不完全な決着
偶然、というには趣味が悪い。と感じる四天王同士の潰し合い。もっとも、それを行っている気になっていたのは楓、ブラックオニキスだけだが……。
ともかく、その戦いに於いてオニキスはレオーネに痛撃を与え、追い詰めることに成功していた。
そして彼女は、レオーネに対して殺すつもりはないにしても、しばらく邪魔できないようにトドメを刺そうと近づいていく。
しかし、そんな時。彼女のパワードスーツに通信が入る。
こんな時に誰だ。また奈緒さま辺りだろうか?
楓は面倒くさそうに顔を歪ませながら通信に出る。
「……こちら、ブラックオニキス」
『聞こえるか、ブラックオニキス。そろそろ頃合いだ、撤退しろ』
「……大首領?!」
まさか、通信の主が大首領。盛周だとは思わず素っ頓狂な声を上げるオニキス。
しかも、彼の命令は撤退。確かに部下たちは敗れたようだが、自身はレオーネに大打撃を与え、なおかつまだ戦闘続行は可能だ。
そんな状況で撤退するなど……!
盛周の命令を不服と感じた楓は意見具申する。
「大首領、私はまだ戦えます! このままヒロインたちも血祭りにあげてみせます。どうか再考を!」
その言葉が聞こえた盛周は少しの間沈黙する。が、それでも彼の結論は変わらなかった。
『ならん、ここは撤退しろ』
「ですが――!」
『……それとも、俺の命令が聞けない、と?』
通信越しに聞こえる盛周の不機嫌そうな声。それに聞いた楓は、これ以上盛周に不興を買うのはまずい。と、内心納得していないが盛周の指示に従う返事をする。
「……了解、しました。これより撤退します」
それだけ告げるとオニキス、楓は通信を切る。
通信を切った彼女はレオーネを見る。
未だに彼女の動きは緩慢だが、目だけは油断なくこちらを見つめている。
それは、こちらが少しでもおかしな動き、もしくは隙をみせれば食い破ろうという意思が見て取れた。
そんな彼女を見てため息をつくオニキス。
ここで時間を掛ければ掛けるほど、ルビーやサファイアが合流してくる可能性が高い。
ならば、すぐに撤退すべき。そう判断したオニキスは――。
「……いずれ、決着をつける」
そう捨て台詞の残して跳躍。廃工場の屋上を伝い去っていく。
オニキス、楓の急な方針転換。並びに先ほど行っていた通信から、大首領。盛周の指示を受けて撤退したことを察するレオーネ。
「痛てて……、ご主人さまに助けられちゃった、かな?」
オニキスから受けたダメージによる身体の痛みと、盛周に助けられた気恥ずかしさから顔を歪めるレオーネ。
そんな彼女のもとへサファイアと、彼女に支えられたルビーがやってくる。
「レオーネさん! 無事ですか?!」
「うん、ボクは大丈夫――。……というよりも、ルビーちゃんの方が大丈夫なの?」
サファイアの心配に大丈夫と答えたレオーネだが、彼女に支えられたルビーを見て、逆に心配し始める。
それも仕方ない。ルビー、彼女の顔は真っ青になり、今にも意識を失いそうなほど憔悴していたのだから。
それでもルビーは心配を掛けまい、と気丈に返事をする。
「だ、大丈夫です。わたし、は――。う、ぐ――」
しかし、実際に返事をするのは厳しかったようで、どうやら再び吐き気を催したのか、慌てた様子で口を抑える。
それを心配そうに見つめるサファイア。
「あまり無理をしてはダメですよ、ルビー」
「わかって、る……。でも――」
「でも、じゃありません。ともかく、一度基地に戻りましょう。レオーネさんもそれでよろしいですか?」
「うん……。まぁ、目的は達成してる訳だから、ね」
サファイアの提案に同意するレオーネ。
レオーネの同意を聞き、サファイアはホッとした表情をみせる。
そして彼女は未だに痛みで座っているレオーネと、隣で肩を貸しているルビーを見て一言。
「……二人とも、来てくれてありがとうございます」
そう、小さく呟くのだった。