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ブラックボックス

 千草たちが盛周や渚のことについて悩んでいた頃、当の本人たちの一人。盛周はというと――。


「すまんな、楓。不満はあると思うが、あの時はあれが最善だった」

「……いえ、大首領がおっしゃるなら私は」

「そうもいかんさ。きちんと筋を通す必要はあるし、何よりお前のことはちゃんと、他の者たちと同じように頼りにしてるのだから、な」

「――はっ!」


 いつも、四天王たちと会合している会議室。そこにレオーネ以外の四天王と集まり、今回のことを話し合っていた。

 それにともない盛周は自身の正面に座っている楓に謝罪と、頼りにしている旨を伝えたのだ。

 そのことを伝えられた楓は表情こそ済ましているが、内心彼に頼られたのが嬉しいのか、心踊らせているように見える。


「良かったわね、楓」

「朱音さま。……はい!」


 そんな彼女に祝いの言葉を掛ける朱音。それに触発されて楓の顔はついに破顔する。

 実質的な組織のNo.1とNo.2。二人に認められたことが彼女の自尊心。何より忠誠心を刺激したのだ。

 満面の笑みを浮かべる楓を見て優しく微笑む奈緒。彼女もやはり楓が四天王に抜擢された際、教育係に任命された縁で、なにかと気に掛けていた部分もあることから、彼女が認められた、というのは世話していた子供が認められたように嬉しいのだろう。

 もっとも、当の楓からすると、喜んでもらえるのは嬉しいが、それ以上に奇行をもう少し抑えてほしい。というのが、毎回尻拭いをしている彼女からすれば本音だろうが……。


「何だか嬉しそうね、奈緒」

「まぁ、私。奈緒さんとしても楓くんが褒められると鼻が高くなるからねぇ」

「なに、それ?」


 そう言いながら誇らしく胸を張る奈緒に対して、朱音はくすくすと笑う。

 そして楓は、やはり奈緒に認められたことについても思うところがあるのか、少々涙ぐんでいた。彼女にとっても、良く振り回されるということはあっても、やはり指導してもらった恩師に認められる、というのは一番の好材料だった。


 そんな三人のやり取りをどこか肩身狭そうに見つめる盛周。やはり、女性が多いこの場で男一人というのは堪えているようだった。

 しかも、それがタイプが違う美人ばかりだからなおさらだ。

 朱音は言わずもがな、キャリアウーマン的な出来る女の体現として。楓は見た目だけならその筋の人間に姐御、と慕われそうな女傑。奈緒は、性格を知らなければ朱音とはタイプが違うクールビューティー。

 これとは別に見た目ミステリアスな美少女(レオーネ)までいるのだから、遠目に見るのなら眼福ものだ。しかも、四人の内三人は己に対して好意的、というのもある。

 もっとも、それ故に盛周としても彼女たちの期待を裏切らないように、と気を張り巡らしているわけだが……。


 そんなことは脇に置いておくとしても、やはり盛周としても男としての意地がある。それなのに見目麗しい女性たちに格好悪い姿をみせるのは、何よりも防ぎたいことでもあった。


