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バベル再興記~転生したら秘密結社の大首領になりました~  作者: 想いの力のその先へ
第一部 バベル、再興 第一章 バベル、新生
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奈緒と技術

 渚と霞、二人の少女が千草に報告をしている頃。最低限の事後処理を終わらせた盛周は奈緒がいる研究所へと足を運んでいた。


「入るぞ、博士」


 そう確認の言葉は吐くものの、肝心の返事は待たず中へ入る盛周。

 彼は目に入ってきた光景を見てため息を漏らす。


「うふ、うふふ……」


 まさに足を踏む場所がない、と言えるほどにあちこちに散乱する資料。中には実験のサンプルなのか、いくつかの機械部品も置かれ、肝心の奈緒はそのうちの一つを手に取って恍惚の笑みを浮かべていた。

 その姿、まさしくマッドサイエンティストは斯くあるべし。という見本とも言ってよかった。盛周にとっては特に喜ばしいことではなかったが……。


「――博士!」


 自分の世界に入って戻ってこない奈緒が気付くように声を荒げる盛周。

 彼の大声に肩をびくつかせて驚きを露にする奈緒。そして、ようやく部屋に盛周がいることに気付き軽い調子で話しかける。


「おや、大首領じゃないか? こんな辺鄙なところに何用で?」


 彼女の飄々とした態度に盛周は再びため息をつく。この前の襲撃の件も含めて奈緒は自由人すぎることから、少し気疲れを起こしていた。

 しかし、だからと言ってこのまま沈黙を保っても意味がないため、盛周はここへ来た用件について話す。


「……以前依頼した進捗の方はどうなってるのか、気になってね」

「進捗? ……あぁ、バトロイドの改良の件だね」


 盛周に進捗と言われ一瞬考え込んだ奈緒だったが、すぐに思い出したようで答えを口に出す。

 そして、彼女の答えは正解だったようで盛周は軽く頷いていた。


「あぁ、昨日の時点で報告が上がっていなかったからな。……もっとも、こちらもこちらでそれどころではなかった訳だが」


 そう言いながら、昨日の奈緒の尻拭いを思い出し、本当に余計なことをしてくれた、とジト目で睨み付ける盛周。

 そんな彼の視線を受けて奈緒は何か(ドM)の琴線に触れたのか、先ほどとは違う質の恍惚とした笑みを浮かべ体を震わせる。……ただ、彼女の頬が赤く染まっていることから、何らかの快感を感じているのは確かだった。


「――あっ、ぅん。……ふぅ、それでバトロイドについての報告だったね」


 ほんのりと頬を染め瞳が涙で濡れていることで無意識の内に艶やかさを醸し出している奈緒は、火照った吐息をはいて誤魔化すように報告をしようとする。

 彼女の今の姿だけを見ればまごうことなき美女なのだが、それまでのことを知っている者たちからすると、間違いなく残念美女だと評することが断言できた。

 事実、盛周もそんな彼女を白けた視線で見ていたのだから。そして、その視線に晒された奈緒は再びぶるり、と軽く体を震わせている。


「今日はやけにお仕置き(ご褒美)が多いようだけど……。まぁ、私は文句ないんだけどねぇ。と、それはともかく。まぁ、とりあえず座りたまえよ」


 改めて報告をするためにも盛周へ近場に着席することを促しつつ、一度場の空気を変えるべく奈緒はこほん、と咳払いを一つする。

 盛周もまた、彼女から促されるままに比較的空いたスペース――一応椅子もあることから応接用と思われる――に座る。


「バトロイドに関してだけど、今のところさらに性能を向上させたハイエンド版を研究中だよ」

「具体的に言うと?」

「装甲材を現状よりもさらに高いものに変えたり、動力源をバッテリー式から小型原子炉に変えたり、なんかだね」


 そこまで聞いて、主に『原子炉』の部分で盛周は眉間を押さえる。いくら大首領に就任して時が経ったとはいえ、未だに小型、しかも2メートルにも満たない人形に搭載可能な大きさの原子炉。という存在に慣れないでいた。


