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治療と情報

 驚く二人を尻目に、霞は己のパワードスーツを呼び出すため行動を起こそうとして――。


「着そ――」

「おっと、それはやめた方が良いよ? 確かにここはバベルと多少なりとも関係はあるけどね? でも、ここで働いてるのはただの一般人だとも。彼らを巻き込むつもりかい?」


 飄々とした奈緒の制止を受け、霞は苦虫を噛み潰した表情でパワードスーツの呼び出しをキャンセルする。

 それを確認した奈緒は、おどけた調子で話しかける。


「それにかすみくん? 君の身体能力ならそんなことしなくとも、普通に取り押さえられるとも。それは奈緒さんが保証するよ?」

「……いったい、何が目的なんですか?」


 あくまで巫山戯た態度を崩さない奈緒に、霞は不機嫌な様子で問いかけた。

 それに奈緒は一瞬、渚に視線を向け――。


「なぁに、大首領直々のご命令。というやつだとも」

「……なっ!」


 奈緒の言葉に驚く霞。今回のことに盛周が少なからず関わっていることを察して。まぁ、バベル怪人が襲撃している時点で、盛周が関わっていない、というのは無理があるのは確かだが。


「大首領としても、彼女がここまで大怪我するのは想定外だったらしくてねぇ。流石にこのままでは不義理すぎるからって、奈緒さんにどうにかするように振ってきたのさ」

「どうにかするって……」


 二人のやり取りを聞いていた秋葉は、驚きのあまり思考停止している。

 奈緒の正体についてもそうだが、ここ数分で判明した情報量の多さで完全に頭がパンクしたいた。

 そんな彼女を安心させるように話しかける奈緒。


「なぁに秋葉くん、そこまで心配することないよ。奈緒さんとしても魔法少女としての君に興味津々でねぇ。命の危険になるようなことは一切しないとも」


 それに、大人しくしておけばすぐに退院できるようになるよ? と、さらに告げる奈緒。

 その言葉で秋葉は正気に戻るとともに、本当に大丈夫なのか、と逆に不安を抱く。

 言葉尻こそ優しいが、顔はどこまでも実験動物を見るように爛々と輝いていたから。


 秋葉の警戒した様子に、奈緒はことさら残念そうな雰囲気を出す。


「おやおや、この奈緒さんが信用できない? まぁ、当然だね」

「いや、自分で認めるのかよ!」


 奈緒が発した言葉を受けて、思わず突っ込んでしまう秋葉。

 しかし、それで骨に響いたのか、彼女は顔をしかめてうずくまる。

 そんな彼女を見て奈緒は一つのビンを取り出すと彼女へ差し出す。


「あらら、大変だ。……では秋葉くん、これを飲みたまえ。瞬く間――とまではいかないけど、二、三日で身体の調子が良くなるよ」

「……これ、は?」


 いかにも怪しすぎるビンに警戒をあらわにする秋葉。

 そんな彼女に奈緒はビンの中身について説明する。


「これの中には治療用のナノマシンが入ってるんだよ。……あぁ、あと安心して良いよ。()()は治療完了したあと、老廃物や排泄物として体外に排出されるからねぇ」


 説明を聞いた秋葉は排泄物のくだりで顔を赤らめる。

 流石に他の人がいるところで説明する内容じゃない、とデリカシーのなさを感じて、だ。

 しかし、それはそれとして。奈緒の言うことが真実だった場合、彼女にとってかなり魅力的な提案だ。

 なにせ、普通に治療するならどんなに短くとも全治一ヶ月。下手すればそれ以上に掛かる時間を三日に短縮できるのだ。

 それだけ早く治ればリハビリなども必要なく、すぐに戦線復帰、親友の春菜を探せるのだから。

 奈緒が持っているビンを凝視する秋葉。

 そして意を決した秋葉は、彼女からビンを奪い取ると――。


「……女は度胸!」


 彼女はビンの蓋を取ると、一息の飲み干す。

 彼女が飲み干したことを確認した奈緒は、さも今思い出したとばかりに、秋葉に一つ、追加情報を告げる。


「あぁ、そうそう。そういえば――」

「……な、なんだよ?」

「それ、身体を治療する間、身体がすごく痒くなるが、まぁ、必要経費だと思って我慢してくれたまえよ」


 彼女が告げるとともに、確かに秋葉は全身に痒みが襲ってきたのを感じる。


「そ、それを先に――! か、痒い。痒いぃぃぃぃぃぃぃ――――!!」


 彼女は全身に感じる痒さに、のたうちまわるのであった。






 秋葉の全身に痒みが襲ったしばらくあと、彼女はぜぇぜぇ、と息を切らしながら奈緒を睨み付けていた。


「ひ、酷い目に遭った……。まだ、痒い……」

「大丈夫?」

「は、はい。なんとか……」


 秋葉へ心配そうに声をかける渚。

 そんな彼女へ、秋葉は上気し、妙に色気を感じさせる表情を浮かべながら返事する。

 その二人の様子を楽しそうに見つめる奈緒。

 霞は、楽しそうな奈緒を見て、冷たい視線を彼女へ向けていた。


「おやおや、そんな視線で奈緒さんを見るなんて。お母さん、悲しいよ?」

「あまり勝手なこと言わないでください」

「やれやれ……」


 冷たく突き放す霞に、奈緒は心外だ。とばかりに肩をすくめる。

 そして、ひとしきり堪能した奈緒は、ここからは真面目な話。と、秋葉に話しかける。


「さて、秋葉くん?」

「……なんだよ?」


 話しかけてきた奈緒に不機嫌な様子を隠さない秋葉。

 そんな彼女の様子に、くつくつ笑いながら奈緒は話す。


「まぁまぁ、そんな不貞腐れないでくれたまえよ。……先ほども言ったように全身の骨に入っているヒビは三日もあれば治療は終わるけど、その後どうするんだい?」

「その後? そんなの決まってる!」

「親友を探す、かい?」

「なんで、あんたがそれを?」


 奈緒が自身の思っていることを口走り、ふたたび警戒心がわき起こる秋葉。

 そんな彼女が抱く疑問に答えることなく、奈緒は一つのUSBメモリを彼女へ渡す。

 それを受け取った彼女は、疑問符を浮かべながら問いかける。


「これは……?」

「なぁに、ちょっとした贈り物、さ。退院した後にでも見てみると良い。むろん、危険がないか、解析しても問題ないよ?」

「……ふん」


 奈緒が発した軽い調子の言葉に鼻を鳴らす秋葉。そんな彼女を見て、奈緒は楽しそうに笑うのだった。

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