「さて、そろそろ良いかな?」


 故に盛周は、その心を気取られぬように彼女たちへ声をかける。

 彼の言葉に反応して全員が彼の方を向く。彼女らがこちらに向いたのを確認した盛周は、改めて今後のことについて話し合おうと口を開く。


「それで博士。念のためブルーサファイアの強化について情報共有してもらって良いかな?」

「了解、了解。それで強化についてだね――」


 そして彼女は自身が彼女へ施した強化について話し出す。


 ――彼女のパワードスーツに搭載したPDC擬きによるバリア機構。

 ――パワードスーツのアシスト機能の最適化、並びに素材の強化。

 ――彼女自身の投与したナノマシンによる擬似的な成長、超回復の付与。

 ――ブルーコメットの改良。主な点で言えば耐性強化、メンテナンスフリー性の向上。


 それらをつらつらと上げていく奈緒。

 それを聞いて楓は目の前が真っ暗になる思いだった。

 一言でいって強化しすぎだ。と叫びたくなっていた。

 実際、実働部隊の彼女がもっとも被害を被るのだから、言わずもがな、といったところだ。

 そんな楓を気の毒そうに見る朱音と盛周。

 どこまでいっても奈緒に振り回される苦労人体質に、二人は心底同情していた。

 そんな三人の思いに気付かず、奈緒はさらに話を続ける。


「まぁ一部の、PDC擬きなんかはブラックオニキスにも搭載されてるし、ある意味性能テスト的な意味合いはあるよね」

「……は?」


 奈緒のとんでもないぶっちゃけに目が点になる楓。そんな彼女の反応を楽しむがごとく、奈緒はさらなる話を続ける。


「一応、まだバレてないみたいだし。ブルーサファイアに搭載したPDC擬きには、定期的に暗号化した実践データを送るようにプログラミングしてるんだよねぇ……」

「……いや、してるんだよねぇ。じゃありませんよ奈緒。何やらかしてるんですか?!」


 さすがに聞き捨てならなかったようで、奈緒に対して驚きながら突っ込みを入れる朱音。

 逆に楓は、やっぱり問題行動を起こしてた。と、いわんばかりに胃の辺りを抑えて机に突っ伏している。

 そんな二人の反応を見て、けらけら笑っている奈緒。

 盛周も頭が痛むのか、額を抑えているが、それでも、奈緒なら勝算もなしにこんな行動は起こさないだろう。と、内心で自身に言い聞かせて彼女へ話しかける。


「……とりあえずその件に関しては後で詳しく、本当に詳しく聞かせてもらうとして。博士、怪人の方については?」

「あぁ、そっち?」


 そう言いながら、困った。と言いたげな表情を浮かべる奈緒。そして彼女は、まず今回の被害について報告する。


「ブルーサファイアに撃破されたシャークマーについては問題ないかな? ……一応、ちゃんとブラックボックスの方も回収できたわけだし。問題はそう、ロブラスターの方だよ」

「ロブラスターと言えば……。レッドルビーと交戦して、最後にはサイコバスターで撃破されたんだったな」


 奈緒が話題に出したロブラスター。それに盛周はバルドルと交戦、そして最期を思い出して呟く。

 その事に同意するように奈緒は首肯すると――。


「そう、それ! それが問題なんだよ。あの娘、ブラックボックスごと綺麗さっぱり消し飛ばしてくれたから……」

「……まさか、再生は不可能、と?」

「いや、そっちは問題ないんだよ。うん、そっちは」


 ロブラスターはバベル新生後始めて産み出された怪人であり、同時に初めて人間ベースではなくブラックボックスを核とした怪人だ。

 そのことでブラックボックスが失われたことで再生が不可能になったのか、と戦々恐々としていた盛周だが、奈緒のあっけらかんとした態度に梯子を外されずっこける。

 そんな盛周を尻目に、奈緒は話を進める。


「ブラックボックスのデータ自体は、基地内部に保管してあるサーバーに随時転送してるから、そちらは問題ないんだよ。ただねぇ……」


 そう言いながら奈緒は心底困った、と言いたげに頬へ手を当てる。


「……ただ、ブラックボックス自体が生産、構築にそれなりのコストがかかるから、どうしても再生させるのは後回しにせざるを得ないかなぁ」

「あぁ、そういう……」


 奈緒が発した言葉で真意を察した盛周は、なんともいえない、微妙な表情を浮かべる。

 いくらシナル・コーポレーションが順調に経営を伸ばしているとはいえ、未だ無駄使い出来るほど資金が潤沢にあるわけではない。

 急に世知辛い現実を見せつけられた盛周としても、そんな表情を浮かべるのはある意味必然だった。

 なお、シナル・コーポレーションの代表である朱音からしても奈緒の言及は妥当であり、渋い表情ながらもうんうん、と頷いている。


「まぁ、そんな訳でロブラスターについては後回しにせざるを得ないね。今後、ロールアウトする怪人たちのスケジュールもあるし」

「……ふむ、ある程度目処は立ってるのか?」


 奈緒から発せられた興味深い話題に盛周は食らいつく。

 そんな彼に、奈緒は簡単な説明をする。


「そうだね、以前強化サモバットで装備の実験データが取れたことで開発可能になったカメンリザード。それと近々完成予定のエレキクラーゲンがロールアウト予定、かな?」

「ほう、二体も一気に、か」

「うん、まぁ、二体ともそこまで……。いや、カメンリザードは特殊な装備を使ってるけど、それでも、そこまで製作難度が高い訳じゃなかったしねぇ」


 感心する盛周に対して、奈緒はこともなげに告げる。

 彼女の言葉を聞いた盛周は、次に楓の方に向くと。


「それならば楓、次は君の仕事だ。博士から完成予定の怪人の性能を聞いて襲撃計画を立てること、良いね?」


 そう彼女に向かって指示を出す。そのことに彼女もまた襟を正すと――。


「はっ、お任せください。大首領!」


 そう、意気揚々と告げるのだった。

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