 ……確かに前世の特撮でも動力源が原子炉の怪人やヒーローがいたことは知識として知っているし、そう言うものだとは納得している。

 ただ今の、今世の世界で己が両の足で立っていることから現実だと考えている以上、なんというかギャップが凄まじすぎるのだ。特に今世と前世の技術レベルがそんなに変わっていない部分も含めて。

 流石に一部、バイオテクノロジー部門などがバベルや、()()()()()()秘密結社からの技術流出――主に撃破された怪人の残骸などから解析――によって、前世よりも今世の方が高い技術水準となっている。


 ともかく未だに小型原子炉という存在に慣れていない盛周を見て、奈緒は不思議そうに首をかしげている。

 彼女にとって小型原子炉という技術はありふれた、ともすればすぐにも陳腐化しかねない程度の技術でしかないからだ。

 事実、彼女の研究によって大型の()()()()技術は既に()()済み。小型についても既に目処が、試作機は稼働。ある程度の安全は確認済みだ。


 そしてそのことは大首領も知ってる筈なのに、と奈緒はことさら不思議がっていた。

 げに恐ろしきは盛周が前世より培ってきた常識(偏見)、と言ったところか。

 もちろんそんなことを知らない奈緒は、彼の葛藤を理解できる筈もなく――。


 ――まぁ、実害もないし関係ないか。


 と、良いか悪いかは別として、ことさら自身に関係ないこととなると、途端に無頓着となる奈緒。この切り替えの早さがあったからこそ、彼女は今までやってこれたのだろう。


「――ところで」


 と、ここでようやく気持ちの整理が落ち着いたのか、盛周が部屋に入った当初より疑問に思っていたことを口にする。


「いったい何ににやけてたんだ? それにその部品も」

「ん? ……あぁ、これかい?」


 盛周の疑問に、彼女は手に持っていた正方形の物体を掲げつつ答える。


「これは新しい怪人たちの(コア)だよ」

「ついに完成したのか!」


 彼女の端的な説明を聞いた盛周は、身を乗り出すように迫る。彼にとって彼女が掲げるものはそれだけの価値があったからだ。

 そして、奈緒もまた興奮する盛周を見ると、悦に入った様子で誇るように背を反らし、人よりも少しばかしさみしい胸を揺らしていた。


「あぁ、そうとも。完成したのさ。大首領、きみが望んだものがね。……まぁ、人間ベースの怪人は、どうしても性能に()()が出来てしまうのは確かだしね」

「それに()()()()()の活動を考えると、どうしても()()が必要になるからな」


 自信満々に告げる奈緒の言葉を補足するように、盛周も新しい怪人の核の必要性を述べる。

 しかし、それを聞いた奈緒は少しばかり不機嫌になり――。


「まったく、煩わしいことだよ。仮にも悪の秘密結社が、我らバベルが俗世に配慮しなければならないなんて――ひゃ、んっ!」


 悪態をつく奈緒だったが、最後まで言葉を紡ぐことはなく()()を上げる。

 彼女が矯声を上げる原因となったこと。それは――。


「ん~? そんな悪いことを言う口はこれかなぁ……?」


 そう言いながら盛周が彼女の珠のような、スベスベとした頬を撫でると今度はぎゅむ、と摘まみ、ある程度力加減を施しながらつねり上げたからだった。

 彼から突然もたらされた痛み(快感)に思わず悶絶する奈緒は、無意識にもっと、とでも主張するようにあつい吐息をはく。


「――あっ、はぁ……」


 そのまま潤んだ瞳で盛周を見つめる奈緒。

 そんな彼女の期待に答える意図があったのかは不明だが、盛周は彼女の頬をつねり上げたまま席を立つ。すると、それにあわせて奈緒の頬も引っ張り上げられ、最後にはぱちん、と小気味良い音をたてて、頬から手が滑るように離される。

 盛周の手から解放された頬は、先ほどとは別の意味で赤く染め上げられ、奈緒はその赤くなった部分を愛おしそうに手のひらで撫でていた。

 そんな彼女を見ながら盛周は一言。


「ともかく、博士。貴女の今後の活躍も期待している」


 それだけを告げながら部屋を去る盛周。


 ちなみに、盛周が去ったあと。部屋の前を偶然通りかかった構成員が、中からなにか盛った声が聞こえて、驚き逃げ去ったこともあわせて記しておく。

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