決着、シャークマー
一時期はサファイアを追い詰める直前まで至ったオニキスや怪人たち。しかし、レオーネとレッドルビーが救援に現れたことにより、状況は振り出しに戻っていた。
奇しくもバベル側、バルドル側ともに戦力が三人だったため一対一の戦いが三つ起きていた。
一つ目はオニキスとレオーネの戦い。二つ目はレッドルビーとロブラスターの戦い。そして、三つ目は――。
「はぁっ――!」
サファイアは目の前にいる怪人、シャークマーに大剣を打ち込む。
それに対してシャークマーは硬質化したヒレで迎撃。
大剣とヒレが激突することで火花が散る。
「ぬぅおぉぉぉぉっ――!」
シャークマーは気合いを入れると先ほどのように大剣を弾こうとする。
しかし、同じ失敗をするほどサファイアも間抜けではなかった。
「――甘い!」
サファイアは自ら大剣を掲げ、なおかつくるりと回りつつ大剣を横薙ぎに振るう。
彼女の攻撃は力を入れていたために、サファイアが自ら大剣を掲げたためバランスを崩していたシャークマーのもとへ――。
「舐、めるなァァァァァァァ!」
シャークマーは回避できないと判断すると胴と大剣の間に自らの腕を差し込み盾とする。
「ぐ、あぁぁぁ――」
シャークマーの腕に食い込む大剣。しかし、切断することなく中途半端な部分で止まる。
結果的に攻撃自体は失敗したことから大剣を引き抜こうとするサファイア。しかし――。
「……っ、抜け、ない――!」
――腕に食い込んだ大剣が抜けない。否、シャークマーが腕に力を込めることで擬似的な万力に見立てていた。
「これでもう使えまい!」
大剣と化したブルーコメットを無力化した、と鼻高々になるシャークマー。しかし、それはあまりにも浅はかな考えだった。
「……なら!」
サファイアは即座にブルーコメットを別形態、初期の形態である棍に変形させる。
そのことにより、食い込んでいた刃の部分が液状化し、再び結合。棍になる。
……ブルーコメットの兵装としての名前を覚えているだろうか?
――対レッドルビー用流体変形兵装ブルーコメット。それがブルーコメットの正式名称だ。
そう、流体という名前からも分かるように、本来のブルーコメットは液体金属とナノマシンの集合体。
万力で固体を固定するならともかく、液体を固定できる訳がない。
故にシャークマーの行動は片腕を盾とした以上の意味はなく、無意味、とまではいかないが、こと今回のことでいえば最悪のことを防いだ以上の効果はなかった。
そして片腕を負傷したということは、つまり手数が減るという意味もある訳で……。
「今度こそ仕留めるっ!」
棍から双剣に変化させたサファイアは、怒涛の連撃をシャークマーに仕掛ける。
それを迎撃しようとするシャークマーではあるが……。
「ぐ、おのれ。――がぁっ!」
双剣の連撃を片腕で防げる訳がなかった。仮に片方を防いだとしても、その間にもう片方の剣がシャークマーの身体を切りつける。
武器を吹き飛ばすことを優先しても、片方だけ吹き飛ばしたところで、そちらを液状化し、もう片方の剣に集め、再び双剣に変形させる。
そうすることによってわずかに、本当にわずかであるがシャークマーの手傷が増えていく。
サファイアの嫌らしい攻撃に怒りを覚えるシャークマー。
「しゃああああああああああああ――!」
シャークマーは自らの肉体が傷つくのも厭わず、無理やり攻勢にでる。……それがサファイアの狙いだとも気付かずに。
シャークマーの力がこもった渾身の一撃は、悠々とサファイアに回避され、地面に突き刺さる。さらには……。
「せぇぇぇぇぇいっ!」
「ぐ、が、あ……。俺の、俺の腕がぁ……!」
サファイアは双剣をハサミのように使い、地面に突き刺さった腕の関節部分を切り裂く。
その結果、切り裂かれた腕は関節部分を境に両断され使い物にならなくなった。
即ちシャークマーは両腕を完全に無力化されてしまったのだ。
そして、その好機を見逃すほどサファイアは甘くなかった。
「……このタイミングで!」
彼女は両腕を無力化できた時点で二丁拳銃に変え、今度は両足を撃ち抜く。
「う、ご……!」
両足を撃ち抜かれたシャークマーは、サメの顔ゆえ分かりづらいが苦悶の表情を浮かべる。しかし、これでサファイアの攻撃は終わりではなかった。むしろ、この攻撃はあくまでも本命のための繋ぎ。
彼女はコメットを再び大剣に変形させると……。
「――スラッシュ!」
自らのエネルギーすらも注ぎ込んで袈裟斬りを放つ!
その目標となったシャークマーは腕を失ったことで防御できず、脚を撃ち抜かれたことで回避も出来ない。完全なる詰みであった。
「ぬぅおぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
断末魔の叫びとともに一刀両断されるシャークマー。
「が、ぁ……。だ、大首領に栄光あれぇ――!」
その最後の言葉とともに大爆発を起こすシャークマー。
シャークマーを倒したサファイアは……。
「ぐっ……。――待ってて、ルビー。今行くから」
これまでの逃亡、戦闘によるダメージでふらつきながらも他の仲間。ルビーに加勢するため、自らの身体に鞭打つのであった。