予想外の援軍
オーラムリーフの前に現れた三体の怪人たち。彼らは彼女を取り囲むように、じりじり、じりじりと間合いを詰め寄っていく。
その動きにオーラムリーフは舌打ちをしながら、油断なく辺りを見回し警戒する。
だが、それでもやはり三方別の位置から動かれるとどうしても隙ができる。
どこから来る? 前か? それとも横か?
冷や汗を流すオーラムリーフ。彼女の汗がぽたり、と地面に落ちた時――。
「……来るか!」
怪人たちは動き出す。
「これでも、食らえぃ!」
初撃はサモバットの熱光線だ!
彼女はそれに身を翻すことで躱す。しかし、それを待っていたかのように、次の攻撃がもたらされる。
「掛かったなぁ!」
「これで、終わりよ!」
それぞれ、左右からガスパイダーは糸を、エレキクラーゲンは触腕を伸ばしてくる。
「しまった……!」
熱光線を回避し、まだ体勢を立て直せていなかった彼女の身体に触腕と糸が絡み付く。
「ぐっ、この……。ひぁっ……!」
力付くで振りほどこうとしたオーラムリーフ。しかし、糸はともかく、触腕の生暖かい感触が彼女の敏感な部分に触れ、思わず変な声をあげてしまう。
「この、変態!」
頬を赤らめてエレキクラーゲンを罵倒するオーラムリーフ。だが、そのエレキクラーゲンが意を介さず――。
「ふん、乳臭いガキが一丁前に」
と、逆にオーラムリーフをバカにしてみせる。そのことに今度は別の意味で頬を赤らめる彼女。
「アタシを、舐めんなぁ――!」
怒髪天を衝く、とばかりに炎が噴き荒れる。……比喩ではなく、実際に彼女を中心に炎が燃え広がっていたのだ。
まさか、そのようや自爆行為を行うなどと思っていなかった二人の怪人は面食らう。
「なんと……!」
「ぐ、ああああ――!」
まだ糸で拘束していたガスパイダーはましだった。いくら糸に火が燃え移ろうとも、その糸自体を切り離せば被害は起きないのだから。
しかし、エレキクラーゲンは違う。彼の触腕は文字通り身体の一部。痛みも感じるし、触覚もある。それが燃やされたらどうなるか……。
「が、ぁ……。は、はやく放さなければ――」
文字通り、身体を直接火で焙られているのだ。その被害は尋常なものではなかった。
慌ててオーラムリーフから触腕を放すエレキクラーゲン。その触腕は炎で燃やされ、完全に焼き爛れていた。
「おのれ、おのれぇぇぇぇぇぇ!」
格下だと思っていたヒロインから受けた予想外の痛手。そのことに激昂するエレキクラーゲン。
一方、オーラムリーフは炎とともに怒りも吐き出されたのか幾分冷静さを取り戻していた。
「とりあえず拘束から逃れられたけど……」
解放されたことに安堵しながらも、苦い顔を浮かべるオーラムリーフ。
それはそうだ。あくまで解放されただけで怪人の数が減った訳ではない。言うなれば振り出しに戻っただけでしかなかった。
「くそ、このままじゃ……」
バトロイドたち相手ならどうにかなった。奴らはいわば戦闘員、イマジンの魔物たちと同格、もしくは格下だった。
しかし、怪人となると勝手が違う。
そもそもレッドルビーやブルーサファイア、レオーネが軽く倒すことから勘違いされがちだが、彼らは個体ごとに特殊能力を持ち、バトロイドを圧倒する身体能力を持つ上級個体なのだ。
実際、再強化されたガスパイダー、サモバット相手に一時期レッドルビー、ブルーサファイアが苦戦したことからもそれが分かる。
そんな奴らを相手に数的不利を強いられている。それがどれだけまずいことか分かる筈だ。
むろん、バベル怪人が現れたことはバルドル本部も把握している筈。
しかし、だからといってすぐに援軍が来れるとは限らない。なにせ、怪人が暴れている場所がここだけとは限らないのだ。
援軍が来るのは十分後か、一時間後か。オーラムリーフはそれまで耐え忍ばなければならない。しかし、それが本当に可能なのか?
それは、彼女の額に流れる汗が物語っているだろう。
……ほぼ不可能に近い。しかし、だからといって諦めるわけにはいかない。彼女の後ろには守るべき人が、歩夢がいるのだ。ならば、たとえ成功確率がゼロに等しくても為すしかない。一縷の望みをかけて。
彼女は心の底にある不安を振り払うように不適な笑みを浮かべる。
それが、それこそが彼女の憧れた英雄。たとえ敗れることになっても最後まで足掻いてみせる。大切な、守るべき人々を守るために。
……否、始めから気持ちで負けていたら、勝てる戦いでも勝てなくなる。ならば、彼女に出来ること、それは――。
「はっ……、あんま、アタシを舐めるなよ? このくらい乗り越えてやるさ!」
たとえ空元気であっても元気は元気。重要なのは自分が勝つ、と信じること。
だからこそ、彼女は怪人たち相手に啖呵を切る。戦いに、何より気持ちで負けないために。
その心意気が通じたのか、どこからともなく声が聞こえてくる。
「――良く言ったわ」
「なにも――ぐわぁっ!」
聞こえてきた声に反応したサモバット。しかし直後、どこからともなく現れた人影に痛烈な蹴りを浴びせられる。
そのままサモバットはガスパイダーのもとまで吹き飛ばされた。
サモバットが吹き飛ばされたことに驚き、下手人を見るガスパイダー。そこで彼は、蜘蛛の顔ゆえ判りづらいが驚きの表情を浮かべる。
「貴様はあの時の……!」
ガスパイダーが驚きの目で見つめる人物。それは――。
「悪いが、この娘をやらせるわけにはいかないんだ。邪魔させてもらうよ?」
「……だれ?」
オーラムリーフは自身を助けた人物に心当たりがなく、思わず不思議そうな声をあげる。
彼女の視線の先。そこにはフード付きの外套で全身を隠しながら、それでも見える腕にレッドルビーのPDCに似たものを装着している人物。
かつて、盛周がブルーサファイア。霞を捕獲する際、味方した筈の謎の戦士の姿があった。
彼女はどこか聞き覚えのある声でオーラムリーフへ話しかける。
「貴女、まだ戦える?」
「え? お、おう。まだまだやれるぜ!」
彼女の問いかけに、吃りながらも元気に答えるオーラムリーフ。
その返答に満足げに頷くと彼女は――。
「ならわたしはガスパイダーとサモバットを相手にする。だからキミはエレキクラーゲンをお願い」
そこまで告げると、彼女はぐっ、と身体を沈みこませ脚に力をこめると宣言通り二人の怪人に突撃。
「はぁっ――!!」
「き、きさま……!」
そのまま二人を吹き飛ばしながらこの場を離れていく。
それを見送ったオーラムリーフは……。
「なんなんだよ、一体!」
目まぐるしく変わる状況に苛立ちながら、同時に一対一の好機を逃さないために奮起する。
「今度はさっきのようには行かねぇぞ!」
「ほざけ、小娘がぁ!」
そして、再びヒロインと怪人は激突するのだった。