盛周の懸念
バルドル側のヒロインとバベルの怪人たちが死闘を繰り広げていた頃、盛周はアジト内の私室で朱音とともに一部始終の確認を行っていた。
モニターに映し出された戦闘画面はちょうどシャークマーがブルーサファイアに、そしてロブラスターがレッドルビーに撃破された場面だった。
「ふ、む……。潮時、か? しかし……」
モニターで確認していた盛周は、考え込みながら独りごちる。
そんな彼に、朱音は心配そうな表情で語りかける。
「何か、問題でもありましたか。盛周さま?」
「ああ、いや……」
朱音の質問に口ごもりながらも盛周はモニターに写されている映像の一部を指差す。それは、ロブラスターを撃破後、踞って明らかに様子がおかしいレッドルビーの姿が映し出されていた。
彼女の姿を見た朱音もまた、盛周が危惧していることについて得心したのか、なるほど。と頷いている。
「……確か、報告では先代さまの真実を知って、意識を失っていたのでしたね」
そう吐き捨てるようにレッドルビーについて語る朱音。
その声色には侮蔑が、今さら何を言っているのか。という蔑みの色が強くこもっていた。
そんな朱音の声を聞いて、盛周は彼女に気付かれないように嘆息する。
彼女や奈緒が盛周の父親たる先代大首領に心酔しているのは理解している、が……。
(それで視野狭窄になられても困るんだがなぁ……)
頭の中で愚痴をこぼしつつ悩む盛周。
どうにも四天王の二人、壊滅以前からバベルで大幹部として働いていた彼女らは、先代を絶対視しているきらいがある。
それ故にどうしても――ブルーサファイアはまだましだが――レッドルビー、渚に対しての当たりが強い。
まぁ、実際。今は敵対関係なので問題にはならないが――。
(それでも、今後は彼女らと共闘する可能性は十分にある。その時、こんな調子では……)
そも、今後現れるであろう敵対勢力。それの戦力が分からない状態で人類、地球勢力が内ゲバをやっている余裕があるとは思えない。
そのためにも、たとえ敵対しているヒロインであっても、少しは心配してほしいのだが……。というのは無理な話だというのは理解している。
むしろ、本当に朱音がそんなことを始めたら博愛主義に目覚めた、というよりも頭の心配をするべき事態だ。
そういった意味では盛周は、自身こそがおかしい。というのは自覚している。しかし――。
「まぁ、あれがただ単に起きたばかりで身体が不調。というのならばまだいいのだが、な」
「そうじゃない、と?」
盛周の呟きに、不思議そうな顔をして問いかける朱音。
そんな彼女に、盛周は自身が懸念していることを話す。
「もし、あれが何らかの心的外傷の結果ならば。多少面倒くさいことになりかねん。そう思っただけだ」
「それは、もしかして……」
盛周の迂遠な言い方に朱音は一つ、もしかしたら。という考えが浮かび、そのことを盛周に問いかける。
「もしや、レッドルビーが戦えなくなっているかもしれない、と……?」
その問いかけに、盛周は声を出さず首肯することで答える。
そんな盛周の様子に、頭を抱えたくなる朱音。
もし、盛周の危惧通りとなると、今進んでいる計画を大幅に修正することを余儀なくされるからだ。
そう考えると、盛周がレッドルビーを注視していたことにも納得がいく朱音。
「なるほど、ならこちらでも出来ることを進めておきましょう」
「あぁ、頼む」
事態を正しく理解した朱音は、自身が出来そうなことについて素早く思考内でピックアップすると、そのために必要な部分への対応をすることを盛周に告げる。
その言に盛周も、改めて朱音のことを頼もしく思いつつ、彼女へ任せる。
その言葉を聞いた朱音は、早速とばかりに行動を開始すべく部屋から退室する。
それを見送った盛周もまた己が出来る行動を――。
とりあえず直近で出来る行動としては……。
モニター近くに設置されている機械を操作して、盛周は楓に、ブラックオニキスへ通信を接続させる。
「聞こえるか、ブラックオニキス。そろそろ頃合いだ、撤退しろ」
そして彼女へ、撤退の指示を告げるのだった。