敢えてやった可能性もあるが。今回の場合は、本当にレオーネが心配だっただけだ。


 ただ、レオーネからすると――。


 己を心配そうに、真剣な眼差しで見つめる盛周の視線。頬に伝わる暖かな、温もりを感じる手の感触。そして耳が幸せになる、盛周が発した優しげな音色の声。

 それらを身体全体で感じたレオーネは、下腹部がきゅん、と甘く疼くのを実感する。

 それと同時に、彼女はかつて経験した時刻がフラッシュバックするが……。


(……それでも、なんだよね)


 レオーネ自身、いまだそういうことに忌避感を持っているのは確かだ。

 当然だろう。誰が物のように扱われて、またそれを経験したい、等と思うのか。

 しかし、それも相手がご主人さま。盛周であれば話は別だ。


 そもそも、レオーネ自身気付いていないが、彼女は孤児――浮浪児というのが正確かもしれないが――人一倍家族の愛に飢えている。

 そんな彼女をいろんな意味で孤独から救ってくれたのが盛周であり、まさしく彼は白馬の王子さま、と称して良い人物だ。

 その彼と仔を成せたらどんなに幸せか……。


 それを想像するだけでレオーネは天にも昇る気持ちになれる。だが、しかし……。

 彼女はそれがとても難しい道であることも良く理解している。

 なにせ、彼の周りには幼馴染みの渚を筆頭に。彼の仔を成すため調整された南雲霞に、かつて実際に一時期、肉体関係をもっていた青木奈緒。

 それに彼が絶対の信頼を寄せる葛城朱音がいるのだ。

 しかも、最近は未来から遡ってきたとされる成長した渚まで現れる始末。


 いろんな意味で強力すぎるライバルたちに、パッと出の自分はどうすれば良いんだろう……。と、途方にくれるのも仕方ないというものだ。

 まぁ、そこらあたりの心配は実のところ、レオーネは気付いていないが渚と霞も抱いていたりする訳で。

 だからこそ渚は積極的に盛周と接触して、他を牽制したり、霞も霞でこの頃は常識的な対応、という免罪符で盛周から渚を引き剥がしている訳だが……。


 ともかく、今レオーネが出来ることと言えば盛周の指示をこなして自身の存在感を彼に示すこと。

 そうして覚えを良くしていけば、ゆくゆくは――。


(……ふ、ふふっ――)


 彼女の脳裏にはピンク色な未来。幸せ家族計画の一部始終を夢想する。その顔は、先ほどとは別の意味で緩みきっており、間近でそれを見ることとなった盛周は、少し、いつもの違うレオーネの様子にほんの少し引いていた。

 しかし、いつまでもそうしてる訳にもいかない。

 今回、レオーネが帰ってきたタイミングで頼みたいことがあったのだから。


「おい、おい! レオーネ!」

「うぇへへへ……。――――ひゅわいっ! な、なにご主人さま?!」


 妄想で意識を彼方へ飛ばしていたレオーネは、盛周の掛け声で現実に戻ってきた。


「帰ってきて早々で悪いが、お前に頼みたいことがあるんだ」

「へっ……? 頼みたい、こと?」

「あぁ、そうだ」


 盛周の真剣な様子に何かあると感じたレオーネは居住まいを正す。

 それを確認した盛周はレオーネに頼みについて話す。


「あの魔法少女、オーラムリーフ。東雲秋葉、だったか? 彼女の側にいるアグとかいう生き物について調べてほしいんだ」

「ふぇ……? あの、ぬいぐるみっぽいのを?」

「あぁ……」


 盛周の頼みが流石に予想外だったのか固まるレオーネ。

 そんなレオーネを見て、盛周はなぜそんな頼みをしたのか、説明を始めるのだった。

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